Todos los capítulos de じじばばにゃんこと異世界奇譚: Capítulo 21 - Capítulo 30

182 Capítulos

竜王城

ヴァルグランの夜は、空そのものが近かった。巨大な山脈都市。無数の灯火。飛び交う飛竜達。夜空を横切る巨大な吊橋。まるで、星々の中へ街が浮かんでいるみたいだった。タマは、宿舎の窓へ張り付いている。「やっば……帝都すげぇ……」「落ちるなよ」フィルニアが呆れる。だが。本人もかなりテンションが高い。尻尾みたいに、腰の後ろの竜尾が揺れていた。ユキは、窓から飛竜を見上げている。「空のお船みたい……」「あれ全部飛竜騎士団だ」フィルニアが答える。「帝都周辺だけでも、千騎以上いるぞ」「せ、千……?」ミーコが息を呑む。獣人王国レイシスにも、騎獣部隊は存在した。だが。規模が違う。この国は、本当に“竜”で成り立っている。その時だった。コンコン。扉が叩かれる。セレスだった。「竜王陛下がお待ちです」空気が少し変わる。フィルニアが、露骨に嫌そうな顔をした。「うわぁ……親父かぁ……」「その言い方やめなさい第二王女」「だって説教長いんだよ」「自覚はあるんですね」タマが肩を震わせていた。「この国、王族の距離感近くない?」「近いというか……フィルニアが自由すぎるだけでは」ミーコが小声で言う。グランヴェルが、静かに頷いた。「否定できん」フィルニアが抗議する。「叔父貴ぃ!!」だが。その時だった。トシオが、ぽつりと呟く。「腹減ったのぉ」沈黙。セレスが止まる。フィルニアが吹き出した。「会談前だぞ!?」「飯は大事じゃ」「じーちゃん毎回それだよね!?」ミツコは、のんびり笑っていた。「お茶くらい持ってこうかねぇ」セレスが、小さく息を吐く。「……陛下も、その方が話しやすいかもしれません」タマが目を丸くした。「セレスが順応してる……」そして。一行は、竜王城へ向かう事になった。──竜王城。それは、もはや城というより“神殿”だった。黒銀の巨大柱。空中回廊。竜の彫刻。燃える蒼炎。巨大な天井には、古代竜の壁画が描かれている。圧倒的。その一言だった。ユキが、完全にミツコの後ろへ隠れている。「お、おっきい……」「迷子になるなよ」タマも、少し緊張していた。その時。巨大な扉が、ゆっくり開く。ゴゴゴゴゴ……重々しい音。そして。広間の奥。
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晩餐…

竜王城の大広間には、静かな弦楽器の音色が流れていた。高い天井。黒銀の巨大柱。蒼い魔導灯。そして。果てしなく長い食卓。そこへ並べられている料理は、まさに帝国最高峰だった。巨大海獣の炙り肉。飛竜卵の濃厚スープ。火山麦の黒パン。香草焼き。山盛りの果実。年代物の果実酒。料理人達が、誇りと緊張を込めて作り上げた晩餐。普通なら、誰もが萎縮する場だった。だが。「これ足りるかのぉ」トシオの第一声がそれだった。沈黙。料理人達が固まる。タマが即座にツッコむ。「いや量見て言ってる!?」フィルニアが腹を抱えて笑った。「じーちゃんマジで好きだわ!!」ヴァルドレイクですら、僅かに肩を揺らしている。その時だった。ミツコが、並んだ料理をじーっと眺めていた。エレミアが気付く。「何か問題でも?」「んー……」ミツコは、少し困ったように首を傾げる。「みんなの分はないのかねぇ?」広間が静まり返った。兵士達が、思わず顔を見合わせる。エレミアも、わずかに目を細めた。「……兵達の分、ですか?」「こんなに美味しそうなんやもん」ミツコは、柔らかく笑った。「せっかくのお料理、みんなで食べた方がおいしいよきっと」静寂。王族の晩餐へ、兵士達も呼ぶ。そんな発想。普通なら有り得ない。料理人達ですら、ぽかんとしていた。だが。ヴァルドレイクの眼差しが、鋭く細められる。王として。目の前の人間を測っていた。数秒。重たい沈黙。その後。──フッ。竜王が小さく笑った。「面白い」低い声が、広間へ響く。そして。ヴァルドレイクは、静かに立ち上がった。「全兵士へ通達」居並ぶ兵士達の背筋が伸びる。「今宵は無礼講だ」数秒。誰も理解できなかった。「……は?」一人の兵士が、間抜けな声を漏らす。フィルニアが目を輝かせた。「マジで!?」エレミアが、ふっと微笑む。その瞬間。張り詰めていた広間から、一気に力が抜けた。ざわざわと、兵士達が騒ぎ始める。「え、本当に?」「俺達も……?」「竜王陛下直々の許可だぞ!?」料理人達まで慌て始めた。タマが、半笑いで呟く。「とんでもない事言ったなぁばーちゃん……」ミツコは、のんびり笑っている。「せっかくやもんねぇ」──数十分後。宴
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黒穴…

