じじばばにゃんこと異世界奇譚

じじばばにゃんこと異世界奇譚

last update最後更新 : 2026-09-14
作者:  こいたろ剛剛更新
語言: Japanese
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故事簡介

異世界ファンタジー

転生

獣人

「じじばばにゃんこと異世界奇譚』 最愛の家族を失い、 静かに生きていた老夫婦トシオとミツコ。 ある日、 三匹の子猫との出会いをきっかけに、 二人は異世界『レヴァナスタシア』へ導かれる。 そこは、 竜と獣人、 魔法と戦乱が存在する世界。 若き姿を得た二人は、 争い続ける種族達へ、 “同じ鍋を囲む温かさ”を届けていく。 これは―― 優しさが、 世界を変えていく物語。

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第 1 章

3匹の子猫たち…

その冬は、

何年ぶりか分からないほど雪が積もっていた。

古い平屋の屋根は白く染まり、

山あいの小さな村は静まり返っている。

縁側では、

トシオが湯飲みを片手に空を見ていた。

「よう降るなぁ」

「ほんとやねぇ」

ミツコは小さく笑い、

みかんの皮を剥いている。

85年。

長い人生だった。

二人には、

子供がいた。

けれど、

生まれて間もなく亡くなった。

それ以来、

二人きりで生きてきた。

悲しくなかったわけじゃない。

寂しくなかったわけじゃない。

それでも、

二人で飯を食べ、

笑って、

季節を越えてきた。

ただ最近、

ミツコは少しだけ痩せた。

病院の帰り道。

「長くはないでしょう」

医者はそう言った。

トシオは何も答えなかった。

ミツコも、

「そうですか」

と笑っただけだった。

だから今日も、

何でもない日みたいに過ごしている。

それが二人の優しさだった。

夕方。

買い物帰りの山道。

吹雪の中で、

トシオが足を止めた。

「……ん?」

小さな声。

雪の積もった側溝の奥。

ミツコが覗き込み、

息を呑む。

「まぁ……!」

そこにいたのは、

三匹の子猫だった。

二匹は雪みたいに白い。

もう一匹だけ、

ほんのり水色がかった毛並みをしていた。

三匹とも、

身体が震えている。

「こんな小さい子……」

ミツコは迷わず、

そっと抱き上げた。

すると、

水色の子猫がゆっくり目を開く。

丸い瞳。

片方は蒼。

片方は金。

不思議な、

吸い込まれそうな瞳だった。

トシオは小さく眉をひそめる。

「……普通の猫じゃねぇな」

「でも放っとけんよ」

ミツコは胸に抱き寄せる。

子猫は、

安心したみたいに小さく鳴いた。

「ミーコ」

「ん?」

「この子、ミーコや」

ミツコは笑った。

「この元気な子はタマ。

このふわふわの子はユキ」

トシオは少し呆れた顔をしたあと、

ふっと笑う。

「もう名前決まったんか」

その夜。

炬燵の中で、

三匹は丸くなって眠っていた。

タマは腹を見せている。

ユキはミツコの膝の上。

そしてミーコだけが、

静かに雪の降る外を見ていた。

まるで──

何かを警戒するように。

その時だった。

家の奥で、

古い柱がギシリと鳴る。

風もないのに。

トシオが振り返る。

暗い廊下の向こう。

そこに一瞬だけ、

“誰か”が立っていた。

白く長い影。

次の瞬間には消えていた。

「……なんだ今の」

低く呟いたその時。

ミーコのオッドアイが、

淡く蒼く光った。

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9 章節
3匹の子猫たち…
その冬は、何年ぶりか分からないほど雪が積もっていた。古い平屋の屋根は白く染まり、山あいの小さな村は静まり返っている。縁側では、トシオが湯飲みを片手に空を見ていた。「よう降るなぁ」「ほんとやねぇ」ミツコは小さく笑い、みかんの皮を剥いている。85年。長い人生だった。二人には、子供がいた。けれど、生まれて間もなく亡くなった。それ以来、二人きりで生きてきた。悲しくなかったわけじゃない。寂しくなかったわけじゃない。それでも、二人で飯を食べ、笑って、季節を越えてきた。ただ最近、ミツコは少しだけ痩せた。病院の帰り道。「長くはないでしょう」医者はそう言った。トシオは何も答えなかった。ミツコも、「そうですか」と笑っただけだった。だから今日も、何でもない日みたいに過ごしている。それが二人の優しさだった。夕方。買い物帰りの山道。吹雪の中で、トシオが足を止めた。「……ん?」小さな声。