レストランで、朔弥は紗月の青ざめた顔色を見つめていた。彼女が自分に何か言いたげなのは分かっていたが、あえて分からないふりをして席を立つ。「ちょっと手洗いに行ってくる」紗月は小さく頷いた。洗面台まで来た朔弥は、ふと自分の手を見て、掌に乾いた血が付いていることに気づいた。その瞬間、朔弥の表情が一変した。慌てて紗月のもとへ戻ると、朔弥はその手を取った。掌には、爪を強く食い込ませた跡がいくつも残っていた。朔弥の目が一気に赤くなる。彼は紗月を洗面台まで連れていき、傷口についた血を流水でそっと洗い流した。「どうして、こんなになるまで手を握りしめてたんだ?」その声には、わずかな怒りが滲んでいた。紗月の血の気の薄い唇がかすかに開く。「違うの。私はただ……」ただ、何にすがればいいのか分からなかった。胸の奥に押し寄せる苦しさを、どうやって抑えればいいのか分からなかっただけなのだ。朔弥は眉間に深い皺を寄せた。彼は紗月の穏やかな顔をじっと見つめると、その手の甲にそっと口づけた。長い沈黙の末、ようやく口を開く。「……訴えを取り下げるよ」結局のところ、彼は紗月が苦しむ姿など見たくなかった。……午後の審理は行われなかった。紗月側が訴えを取り下げる意思を示し、征士郎側もそれに同意したからだ。朔弥は必要な手続きを済ませるため裁判所へ戻り、その後、事務所へ向かった。今回の案件を担当していた職員は以前から朔弥を知っており、理解できない様子で尋ねた。「確実に勝てる裁判なのに、どうして取り下げるんです?これに勝てば、弁護士としてさらに名を上げられるんですよ。清野征士郎は普通の相手じゃない」朔弥は苦い笑みを浮かべた。「この裁判は、勝っても負けても、俺の負けなんです」このところ、朔弥は一つの答えにたどり着きつつあった。少なくとも朔弥の目には、紗月がまだ征士郎を完全には忘れられずにいるように見えた。自分はおそらく、どれだけそばにいても、彼女の心の一番近くにいる男にはなれない。もし紗月がほんの少しでも自分を愛してくれているのなら、彼女のためならどんな苦労だって耐えられる。そのためにすべてを失うことになっても構わない。……けれど、彼女は自分を愛していない。ほんの少しさえも。誰かを愛することがどれ
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