夜の帝都ヴァルグラン。その空は、静かに歪み始めていた。黒い雲。渦巻く瘴気。そして。空そのものへ開いた、巨大な“穴”。兵士達が、城壁の上で息を呑んでいた。「なんだあれ……」「空が……割れてる……」誰もが、本能で理解していた。あれは危険だ。見ているだけで、胸の奥がざわつく。飛竜達ですら、不安そうに低く鳴いている。帝都全域へ、警鐘が鳴り響いていた。ゴォン!!ゴォン!!重たい鐘の音が、夜空を震わせる。飛竜騎士達が、次々と空へ飛び立った。槍。魔導砲。炎槍。帝都守備隊も、慌ただしく配置へ走っていく。だが。その頃。竜王城の大広間では。フィルニアが、まだ肉を食べていた。「うまっ」タマが呆れる。「この状況でまだ食うの?」「腹減ってると戦えないだろ」「理屈は分かるけどさぁ……」ユキが、少し不安そうに窓を見る。ミーコも、静かに夜空を見つめていた。嫌な感じがする。黒穴から漂う空気は、普通じゃない。瘴気とも違う。もっと。“世界そのもの”が軋んでいるような、嫌な感覚だった。その時だった。──グォォォォォォッ!!凄まじい咆哮が、帝都全域を震わせた。広間の窓が揺れる。食器が跳ねた。セレスが、即座に窓の外を見る。「……アストラヴェイン?」ヴァルドレイクも、静かに立ち上がった。あの守護竜が、ここまで警戒するのは異常だった。次の瞬間。バサァァァァッ!!巨大な影が、城の外を横切る。兵士達の悲鳴。飛竜騎士達の怒号。空気が張り詰める。グランヴェルが、槍を掴んだ。「来るぞ」その直後だった。ドゴォォォォォン!!帝都全体が激しく揺れた。窓の外。遠くの塔が、崩れ落ちていく。「なっ……!?」タマが絶句する。空間裂けの中心から。“何か”が出てきていた。黒い巨体。歪んだ翼。赤黒く濁った眼。全身から溢れる瘴気。その姿は、確かに飛竜に似ている。だが。違う。生き物ではない。もっと別の、壊れた何かだった。兵士達が叫ぶ。「未確認飛竜!!」「いや違う!!あれは……!」言葉にならない。ただ。見ているだけで、恐怖が込み上げてくる。フィルニアですら、笑みを消していた。「……なんだよ、あれ」その時だった。ヴァルドレイクが、
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守護竜…

