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毒家族を捨てた専業主婦、最高の幸せを掴む

毒家族を捨てた専業主婦、最高の幸せを掴む

Von:  ゼロジェイAbgeschlossen
Sprache: Japanese
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12Kapitel
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Zusammenfassung

切ない恋

ドロドロ展開

ひいき/自己中

クズ男

愛人

後悔

妻を取り戻す修羅場

不倫

義母の還暦祝いのパーティー当日。 朝、私、堀内雨音(ほりうち あまね)が目を覚ますと、髪は無残にバリカンで刈り上げられ、顔には油性ペンで大きな豚の落書きがされていた。 私が眠っている間にこんな酷いことをしたのは――私が手塩にかけて育てた最愛の息子、翔太(しょうた)だった。 ショックで震えながら理由を問いただす私に、翔太は悪びれる様子もなく、大人びた口調で言い放つ。 「ママ、今日のパーティーには来ないでよ。みんなママより、澄香お姉ちゃんの方が好きなの、分かんない? パパに無理やりくっついて行こうとするから、僕が欠席する理由を作ってあげたんだよ。 あとさ、もうすぐパパの誕生日でしょ?ママが離婚に同意するのが、一番のプレゼントだと思うな。 安心してよ、澄香お姉ちゃんが新しいママになっても、将来面倒くらいは見てあげるからさ」 赤ん坊の頃から体が弱く、自分のすべてを犠牲にして看病してきた息子。 そんな彼から突きつけられた残酷な言葉に、私の中で何かが冷たく弾け飛んだ。 「……そう。あなたたちの望み通りにするわ」 私を疎んじる夫と、浮気相手を慕う息子。 ええ、喜んで捨ててあげる。 これは、すべてを失った専業主婦が、真実の愛と最高の幸せを手に入れるまでの逆転劇。

