雫は征士郎がいつまで経っても自分に目を向けようとしないのを見て、彼のそばまで歩み寄り、白く細い手を差し出した。「征士郎さん、はじめまして」征士郎は冷ややかに彼女を見た。「俺がどんな男か知ってるか?」「え?」雫が戸惑ったその瞬間、征士郎は突然一歩距離を詰め、彼女を見据えながら一言ずつ告げた。「俺には妻がいる。別の女のために、自分の妻を死ぬところまで追い詰めた。そして結局、その女も捨てた。それから、世間には知られていないが――俺は人を痛めつけるのが好きなんだ」雫は信じられないという顔で彼を見つめ、瞳を揺らした。男の眼差しは刃のように鋭く、彼女の目にはたちまち涙が浮かぶ。征士郎についての悪評は、自分も以前からネットで目にしていた。ただ兄からは、あれはすべて事実無根で、征士郎の妻は病気で亡くなっただけだと聞かされていたのだ。「馬鹿者、何をでたらめなことを言っている!雫、怖がらなくていい。こいつはお前を脅かしているだけだ」宗一郎が慌てて取り繕った。ところが征士郎はさらに雫へ近づき、意地の悪い笑みを浮かべると、長い指でシャツのボタンを外し始めた。「試してみるか、榊原さん?」雫はそのあまりにも不埒な振る舞いを目にし、以前報道されていた「夜中に女性に迫って警察に連行された」という一件を思い出した。恐怖に駆られ、そのまま病室から逃げ出していく。こんな男とは絶対に結婚したくない。この人は狂っている。とんでもない男だ。征士郎は逃げていく彼女を見送りながら、外したシャツのボタンを留め直し、ぽつりと呟いた。「おじいちゃん、ほらな。こんな俺を本気で好きになってくれたのは、紗月くらいなんだ」宗一郎は信じられない思いで征士郎を見つめた。これは本当に自分の孫なのか。紗月が生きていると征士郎から聞いたとき、きっと以前の征士郎に戻ってくれると思っていた。だが今の姿を見る限り、立ち直るどころか、人間そのものがすっかり変わってしまっている。かつての征士郎は落ち着きがあり、感情を表に出さない男だった。周囲にいくら女が寄ってきても、誰か一人のために取り乱したことなど一度もなかった。だが、今は違う。世間からどれほど悪しざまに罵られようと気にも留めず、まともに生きようとさえしなくなってしまった。「征士郎、少しは清野家
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