帝都ヴァルグランの夜空は、完全に壊れ始めていた。黒穴。空へ穿たれた巨大な裂け目は、ゆっくりと脈打っている。黒紫の雲。滲む瘴気。歪む月光。まるで。空そのものが、腐り始めているみたいだった。城壁上では、兵士達が震えていた。「なんなんだよ……あれ……」「見るな!!長く見るな!!」古参兵が怒鳴る。だが。視線を逸らせない。黒穴の奥には、“何か”がいる。そう本能が理解してしまう。その時だった。ギャァァァァァァッ!!黒飛竜が、帝都上空で咆哮する。衝撃波が、石畳を砕いた。飛竜騎士達が吹き飛ばされる。「くっ……!!」「隊列維持!!」炎槍。氷刃。雷撃。無数の魔法が夜空を走る。だが。黒飛竜を包む瘴気が、それら全てを呑み込んでいた。爆炎の中から現れた巨体は、ほぼ無傷。兵士達の顔が青ざめる。「効いてない……!?」「ありえんだろ……!」ヴァルドレイクの表情も険しかった。「瘴気が防壁化しているのか」グランヴェルが、低く唸る。「通常個体ではありません」近くにいるだけで、息苦しい。魔力が乱れる。身体の奥へ、黒い泥を流し込まれるような感覚。これまでの狂化飛竜とは、次元が違った。その時。黒飛竜が急降下する。狙いは、中央居住区。「避難が間に合わん!!」兵士達が叫ぶ。地上では、民衆が逃げ惑っていた。泣き叫ぶ子供。転倒する老人。暴れる飛竜。混乱が広がっていく。だが次の瞬間。──グォォォォォォォォッ!!超巨大な咆哮が、帝都全域を揺らした。夜空へ、白銀の閃光が走る。ドゴォォォォォン!!空中衝突。黒飛竜が吹き飛ばされた。兵士達が歓声を上げる。「守護竜!!」「アストラヴェインだ!!」帝都守護竜。白銀の神竜、アストラヴェイン。巨大だった。城より大きい。月光を浴びた白銀鱗が、夜空で神々しく輝いている。蒼銀の翼。黄金の瞳。その姿は、神話そのものだった。フィルニアが、目をキラキラさせている。「うおぉぉぉ!!やっぱかっけぇぇぇ!!」タマまで興奮していた。「いやこれ普通にヤバいって!!守護竜デカすぎるだろ!!」アストラヴェインは、黒飛竜へ牙を剥く。低く唸る。その黄金眼には、強い警戒が宿っていた。対する黒飛竜は、苦しそうに咆
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黒穴の声…

巨大な黒穴が夜空を覆っていた… 黒紫の渦。 歪む月光。 空を裂く瘴気。 その奥では。 “何か”が蠢いている。 見てはいけない。 本能が、 そう警告していた。 だが。 誰も、 目を逸らせなかった。 兵士達は震え。 飛竜達は怯え。 帝都全体が、 まるで巨大な悪夢へ呑み込まれたみたいだった。 その中心で。 トシオだけが、 静かに立っている。 黒穴を見上げながら。 ゆっくり。 手を伸ばしていた。 「ほれ」 穏やかな声。 まるで。 泣いている子供へ、 手を差し伸べるみたいだった。 その瞬間。 ズォォォォォ…… 黒穴の奥が、 大きく脈打つ。 空間が揺れる。 兵士達が悲鳴を上げた。 「来るぞ!!」 「総員防御!!」 ヴァルドレイクが、 黒炎を纏いながら前へ出る。 アストラヴェインも、 翼を広げた。 黄金の瞳が、 黒穴を睨みつけている。 だが。 トシオだけは動かない。 その背中は、 妙に静かだった。 そして。 黒穴の奥から。 ゆっくりと。 “巨大な腕”が現れる。 黒い。 あまりにも黒い。 まるで、 闇そのものを固めたみたいな腕。 長い爪。 歪んだ関節。 滴る瘴気。 兵士達の顔から、 血の気が消えた。 「化け物……」 「なんなんだよ…… あれ……」 だが。 その腕は。 暴れなかった。 ゆっくり。 恐る恐る。 トシオへ向かって、 伸びてくる。 まるで。 何かを確かめるみたいに。 その時だった。 ヴァルドレイクが叫ぶ。 「トシオ殿!!」 黒炎が迸る。 王として。 危険を見過ごせなかった。 だが。 その瞬間。 トシオが、 静かに片手を上げる。 「待ちなされ」 低い声。 不思議だった。 その一言だけで。 ヴァルドレイクの動きが止まる。 アストラヴェインですら、 翼を止めていた。 沈黙。 夜風だけが吹く。 そして。 巨大な黒い腕が。 そっと。 トシオの手へ触れた。 ズ……ッ…… その瞬間だった。 黒穴全体が、 大きく
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英雄への敬意…

