月岡家の邸宅。朔弥は紗月を部屋まで送り届ける途中、その穏やかな横顔を見つめながら、そっと彼女を腕の中へ引き寄せた。熱い吐息が紗月の頬をかすめた。「紗月、今回は少し急すぎるって分かってる。でも安心して。準備は俺がきちんと進める。絶対に君に辛い思いはさせないから」そう言うと、朔弥は彼女の前で片膝をついた。手にした上品なジュエリーケースを開くと、中には美しいダイヤモンドリングが収められている。「俺と結婚してくれないか?一生、君を守らせてほしい」紗月は、自分の前に片膝をつく穏やかで紳士的な男を見つめ、その目にわずかな迷いが浮かんだ。その二人からそう遠くない場所では、恐ろしいほど鋭い視線が、じっと二人に注がれていた。その視線の主は、今にも怒りを爆発させそうになっている。「……うん」紗月はわずかに唇を開き、朔弥に左手を差し出した。朔弥は自らダイヤモンドリングを紗月の指にはめると、その手の甲にそっと口づけた。けれど、なぜなのか。紗月の胸には、ふと寂しさが広がっていった。自分はもうすぐ結婚する。美しい街、ラヴェンヌで。それなのに――どうして少しも嬉しくないのだろう。……朔弥は紗月を部屋の前まで送り届けると、そのまま立ち去った。紗月が部屋へ入った直後、黒い人影が突然彼女を抱きすくめ、そのままドアに強く押しつけた。紗月の瞳に動揺が走る。声を上げようとした瞬間、男は素早く彼女の口を手で塞ぎ、顔を覗き込んだ。「俺だ、紗月」征士郎の声は震えていた。腕の中にいる愛する人を見つめながら、心臓は激しく高鳴っていた。薄暗い室内では、紗月には目の前の男が誰なのかまったく分からなかった。手術によって腫瘍は取り除かれ、病状も安定していたものの、視力障害は後遺症として残っていた。そのため、暗い場所や遠くにあるものは、今もはっきりと見ることができなかった。「んっ……」紗月は必死に身をよじって抵抗し、口を塞いでいる男の手に思い切り噛みついた。それでも男はびくともせず、抵抗することなく、好きなだけ噛ませていた。やがて紗月の口の中に血の味が広がる。男の胸元に体を預け、そこから伝わってくる力強く規則正しい鼓動を聞いた瞬間、なぜか体が固まった。「紗月……」征士郎は何度も何度も彼女の名を呼びながら、空いているも
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