雪の積もった側溝の奥。ミツコが覗き込み、息を呑む。「まぁ……!」そこにいたのは、三匹の子猫だった。二匹は雪みたいに白い。もう一匹だけ、ほんのり水色がかった毛並みをしていた。三匹とも、身体が震えている。「こんな小さい子……」ミツコは迷わず、そっと抱き上げた。すると、水色の子猫がゆっくり目を開く。丸い瞳。片方は蒼。片方は金。不思議な、吸い込まれそうな瞳だった。トシオは小さく眉をひそめる。「……普通の猫じゃねぇな」「でも放っとけんよ」ミツコは胸に抱き寄せる。子猫は、安心したみたいに小さく鳴いた。「ミーコ」「ん?」「この子、ミーコや」ミツコは笑った。「この元気な子はタマ。このふわふわの子はユキ」トシオは少し呆れた顔をしたあと、ふっと笑う。「もう名前決まったんか」その夜。炬燵の中で、三匹は丸くなって眠っていた。タマは腹を見せている。ユキはミツコの膝の上。そしてミーコだけが、静かに雪の降る外を見ていた。まるで──何かを警戒するように。その時だった。家の奥で、古い柱がギシリと鳴る。風もないのに。トシオが振り返る。暗い廊下の向こう。そこに一瞬だけ、“誰か”が立っていた。白く長い影。次の瞬間には消えていた。「……なんだ今の」低く呟いた
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穏やかな日…
朝。囲炉裏の上で、やかんが静かに鳴っていた。外はまだ雪。古い平屋は冷える。けれど今日は、いつもより少しだけ暖かかった。「タマ、こら。走ったら滑るよ」畳の上を勢いよく走った白い子猫が、つるりと転ぶ。そのまま炬燵に頭から突っ込み、ミツコが吹き出した。「ほらねぇ」タマは何事もなかったようにまた走り出す。トシオは新聞をめくりながら、小さく笑った。「元気なやつだ」ユキは、そんなタマを心配そうに見ながら、ミツコの膝で丸くなっている。そしてミーコだけは、窓の外を見ていた。雪。白い空。遠くの山。まるで何かを探すように、じっと。「ミーコ?」ミツコが呼ぶと、ハッとしたように振り返る。そして、少し迷ってから、ゆっくりミツコのそばへ来た。「寒かったねぇ」ミツコは、ふわふわの身体を抱き上げる。ミーコは最初、少し身体を強張らせた。でもやがて、小さく喉を鳴らし始める。その音を聞いて、ミツコは優しく笑った。「甘えるの下手くそやねぇ」トシオは黙ってその様子を見ていた。その時だった。ガタッ。突然、家の奥で何かが倒れる音。三匹の耳が同時に立つ。空気が変わった。ミーコの瞳が細くなる。タマはミツコの前へ出た。ユキは小さく震えている。「……誰かおるな」トシオが静かに立ち上がる。ゆっくり廊下へ向かう。古い床が軋む。暗い廊下の奥。誰もいない。だが、障子が少しだけ開いていた。冷たい風が入り込む。そして。雪の上に、奇妙な足跡が残っていた。人間でもない。獣でもない。爪のような跡。トシオは目を細める。その瞬間。ミーコが低く唸った。今まで聞いたことのない声。幼い子猫とは思えない、鋭く張り詰めた声だった。次の瞬間、窓の外の森で、何かが動いた。黒い影。一瞬だけ、金色の目が光る。タマが飛び出そうとする。だがミーコが、その前に立った。小さな身体。震えている。それでも、守るように。まるで──“王”のように。「……ミーコ?」ミツコが不安そうに呟く。その時。ミーコの口から、かすかに言葉が漏れた。「……みつかった」静まり返る部屋。トシオの目が見開かれる。ミツコは、抱えていた湯飲みを落とした。そして雪の降る山の奥で、何か巨大な影が、ゆっく
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忍び寄る…
「……今、喋った?」ミツコの声は震えていた。囲炉裏の火が、ぱちりと音を立てる。ミーコは、自分でも驚いたように口を閉じた。そして俯く。まるで、“言ってはいけないこと”を口にしてしまった子供みたいに。タマとユキも、不安そうにミーコを見ている。トシオだけは、静かだった。窓の外を見つめ、低く呟く。「……来るぞ」その瞬間。ドンッ!!家全体が揺れた。天井から埃が落ちる。ミツコが息を呑む。外。雪の庭。そこに、“それ”は立っていた。二本脚。黒い外套。頭には、獣の骨みたいな仮面。人ではない。けれど獣でもない。そして何より異様だったのは、周囲の雪だけが溶けていること。ジュウゥ……白い湯気が立つ。タマが低く唸る。ユキは震えながら、ミツコの服に隠れた。ミーコは、じっと外を見つめていた。その顔から、子猫らしい幼さが消えている。「……狩人」小さな声。けれど、はっきりした言葉だった。「私を……連れ戻しに来た」ミツコはミーコを抱き寄せる。「駄目よ」その一言に、ミーコの目が揺れた。「この子はうちの子や」外套の怪物が、ゆっくり顔を上げる。仮面の奥。