黒穴の奥で。巨大な眼が。ほんの少しだけ、細められた気がした。その瞬間だった。ズォォォォォォォ……空全体が、低く唸り始める。帝都ヴァルグランの石畳が震えた。塔が軋む。窓ガラスが割れる。兵士達が悲鳴を上げた。「な、なんだ!?」「黒穴が……!」夜空。黒紫の裂け目が、さらに大きく歪んでいく。まるで。“向こう側”で、何か巨大なものが動いたみたいだった。アストラヴェインが、激しく咆哮する。──グォォォォォォォッ!!白銀の翼が広がる。守護竜は、本能で理解していた。来る。本当に危険なものが。その時だった。黒穴の奥から。ズルリ――巨大な“顎”が現れる。兵士達が凍り付いた。黒い。あまりにも黒い。空間そのものを喰い破るみたいな、異形の口。無数の牙。歪んだ肉。裂け続ける空間。見ているだけで、頭がおかしくなりそうだった。「なんだよ……あれ……」フィルニアですら、声を失う。その時。黒穴そのものが、苦しそうに震えた。『……ア……』掠れた声。まるで。怯えているみたいだった。トシオは、静かに黒穴を見る。「お前さん、食われとるんか」その瞬間。黒穴全体が、びくりと震えた。ヴァルドレイクの眼光が鋭くなる。「……寄生型か」エレミアが、静かに息を呑む。「黒穴そのものが、災厄ではない……?」黒穴は、壊れていた。泣いていた。だが。その奥には。さらに別の“何か”がいた。それが。黒穴を喰らいながら、こちらへ侵食している。その時だった。ズガァァァァァァァン!!巨大な異形の腕が、帝都城壁へ叩き付けられる。城壁が崩壊した。兵士達が吹き飛ぶ。「北西城壁崩落!!」「異形侵入!!」帝都全域が、一瞬で戦場へ変わった。黒飛竜。瘴気獣。歪んだ異形。黒穴から、際限なく溢れてくる。ヴァルドレイクが咆哮した。「総員迎撃!!」黒炎が爆発する。巨大な翼が夜空を裂いた。帝国最強の王が、異形の群れへ突撃する。ドゴォォォォォォン!!黒炎が、夜空を焼き払う。異形の群れが吹き飛ぶ。だが。止まらない。その時だった。白銀の閃光が、空を裂く。アストラヴェイン。守護竜が舞い上がる。──グォォォォォォォォ!!神話級の咆哮。白銀のブレスが、黒穴周辺
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旅立ちの朝…

帝都ヴァルグランの朝は、久しぶりに静かだった。黒穴は消えた。空を覆っていた黒紫の渦も。瘴気も。異形達も。もう無い。朝日が、ゆっくり帝都を照らしている。市場では、商人達が店を開き始めていた。焼き立ての黒パンの匂い。果実売りの声。走り回る子供達。飛竜達の鳴き声。壊れていた日常が、少しずつ戻り始めていた。城壁修復をしている兵士達の顔も、どこか明るい。「生きてるなぁ……」若い兵士が、空を見上げながら呟く。隣の古参兵が、小さく笑った。「あぁ」「生き残った」その言葉が。何より重かった。⸻その頃。竜王城の客室では。「多くない!?」タマの絶叫が響いていた。部屋中に、荷物が山積みになっている。肉の干物。保存食。酒樽。槍。謎の骨。竜鱗。山ほどの着替え。そして。巨大な肉塊。フィルニアが、胸を張っていた。「旅に必要だろ!!」「絶対いらん物混ざってる!!」「肉はいる!!」「肉はわかる!!」ミーコが、苦笑している。ユキは、荷物の山を見て目を丸くしていた。「……お部屋、狭い」「もう限界だよこれ!!」その時。ミツコが、のんびり入ってくる。「はい、お茶いれたよぉ」完全に空気が緩む。フィルニアは、即座にお茶へ飛び付いた。「うまっ!!」タマが呆れる。「お前さっきまで荷造りで暴れてたじゃん」「お茶は別腹!!」「初めて聞いたわ!!」その横では。トシオが、干し肉を見ていた。「これうまそうじゃのぉ」「じーちゃん今食うな!!」⸻同じ頃。竜王城・謁見の間。ヴァルドレイクは、静かに窓の外を見ていた。朝日に照らされる帝都。守れた。多くを失った。だが。国はまだ生きている。その時。後ろから、静かな声が響く。「寂しくなりますね」エレミアだった。ヴァルドレイクが、小さく鼻を鳴らす。「騒がしい連中だった」だが。その顔は、少しだけ柔らかかった。エレミアが、静かに笑う。「城の空気が、随分変わりました」ヴァルドレイクも、否定しなかった。張り詰めていた帝都。戦いだけだった国。だが。あの夫婦は。皆で飯を食い。笑い。兵士へお茶を配り。異形相手にすら、“腹減っとる”と言った。常識外れ。だが。だからこそ。救われたものがあ
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潮風の港町…