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Kapitel 1

第1話

私の言葉を聞いた翔太は、大げさにため息をつき、小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

「出たよ。ママのその『物分かりのいい妻』アピール」

やれやれと肩をすくめるその仕草は、とても子供とは思えないほど冷め切っている。

「前もそうやって僕の前じゃあっさり頷いてたくせにさ。いざパパが離婚届を持ってくると、泣き喚いてゴネたじゃないか。

パパが会社を立ち上げる時にママの貯金と実家からの援助金をつぎ込んだとか、僕が病弱だったから仕事を辞めて付きっきりで看病したとかさ……

そんなカビの生えた昔話を引っ張り出してきて、悲劇のヒロインぶるのはもうやめなよ。正直、痛いよ」

呆れたように言葉をぶつける息子を見つめながら、私は声すら出せなかった。

命を削ってあなたを育てた日々は、あなたにとってただの痛い昔話だったのね。

「まあいいや。今日はおばあちゃんの誕生日パーティーだし、ママの面倒くさい相手をしてる暇はないから。

何か言いたいことがあるなら、僕とパパが帰ってきてからにしてよね」

鬱陶しそうに手をヒラヒラとさせると、翔太はくるりと背を向け、足早に階段を降りていった。

パタン、と一階で扉が閉まる音が響く。

その瞬間、私の中からぷつりと緊張の糸が切れ、立っている気力さえも奪われてしまった。

よろめく足を引きずるように窓際まで歩き、冷たい壁に背中を預けて、ようやく崩れ落ちそうな体を支える。

ふと窓の外へ視線を落とした。

エントランスの前に、見慣れた高級車が音もなく滑り込んでくるのが見えた。

夫である堀内拓海(ほりうち たくみ)のビジネスパートナー――橘澄香(たちばな すみか)の車だ。

運転席から降りてきた彼女は、夜の闇の中でも一際目を引く、大胆に背中が開いたシルバーのスパンコールドレスを身に纏っていた。

街灯の光を反射してキラキラと輝くその姿を見た瞬間。

私の脳裏に、ある映像が残酷なほど鮮明にフラッシュバックした。

先ほどまで翔太が着ていた、少し背伸びをしたようなシルバーグレーのスーツ。

そして、今朝ご機嫌で家を出ていった拓海の首元を飾っていた、艶やかなシルバーのネクタイ。

あはっ……

ひどく乾いて、苦味を帯びた笑いが自然と唇からこぼれ落ちた。

鈍い私でも、さすがに点と点が繋がってしまった。

あの三人は、最初から「シルバー」というテーマカラーで揃えたコーディネートで、義母の還暦祝いに出席するつもりだったのだ。

拓海の戸籍上の妻であり、翔太を身ごもって産んだ、正真正銘の家族である私だけが。

最初から、彼らの言う「家族のイベント」から綺麗に排除されていたのだ。

突然、一階から翔太の甲高く弾んだ声が聞こえてきた。

「澄香ママ!パパと僕を迎えに来てくれたんだね。ずっと会いたかったよ!」

その無邪気な口から飛び出した「ママ」という響きに、私は雷に打たれたように全身を硬直させた。

翔太は、未熟児として生まれた。

彼がまだ私のお腹の中にいた頃、拓海は立ち上げたばかりの会社を軌道に乗せようと、毎日必死に駆け回っていた。

私が妊娠八ヶ月を迎えたある夜のことだ。

接待の席で泥酔した彼を迎えに、私は大きなお腹を抱えたまま車を運転し、指定された会員制ラウンジへと向かった。

しかし、そこで待っていた取引先の社長は、ひどく悪趣味な男だった。

テーブルの上に並べられた度数の高い火のつくような洋酒を指さし、ニヤニヤと笑いながらこう言ったのだ。

「奥さんが代わりにこれを飲み干してくれたら、この契約書にサインしてやるよ。妊婦が身を削るなら、それ以上の誠意はないからな」

悪辣な冗談だと思いたかった。だが、拓海は男を止めるどころか、すがるような目で私を見つめてきたのだ。

私は彼を、彼の夢を救うためだけに頷いた。

お酒なんて一滴も飲めない私が、喉を焼くようなアルコールを涙目で一気に飲み干した。

見事な飲みっぷりに機嫌を良くした社長は、約束通り契約書にサインをした。

「君は俺の勝利の女神だ!これで明日の融資返済もなんとかなる!」

拓海は狂喜乱舞して私を抱きしめたが、その歓喜は長くは続かなかった。

アルコールの刺激と極度のストレスで、私のお腹が引き裂かれるような激痛に襲われたのだ。

どれだけ急いで病院に運ばれても、遅かった。

翔太は予定日よりずっと早く未熟児として引っ張り出され、私は大量出血の末に命を繋ぐ代償として、子宮を全摘出された。

二度と子供が産めない体になってしまったのだ。

麻酔から覚め、その残酷な事実を告げられた時、私は喉が枯れるまで泣き叫んだ。

あんなにも子供が好きで、いつかこの子に兄弟を作ってあげたいと夢見ていたのに。

病室のベッドで絶望する私を見て、拓海は罪悪感に押し潰されそうになりながら「せめてもの償いに、この子には君の実家である柳沢(やなぎさわ)の姓を名乗らせよう」と提案してきた。

けれど私は弱々しく首を振り、小さな小さな我が子の頬にそっと触れて、ずっと前から決めていた名前を口にした。

「……ううん。この子は堀内翔太よ。大空を自由に羽ばたけるようにって、ずっと前から決めていたんだもの」

夫の過ちを許し、あくまで父親としての立場を守ろうとする私の言葉に、拓海は顔をくしゃくしゃにして泣き崩れた。

「もし俺が一生のうちで雨音を裏切るような真似をしたら、絶対に地獄に落ちてやる!

