私の言葉を聞いた翔太は、大げさにため息をつき、小馬鹿にするような笑みを浮かべた。「出たよ。ママのその『物分かりのいい妻』アピール」やれやれと肩をすくめるその仕草は、とても子供とは思えないほど冷め切っている。「前もそうやって僕の前じゃあっさり頷いてたくせにさ。いざパパが離婚届を持ってくると、泣き喚いてゴネたじゃないか。パパが会社を立ち上げる時にママの貯金と実家からの援助金をつぎ込んだとか、僕が病弱だったから仕事を辞めて付きっきりで看病したとかさ……そんなカビの生えた昔話を引っ張り出してきて、悲劇のヒロインぶるのはもうやめなよ。正直、痛いよ」呆れたように言葉をぶつける息子を見つめながら、私は声すら出せなかった。命を削ってあなたを育てた日々は、あなたにとってただの痛い昔話だったのね。「まあいいや。今日はおばあちゃんの誕生日パーティーだし、ママの面倒くさい相手をしてる暇はないから。何か言いたいことがあるなら、僕とパパが帰ってきてからにしてよね」鬱陶しそうに手をヒラヒラとさせると、翔太はくるりと背を向け、足早に階段を降りていった。パタン、と一階で扉が閉まる音が響く。その瞬間、私の中からぷつりと緊張の糸が切れ、立っている気力さえも奪われてしまった。よろめく足を引きずるように窓際まで歩き、冷たい壁に背中を預けて、ようやく崩れ落ちそうな体を支える。ふと窓の外へ視線を落とした。エントランスの前に、見慣れた高級車が音もなく滑り込んでくるのが見えた。夫である堀内拓海(ほりうち たくみ)のビジネスパートナー――橘澄香(たちばな すみか)の車だ。運転席から降りてきた彼女は、夜の闇の中でも一際目を引く、大胆に背中が開いたシルバーのスパンコールドレスを身に纏っていた。街灯の光を反射してキラキラと輝くその姿を見た瞬間。私の脳裏に、ある映像が残酷なほど鮮明にフラッシュバックした。先ほどまで翔太が着ていた、少し背伸びをしたようなシルバーグレーのスーツ。そして、今朝ご機嫌で家を出ていった拓海の首元を飾っていた、艶やかなシルバーのネクタイ。あはっ……ひどく乾いて、苦味を帯びた笑いが自然と唇からこぼれ落ちた。鈍い私でも、さすがに点と点が繋がってしまった。あの三人は、最初から「シルバー」というテーマカラーで揃え
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