朝。港町ルーガストは、潮風の匂いで満ちていた。まだ陽が昇り切る前だというのに、港にはもう人の声が溢れている。「網持てぇぇ!!」「そっち引っ張れ!!」「飛魚逃がすなぁ!!」怒鳴り声。魚を捌く音。カモメの鳴き声。海の町独特の、騒がしくも力強い朝だった。宿の窓を開けたトシオは、静かに潮風を吸い込む。「……ええ匂いじゃのぉ」その声には、少し懐かしさが混じっていた。若い頃。海で生きてきた男の顔だった。後ろから、ミツコが湯気の立つ茶を差し出す。「落ち着く?」「やっぱ海はええ」トシオは笑う。若返った身体でも、海を見る目だけは昔の漁師そのままだった。波。風向き。空気の湿り。全部、身体が覚えている。ミツコが、そんな横顔を優しく見つめる。「なんか嬉しそうねぇ」「海見とると腹減るからの」「結局そこぉ?」二人は顔を見合わせて笑った。◇◇◇その頃。別の部屋。ぴくっ。小さな耳が動く。布団に埋まっていたミーコが、ゆっくり顔を上げた。綺麗な水色の髪が、朝日に淡く透ける。銀ではない。まるで、朝の海を映したみたいな色だった。レイシス王家直系だけが持つ、特別な毛色。だが本人は。「……焼き魚」真顔だった。隣の布団で寝ていたユキが、眠そうに目を擦る。銀白の髪が、ふわりと揺れた。「んぅ……?」「焼き魚の匂いする」その瞬間。ぐぅぅぅ……ミーコのお腹が鳴った。数秒の沈黙。ユキが吹き出す。「ミーコぉ……」「し、しょうがないじゃん!」耳をぺたんと伏せながら、顔を赤くする。そこへ、既に着替え終わったタマが入ってきた。タマもまた、ユキと同じ銀白の髪色だった。フェンリス家特有の、白銀毛色。「朝から何騒いで──」ぴたり。タマの耳が止まる。「……魚焼いてるな」「タマもじゃん!!」「いやこれは反応するだろ!?」ユキが笑い転げる。そこへ。こんこん。ミツコが扉を開けた。「朝ご飯食べに行こっかぁ」「行く!!」三人同時だった。ミツコが吹き出す。◇◇◇港の朝市は、想像以上の賑わいだった。巨大魚。貝。海藻。干物。見た事もない海産物が並び、香ばしい匂いが漂っている。「おぉぉぉぉ!!」フィルニアが、目を輝かせていた。「なんだここ!!全部うま
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黒潮の海…