一文無しになって、一生這い上がれないどん底の人生を送ってやる!」

その恐ろしい呪いのような誓いを、私は慌てて彼の口を塞いで止めた。

「もう言わないで。あなたが私をずっと愛してくれるって、信じているから」

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Rezensionen

松坂 美枝
松坂 美枝
タイトル通りの話だった しかし主人公の再婚相手、奥さま亡くなって一年もしない内に再婚たぁちと早くないですかね(笑) クズ父子は残当
2026-10-07 09:19:38
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ノンスケ
ノンスケ
ひどい夫と愛人の元で育てられると、子どももここまで毒されるんだな、という典型例。結婚してからも妻に何度もお金を借りさせて起業をし、全て愛人に騙し取られていた男、妻はある日目が覚めたら髪はバリカンで剃られ.マジックで顔に落書きされており、その日の義母のお祝いにはいけないようにされていた。さらには愛人と夫、息子の色を揃えてコーディネートした装い。もう自分の居場所はないと思うのも当然。離婚して実家にもどる飛行機で出会った父子。運命の糸が回り出す。結婚する男はよく見定めないとダメってよくわかる作品だった。
2026-10-07 21:33:13
0
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12 Kapitel
第1話
私の言葉を聞いた翔太は、大げさにため息をつき、小馬鹿にするような笑みを浮かべた。「出たよ。ママのその『物分かりのいい妻』アピール」やれやれと肩をすくめるその仕草は、とても子供とは思えないほど冷め切っている。「前もそうやって僕の前じゃあっさり頷いてたくせにさ。いざパパが離婚届を持ってくると、泣き喚いてゴネたじゃないか。パパが会社を立ち上げる時にママの貯金と実家からの援助金をつぎ込んだとか、僕が病弱だったから仕事を辞めて付きっきりで看病したとかさ……そんなカビの生えた昔話を引っ張り出してきて、悲劇のヒロインぶるのはもうやめなよ。正直、痛いよ」呆れたように言葉をぶつける息子を見つめながら、私は声すら出せなかった。命を削ってあなたを育てた日々は、あなたにとってただの痛い昔話だったのね。「まあいいや。今日はおばあちゃんの誕生日パーティーだし、ママの面倒くさい相手をしてる暇はないから。何か言いたいことがあるなら、僕とパパが帰ってきてからにしてよね」鬱陶しそうに手をヒラヒラとさせると、翔太はくるりと背を向け、足早に階段を降りていった。パタン、と一階で扉が閉まる音が響く。その瞬間、私の中からぷつりと緊張の糸が切れ、立っている気力さえも奪われてしまった。よろめく足を引きずるように窓際まで歩き、冷たい壁に背中を預けて、ようやく崩れ落ちそうな体を支える。ふと窓の外へ視線を落とした。エントランスの前に、見慣れた高級車が音もなく滑り込んでくるのが見えた。夫である堀内拓海(ほりうち たくみ)のビジネスパートナー――橘澄香(たちばな すみか)の車だ。運転席から降りてきた彼女は、夜の闇の中でも一際目を引く、大胆に背中が開いたシルバーのスパンコールドレスを身に纏っていた。街灯の光を反射してキラキラと輝くその姿を見た瞬間。私の脳裏に、ある映像が残酷なほど鮮明にフラッシュバックした。先ほどまで翔太が着ていた、少し背伸びをしたようなシルバーグレーのスーツ。そして、今朝ご機嫌で家を出ていった拓海の首元を飾っていた、艶やかなシルバーのネクタイ。あはっ……ひどく乾いて、苦味を帯びた笑いが自然と唇からこぼれ落ちた。鈍い私でも、さすがに点と点が繋がってしまった。あの三人は、最初から「シルバー」というテーマカラーで揃え
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第2話
拓海は痛ましいものを見るような目で私を見つめ、ただ黙って私の手を強く握り返した。退院後、体を壊した私と小さな未熟児の生活が始まった。拓海は相変わらず会社に泊まり込みで、育児はすべて私の肩にのしかかった。何度かベビーシッターを雇ってみたものの、目を離した隙に子供を危険な目に遭わせるような外ればかりで、心から信頼できる人はいなかった。この小さな命を守れるのは私しかいない。そう覚悟を決めた私は、復職の道を完全に断ち切り、専業主婦として自分のすべてを翔太に捧げた。その血を吐くような努力が報われたのは、翔太が初めて言葉を発した日だった。小さな唇を動かして、一生懸命に紡いでくれた「ママ」という二文字。あの時の胸が震えるような感動と、溢れ出した熱い涙を、私は一生忘れない。この子のためなら、どんな苦労も耐えられると本気で思っていた。……それなのに。あんなにも愛おしく呼んでくれていた「ママ」という特別な称号を。今、私が命を懸けて産んだその子は、全く別の女に向けて無邪気に放っている。その事実が、私の心を冷たく、そして確実に殺していった。頬を伝って落ちる涙が、私の視界をぐしゃぐしゃに滲ませた。ぼやけた視界の先、エントランスでは、拓海が少し慌てた様子で「子供の言うことだから」と澄香に謝りながら、翔太を軽く睨みつけていた。しかし澄香は全く気にする素振りも見せず、むしろ愛おしそうにしゃがみ込み、翔太を抱き上げてその鼻先をツンとつついた。誰が見ても、完璧に幸せそうな家族三人の光景だった。三階の窓から、髪を刈り上げられ、顔中に油性ペンで落書きをされたピエロのような私が彼らを見下ろしていることなど、誰も気づいていない。その瞬間。私の中で渦巻いていた怒りや絶望が、嘘のようにスッと引いていくのを感じた。ああ、そうか。私はもう、この結婚も、この家族も……手放すべき時が来たんだ。胸の奥にこびりついていた重たい泥のようなものが、静かに溶けていくような、不思議な安堵感があった。私はふらつく足でスマホを取りに行き、離婚弁護士をしている親友の白石結衣(しらいし ゆい)に電話をかけた。「結衣……お願いがあるの。離婚協議書を作って。私、離婚するわ」死んだように淡々とした私の声とは対照的に、電話越しの結衣は悲鳴のような
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第3話
結衣の怒涛のまくしたてに、私は何も言い返すことができず、ただ黙り込んだ。彼女の言う通りだ。忘れるはずがない。交際して三年、拓海からプロポーズされた日のことを。私が涙を流して頷いた直後、彼は「起業のためにお金を貸してほしい」と切り出してきたのだ。当時の私は彼にすっかり依存し、盲目になっていたため、警戒心など微塵もなかった。他の誰でもなく私を頼ってくれたのだから、それは私が一番愛され、信頼されている証拠に違いない。そんなふうに、自分にとって都合のいい、愚かで痛々しい勘違いをしていたのだ。だから、結衣たちにどれだけ止められても、どれだけ「騙されてる」と呆れられても、私は全てのお金を彼に渡した。ファミレスでの惨めな結婚祝いも、彼が「起業の初期で苦しいから、少しだけ我慢してくれ」と泣きついてきたからだ。「成功したら、必ずお姫様みたいな最高の結婚式を挙げてやる。世界中のみんなに、俺たちの永遠の愛を証明しよう」そんな甘い毒のような言葉を、当時の私は疑いもせず、ただただ信じきっていた。結婚してまだ一ヶ月も経たないうちに、拓海は意気揚々と起業に乗り出した。素人が急に手を出して成功するほど甘い世界じゃないと、私は必死に止めた。けれど彼は、「大学の後輩である澄香の実家が手掛けているプロジェクトだから、便乗すれば絶対に儲かる」と言って聞かなかった。結果は惨憺たるものだった。わずか三ヶ月で、私たちの結婚資金も貯金も、文字通り一円残らず綺麗に吹き飛んだのだ。その直後こそ、拓海はひどく落ち込み、私の顔色ばかりを窺って、地べたに這いつくばるように謝罪してきた。軽率な彼への怒りはもちろんあった。けれど、夫婦になった以上、ここで見捨てるわけにはいかない。私は結局、ほだされて彼を許してしまった。お金はなくなったが、生きていくためには生活費が要る。それでも拓海はプライドが邪魔をするのかバイトすらしようとせず、私たちは私が正社員として稼ぐわずかな手取りだけで食いつなぐ羽目になった。だから私は、「生活が安定するまでは絶対に子供は作らない」と宣言した。当然、夜の生活でもきっちりと避妊するように求めた。拓海は分かったと素直に頷いていた。……まさかその裏で、彼がコンドームに針で穴を空けるという最低な工作をしていたなんて、