港町ルーガストは、昼間の喧騒が嘘みたいに静まり返っていた。聞こえるのは、波の音だけ。だが。海だけは違った。沖合。黒い霧が、ゆっくり海面を覆っている。まるで。海そのものが腐っていくみたいに。港の見張り台から、鐘が激しく鳴り響いた。「黒潮だぁぁぁ!!」「船を下げろ!!」「港閉鎖急げ!!」漁師達が叫ぶ。人々が走る。昼間とは別の、切羽詰まった空気。宿の窓から海を見ていたミーコは、小さく耳を伏せた。「……嫌な感じ」水色の髪が、夜風に揺れる。タマが剣へ手を掛けた。「黒穴の気配に近いな」ユキも、不安そうに海を見ている。「海が泣いてるみたい……」その時。ギチ……ギチギチ……沖合から、奇妙な音が響いた。全員の空気が変わる。「来るぞ」トシオが静かに呟く。◇◇◇港では既に、武装した漁師達が集まっていた。銛。斧。古びた剣。軍ではない。ただ、町を守るための武器。だが皆、顔が青い。理由は簡単だった。海の霧の奥から、巨大な影が見えていたからだ。船。いや。“元”船だった。船体は腐り、黒い瘴気に覆われている。帆は裂け。木材は脈打つみたいに蠢いていた。そして。甲板に立つ影。異形だった。人の形をしている。だが。顔が無い。腕が歪んでいる。黒い泥みたいな肉体が、ぎちぎちと揺れていた。「……なんだありゃ」フィルニアですら、表情を険しくする。漁師の一人が震えながら呟く。「幽鬼船だ……」「昔から伝承だけはあった……」「黒潮に呑まれた船乗りが、海で化けるって……」その時。異形達が、ゆっくり港へ顔を向けた。ぞわり。空気が冷える。次の瞬間。ギャァァァァァァ!!異形達が一斉に叫んだ。「来るぞ!!」タマが叫ぶ。異形達が、船から飛び降りる。海面を走ってくる。人ではない動き。腐った肉片を撒き散らしながら、一直線に港へ迫っていた。漁師達が恐怖で後退る。だが。トシオが前へ出た。「じーちゃん!」「トシオさん!」ミツコの声。トシオは、静かに海を見る。その目は。昼間の穏やかな漁師ではなかった。海の鬼。その目だった。◇◇◇ズン……トシオが、一歩前へ出る。その瞬間。空気が変わった。漁師達が息を呑む。異形達ですら、一瞬動
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海風の街…

南方街道を渡る風は、少し湿っていた。潮の香り。遠くから、波の音まで聞こえてくる。空は高く。青かった。帝都ヴァルグランを旅立ってから、数日。トシオ達は、南方最大の海港都市――ルメリアへ向かっていた。街道脇には、背の低い草花が揺れている。海鳥が飛び。遠くでは、巨大な帆船の白帆まで見え始めていた。「おぉぉぉぉ……」フィルニアが、荷車の上から身を乗り出す。「海だ!!」白銀髪が風へなびく。赤い角。赤い瞳。黒と赤を基調にした軽装竜装束。マントを翻しながら、完全に子供みたいにはしゃいでいた。タマが呆れる。「まだ見えてないだろ」「匂いで分かる!!」「犬か!!」「竜だ!!」「そこ張り合う所!?」その横で。トシオは、のんびり空を見上げていた。潮風に、黒髪が揺れる。大柄。筋肉質。まるで海そのものみたいな、重厚な存在感。だが。表情だけは穏やかだった。「懐かしいのぉ」ミツコが、ふわりと笑う。「ほんとやねぇ」和装姿のミツコは、小さな籠を抱えている。相変わらず、旅の途中でも料理道具だけは多かった。ユキが、不思議そうに首を傾げる。「海って、そんなに違う?」ミーコが、静かに耳を揺らした。白銀髪。水色のオッドアイ。猫耳と尻尾。獣人姿の彼女は、潮風を感じながら目を細める。「匂いが違う」タマも頷く。「空気重いな」「湿っとるからのぉ」トシオが笑う。その時だった。風に乗って。どこか遠くから、歌声が聞こえてきた。『りゅうが にくをいれ〜♪』『もりびと やさいをいれ〜♪』『うみびと しおをいれ〜♪』小さな子供達の声。街道脇。停車している商隊の荷馬車。数人の子供達が、荷台へ座りながら歌っていた。ユキが、静かに耳を動かす。「……始まりの歌」タマも、少し驚いた顔をする。「こんな所でも歌ってんだ」フィルニアは、普通に口ずさんでいた。『おなじなべを かこみなさい〜♪』ミツコが、不思議そうに笑う。「かわええ歌やねぇ」トシオも頷く。「子守歌みたいじゃの」その瞬間。商隊の老人が、目を丸くした。「……旅人さん、その歌を知らんのか?」白髭の老人だった。日に焼けた肌。大きな魚樽を積んだ荷車。海商人らしい。ミーコが、静かに老人を見
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