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第4話
通話を終えた私は、メッセージアプリを開き、拓海とのトーク画面に短い文を打ち込んだ。【離婚に同意するわ。弁護士に協議書を作成させているから、届いたらサインして】送信ボタンを押しても、当然のように既読はつかない。画面の上にずらりと並ぶ、私からの無数の未読メッセージと同じように、今回も無視されるのだろう。ふと、彼のSNSのタイムラインを開いてみた。いつの間にか、アカウントのヘッダー画像は私たちの結婚式の写真から、拓海と澄香が祝賀パーティーでシャンパングラスを傾けている写真に変更されていた。画面をスクロールすると、今日は珍しく大量の投稿がアップされている。最新の動画をタップすると、高級そうな料亭の個室が映し出された。澄香が甲斐甲斐しく義母の皿に料理を取り分けている。義母は顔をほころばせながら、自分の腕からブレスレットを外し、澄香の細い手首に直接着けてあげていた。――それは、私が以前、自分の生活費を極限まで切り詰めて義母に贈った真珠のブレスレットだった。動画の中では、隣に座る翔太がその光景を見て無邪気に笑い声を上げている。「澄香ママって最高!会社でもパパと息ぴったりだし、この前の授業参観に来てくれた時も、僕すっごく鼻が高かったんだ!クラスのみんなが『お前のお母さん、すっごく綺麗だな』って羨ましがってたんだよ、えへへ。ねえ、おばあちゃん。あの女じゃなくて、澄香ママが僕の本当のママだったらよかったのにね」動画越しの幼い声色の中に、私に対する明確な「憎悪」が混じっているのを、確かに感じ取ってしまった。私の話が出た途端、義母の顔から和やかな笑みがスッと消え去り、冷ややかな声で拓海に尋ねるのが聞こえた。「そういえば、アレはどうしたの?姑の還暦祝いにも顔を出さないなんて、ずいぶんと偉くなったものね」そこで動画はプツリと切れていた。私は唇を強く噛み締め、自嘲気味に笑った。見ての通りだ。義母にとっても、私がお腹を痛めて産んだ息子にとっても、私はもう名前で呼ばれる価値さえない。ただの邪魔者、「アレ」や「あの女」という忌まわしい代名詞でしかないのだ。その夜、拓海も翔太も家に帰ってくることはなかった。どこに泊まるという連絡もなければ、私が送ったメッセージへの返信もない。私は、顔中に描かれた油性ペンの落書
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第5話
紙の端が頬をかすめて床に散らばるのを見つめながら、私はゆっくりと首を横に振った。「駆け引きなんかじゃない。お金も、会社も、翔太も……何もいらない。私はただ、疲れたの。もう終わりにしたいだけ」感情の抜け落ちた私の声と、一切の抵抗を見せない態度に、拓海はどうやら私が本気だと悟ったらしい。彼は怪訝そうに眉をひそめると、ふうっとため息をつき、私の向かいのソファに腰を下ろした。ここ一年ほど、顔を合わせれば罵り合うか無視するかのどちらかだった彼が、久しぶりに穏やかなトーンで口を開いた。「……澄香のことが原因か?前にも説明しただろ、俺とあいつはただのビジネスパートナーだ。お前がそうやって、ありもしない妄想でヒステリーを起こして嫉妬ばかりするから、俺たちの関係がこんなに冷え切っちまったんじゃないか」私は口角を僅かに上げ、皮肉と自嘲に満ちた笑みを浮かべた。そして、拓海の目の前に自分の右手をスッと突き出した。その手の甲には、決して消えることのない醜く引きつった切り傷の痕が、無残に走っている。これは二年前、拓海から受けた罰の痕だ。あれは、翔太の8歳の誕生日のことだった。どうしてもパパと一緒にご飯が食べたいと泣きじゃくる彼をなだめながら、私は拓海の会社を訪ねた。しかし、そこで私たちが目にしたのは――社員総出で澄香の誕生日を祝い、拓海が彼女の首に高価なダイヤモンドのネックレスを、いかにも親しげに直接着けてあげている光景だったのだ。それを見た翔太はパニックを起こし、駆け寄って澄香を力いっぱい突き飛ばしてしまった。すると拓海は激昂し、なんと実の息子である翔太を容赦なく蹴り飛ばしたのだ。小さな体が床に転がり、胸を押さえて痛がって泣き叫ぶ。私は血の気が引き、目を真っ赤にして拓海に掴みかかった。「拓海!頭おかしいんじゃないの!?こんな女のために、自分の子供に手を上げるなんて!」私のその言葉に、拓海はさらに火に油を注がれたように激怒した。「こんな女だと!?」彼は完全に頭に血が上り、信じられないことに、ケーキを切り分けるために置いてあったペティナイフを掴むと……結婚指輪が光る私の右手の甲に向かって、力任せに振り下ろしたのだ。「翔太がこんなに聞き分けのないクソガキなのは、お前の教育がなってないからだ!その上、
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第6話
興奮気味に捲し立てる結衣の言葉を、私は静かに遮った。「結衣、もういいの。彼のことは、もう良いニュースも悪いニュースも、これ以上聞きたくない。あの人が大富豪になろうが、借金まみれでどん底に落ちようが……私にとってはもう、赤の他人の身に起きたどうでもいいことだから」私のあまりにも吹っ切れた声に、結衣はまだ少し納得がいかない様子だった。「……じゃあ、息子の翔太くんはどうするのよ?あの子の将来は?」私はフッと笑い、目の前の電光掲示板に点灯した【搭乗手続き開始】の文字を見上げた。「あの子も、もう私とは無関係よ。あの子には、大好きな澄香ママがいるんだもの」それだけを言い残し、搭乗を告げるアナウンスが響く中、私は通話を切った。そして、人の波に紛れてゲートをくぐり抜けた。飛行機が離陸してしばらくすると、機内に子供の甲高い泣き声が響き渡った。周囲の乗客たちが露骨に不快な顔をする中、子供の父親らしき男性はパニックに陥っていた。なだめるのを諦め、ついには声を荒らげて叱りつけているが、泣き声はひどくなる一方だ。このままではトラブルになりかねない。そう思って、私はたまらず席を立った。泣きじゃくる男の子のそばまで行き、しゃがみ込んで彼と同じ目線になる。「こんにちは、かっこいいお兄ちゃん。お名前、教えてくれる?」男の子はヒックヒックとしゃくり上げながら、小さな声で答えた。「……須藤陸(すどう りく)。ママに、会いたいの……」その言葉に、私は少しだけ胸が詰まった。隣に座る、黒いスーツ姿で疲れ切った様子の若い父親をちらりと見る。……なんとなく、この父子に何があったのか察しがついた。私はポケットからハンカチを取り出し、陸くんの涙をそっと拭ってあげながら、優しく声をかけた。「実はね、お姉ちゃんは陸くんのママのお友達なの。ママから預かったプレゼントを出す魔法が使えるんだけど……もしプレゼントが出たら、もう泣き止んでくれるかな?そんなに泣いてたら、かっこいいお顔が台無しになっちゃうよ?」陸くんは驚いたように目を丸くしてコクコクと頷き、チラリと隣の父親を見た。私もその若い父親と視線を交わす。彼の目には、どうしていいか分からない焦りと、深い感謝の色が浮かんでいた。彼は静かに頷き、陸くんの頭を撫でた。私は手
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第7話
「あの子はずっと、母親の温もりを求めていたんです。それなのに、もう一生会えなくなってしまって……」そう語る悠真の目には、堪えきれない涙が光っていた。幼くして母親を亡くした陸くんの悲しみは計り知れないが、残された彼自身もまた、最愛の妻を失って深く傷ついているのだろう。けれど、私たちはただ飛行機で隣り合わせただけの赤の他人だ。他人の深い悲しみに、これ以上踏み込むべきではない。私は控えめな言葉で彼を慰め、改めての感謝を受け取ると、自席へと戻った。飛行機が着陸し、私は十数年ぶりに故郷の小さな町へと降り立った。十数年前、両親が不慮の事故で他界したのを機に、私は大学進学に合わせてこの町を離れた。それ以降、結婚し、家庭に入り、育児に追われる毎日の中で、一度も帰省することはできなかった。本当は、拓海と翔太を連れて、両親のお墓参りに行きたかった。けれど、拓海は「仕事が忙しい」の一点張りで時間を割こうとはせず、翔太に至っては「そんな何もないド田舎になんて絶対に行かない」と鼻で笑って拒絶した。彼らの世話をしなければならない専業主婦の私に、一人で時間を取って帰省する自由などあるはずもなかった。そうしてズルズルと時間だけが過ぎ、気づけばこんなに長い年月が経ってしまっていたのだ。変わらないのどかな風景を前にすると、自然と目頭が熱くなった。空港からタクシーに乗り、まっすぐ両親が眠る霊園へと向かった。墓石の前に立ち、私はこれまで胸に秘めてきた苦労や、ついに離婚を決意したことなど、積もり積もった想いを両親に語りかけた。声に出すと余計に感情が溢れ出し、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。日が傾き、あたりが薄暗くなってきた頃。私はスカートの埃を払い、両親の墓前に向かって深く頭を下げて静かに手を合わせてから、霊園を後にした。予約していたホテルに向かおうとスマホを取り出した時。画面には、翔太からのメッセージが大量に届いていることに気がついた。【ママ、今どこにいるの!?家が大変なことになってるのに、何やってるの!パパもすっごく焦ってるんだよ!】【相談したくても連絡つかないし。普段は暇でずっと家に引きこもってるくせに、肝心な時に逃げ出すなんて信じられない!】【ママってほんと、そういうとこ無責任だよね】【まあいいや。とにかく早
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第8話
あれこれと事情を説明する気にもなれず、私は「ええ、本当よ」とだけ短く返事をした。すると彼女は、少し焦ったような声で尋ねてきた。「じゃあ……私がこの前『彼に忠告してあげて』って頼んだ件はどうなったの?橘澄香が新しく持ってきた投資案件、あれ完全なペーパーカンパニーで、詐欺のリスクが極めて高いって話、彼に伝えなかったの?」その言葉に、私は思わず自嘲気味な笑みを漏らした。伝えないわけがない。むしろ、その忠告が原因で、私は拓海や翔太と修復不可能なほどの大喧嘩をしたのだから。――義母の還暦祝いの一週間前。咲希から「拓海が詐欺グループに狙われている。橘澄香もグルかもしれないから気をつけて」という切羽詰まった電話を受けた。その日の夜、私は学校から翔太を連れ帰り、酒の匂いを漂わせて帰宅した拓海に酔い覚ましのドリンクを飲ませた後、彼をソファに座らせた。そして、咲希から聞いた話を一言一句違わず彼に伝え、どうか気をつけてほしいと真剣に訴えかけたのだ。しかし、拓海が何かを言うよりも早く、翔太が激昂した。彼は背負っていた重たいランドセルを私に向かって思い切り投げつけると、テーブルにあったマグカップの熱湯を私の顔にバシャリと浴びせた。小さな顔を鬼のように歪め、私をキッと睨みつける。「澄香お姉ちゃんの悪口を言うな!ママってほんと最低!澄香お姉ちゃんはあんなに優しいのに、どうしていつもイジメるの!こんなママ、大っ嫌いだ!」私は火傷の痛みに耐えながら「誰もイジメてなんかない、これは本当のことなのよ!」と必死に弁解しようとした。だが、拓海は全く聞く耳を持たず、私を鼻で笑ってこう言い放ったのだ。「雨音、お前も随分と姑息な真似をするようになったな。嫉妬で頭がおかしくなって、俺の会社が潰れるように呪いでもかけてるのか?いいか、お前の友達の戯言なんて、俺は一文字たりとも信じない。澄香が俺を騙すなんてあり得ない。……仮に万が一、あいつが俺を騙そうとしているなら、俺は喜んで騙されてやるよ!お前がそこまで澄香を目の敵にするなら、お前がここから出て行け。俺たちの視界から消えろ!一日中家に引きこもって、あることないこと吹き込んで、一体何が楽しいんだ!」拓海は怒鳴り散らすと、私が状況を理解する間もなく、私の腕を掴んで玄関のド
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第9話
過去の記憶から意識を引き戻し、私は咲希に「それで、何かあったの?」と尋ねた。電話の向こうで、咲希は深いため息をつき、少し同情するようなトーンで話し始めた。「拓海の会社、どうやら破産寸前みたいよ。あと、翔太くん……あの超名門の私立小学校から退学処分を受けたらしいわ。橘澄香が、会社の資金を全部持ち逃げして行方をくらませたのよ」彼女の深刻な声とは対照的に、元夫と息子に対する私の反応は、ひどく冷ややかなものだった。「……そう。分かったわ」ただ一言、それだけだった。私の淡白すぎる態度から、もう完全に未練がないことを悟ったのか、咲希はそれ以上何も言わずに電話を切った。私は静かに家を出て、日用品の買い出しのために近所のスーパーへと向かった。洗剤のコーナーで何を買おうか品定めをしていると、突然、小さな温かい手が私の足元にギュッと抱きついてきた。驚いて視線を落とすと、そこには飛行機の中で出会った男の子――須藤陸くんが、目をキラキラと輝かせて私を見上げていた。「お姉ちゃん、こんにちは!」思いがけない再会に、私も思わず頬を緩ませた。「こんにちは。どうして一人でこんなところにいるの?パパは?」陸くんがニコッと笑って後ろを指さす。振り返ると、血相を変えた悠真が、息を切らしながら小走りでこちらに向かってくるところだった。私の足元にいる陸くんの姿を確認すると、彼は心の底からホッとしたように深く息を吐いた。「柳沢さん……またお会いしましたね」悠真は申し訳なさそうに頭を掻いた。「この子ったら、遠くからあなたの姿を見つけた途端、私の手を振り解いて一人で走り出してしまったんです。もし人違いだったらどうするつもりだったんだか……」私は笑いながら、陸くんの頭を優しく撫でた。「ほら、パパをあんなに心配させちゃダメでしょ。ちゃんとごめんなさいしようね」陸くんは自分が悪いことをしたと自覚したようで、素直に悠真の手から小さな買い物袋を受け取り、「パパ、ごめんなさい」と謝った。悠真は「全くもう」と呆れたように陸くんを軽く睨んだが、それ以上は叱らなかった。その後、悠真は少し躊躇うように私をちらりと見つめ、意を決したように口を開いた。「柳沢さん、実は……陸がどうしてもあなたに懐いてしまって。もし、今日この後お時
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第10話
夕食後、ファミリーレストランの店員さんがサービスで記念撮影をしてくれた。チェキを受け取る際、店員さんが「ご両親、とてもお似合いの素敵なご夫婦ですね」と愛想よく褒めてくれた。いつも真面目で硬い表情をしている悠真が、耳まで真っ赤にして「い、いえ、私たちは夫婦ではなくて……!」と慌てて否定する姿が少し面白かった。一方の陸くんは、ニコニコと嬉しそうに私の胸に飛び込んできて、満面の笑みでこう叫んだ。「ママ!」私が思わず微笑んで返事をしようとした、その時だった。「誰がママだ!その人は僕のママだぞ!お前みたいな薄汚いガキ、僕のママに触るな!あっちに行け!」耳を劈くようなヒステリックな金切り声が、レストラン内に響き渡った。声のする方へ目を向けると、顔を真っ赤にして激怒している翔太が、こちらに向かって猛突進してくるのが見えた。彼は陸くんを力任せに殴ろうと拳を振り上げている。私は咄嗟に陸くんを庇い、自分の背中に隠した。そして、興奮状態の翔太を冷ややかな目で見下ろし、静かに言い放った。「陸くんは薄汚いガキなんかじゃないわ。それに、私はあなたのママじゃない。人違いよ。あなたのママは、橘澄香でしょ?」これまで彼に向けたことのない、絶対零度の冷たい声と表情。それを受けた翔太はショックで顔を歪め、その場にへたり込んでギャンギャンと泣き喚き始めた。「パパぁ!早く来てよぉ!ママが浮気してる!外で知らない男と子供を作って、僕たちを捨てたんだぁ!」その甲高い泣き声に釣られて、野次馬の群れの中から、ゲッソリとやつれ果てた拓海が姿を現した。彼は泣き叫ぶ翔太を抱き寄せると、私と悠真を交互に睨みつけ、まるで悲劇の被害者であるかのように糾弾し始めた。「そういうことだったのか。実家まで探しに来てみれば、こんな田舎で男と飯を食っていたとはな!お前が俺に離婚を突きつけ、実の息子まで捨てた理由は……この男と子供のためだったんだな。雨音、お前って奴はどこまで冷酷なんだ。俺たちが十数年も連れ添ってきた絆は、ぽっと出のこの親子以下の価値しかなかったのか!?」その言葉に、周囲の客たちがざわめき始めた。ひそひそと非難めいた視線が、私だけでなく、悠真や陸くんにまで突き刺さる。「誤解です、私たちは今日――」悠真が慌てて弁明しようとするが
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