赤い光。そして。──グォォォ……地鳴りみたいな低い声。空気が震える。窓ガラスにヒビが入る。普通の人間なら、立っていられない圧力。だが。トシオは、囲炉裏の火箸を手に取った。「トシオさん!?」「ミツコ」振り返らないまま言う。「戸を閉めとけ」静かな声だった。でも、海の底みたいに重かった。トシオは玄関へ向かう。ギィ……古い引き戸が開く。吹雪。白い世界。黒い怪物。85年生きた男は、火箸一本持って、雪の庭へ出た。怪物が笑う。『ニンゲン』頭の中に、直接響く声。『ソレヲ渡セ』トシオは肩をすくめた。「うるさいのぉ」そして。雪を踏みしめる。「寝とる猫を起こすんじゃねぇよ」次の瞬間。怪物の身体が、見えない何かに殴り飛ばされた。轟音。庭の石灯籠が砕ける。ミツコが息を呑む。タマのアホ毛がピンと立つ。ユキは目を丸くしていた。そしてミーコだけが知っていた。──ありえない。あの怪物は、異世界の兵士ですら恐れる“狩人”。普通の人間に勝てる存在じゃない。なのに。雪の中。トシオは
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不安と変わりつつある事…
あの日から。家の周囲には、時々“何か”が現れるようになった。雪の上に残る奇妙な足跡。夜中、山の奥で響く遠吠え。そして、ミーコたちが時折見せる、猫とは思えない表情。けれど。不思議と、家の中だけは穏やかだった。「タマ、味噌汁飲もうとせん!」「にゃっ!?」「ユキは細すぎるねぇ。もっと食べんね」「みゃぅ……」「ミーコはまた難しい顔しとる」囲炉裏の前。ミーコは小さく目を逸らした。トシオは、その様子を見ながら煙草に火をつける。「最近、よう笑うようになったな」ミーコの耳がぴくりと動いた。「……そうでしょうか」まだ拙いが、もう普通に言葉を話している。最初こそ驚いていたミツコも、今では自然に返事をしていた。「いいことや」ミツコは笑う。「笑える時は笑わんと」その横顔を見て、トシオは静かに目を伏せた。最近、咳が増えた。立ち上がる時、少し苦しそうにする。分かっていた。時間はもう、長くない。その夜。雪は止み、空には星が出ていた。縁側。ミツコは毛布にくるまり、三匹を膝に乗せている。「綺麗やねぇ」空を見上げ、小さく笑う。ミーコは、そんなミツコをじっと見ていた。「……怖くないのですか」「ん?」「終わることが」静かな声。王族として、多くの死を見てきた声だった。ミツコは少し考え、空を見上げる。「怖いよ」その言葉に、ミーコの目が揺れる。「でもねぇ」ミツコは、三匹をそっと撫でた。「最後に、こんな幸せもらったけん」「……」「悪くない人生やった」ミーコは俯く。小さな身体が震えていた。その時。遠くの山が、一瞬だけ蒼く光った。空気が変わる。トシオが立ち上がる。そしてミーコは知ってしまう。──来る。“世界”が、こちらを見つけた。
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別れと始まりの…
その夜。吹雪だった。窓を叩く風が、まるで誰かの叫び声みたいに響いている。ミツコは布団の中で、静かに呼吸していた。浅い。弱い。トシオは、その手を握っている。もう何も言わなかった。言葉にした瞬間、終わってしまいそうだったから。囲炉裏の前では、タマとユキが寄り添っている。そしてミーコだけが、外を見ていた。蒼い瞳。その奥に映るのは、雪山ではない。“門”。異世界へ続く、巨大な光の裂け目。ついに境界が崩れ始めていた。ミーコは理解していた。この家が、この世界との“楔”だった。そして。ミツコの命こそが、門を安定させていたのだと。「……嫌」小さな声。王女ではない。ただの幼い少女の声だった。「嫌です……」その時。ミツコの瞼が、ゆっくり開く。「ミーコ……?」「……っ」ミーコは慌てて駆け寄る。ミツコは、弱々しく笑った。「泣かんでよぉ」その手が、ミーコの頭を撫でる。優しい。あまりにも優しい。ミーコは、初めて知ってしまった。“母”の温もりを。「……おばあちゃん」ぽろりと涙が落ちる。ミツコは、少し驚いたように目を丸くした。そして、嬉しそうに笑った。「うん」その瞬間。世界が揺れた。ゴォォォォ──!!家の外。山の奥で、巨大な蒼い光が空を裂く。門が開く。吹雪が逆巻く。家が軋む。タマが叫ぶ。ユキが震える。ミーコのオッドアイが、強く輝き始める。そして。ミツコは最後に、トシオを見る。「……ありがとうねぇ」トシオは、何も言えなかった。ただ、強く手を握る。そして。ミツコの手から、力が抜けた。静寂。その瞬間。門が完全に開いた。蒼い光が、家ごと飲み込む。タマの身体が光る。ユキの毛並みが舞う。ミーコの姿が、人の形へ変わり始める。そしてトシオは、ミツコを抱き締めたまま、光の中へ落ちていく。──暖かい。最後に、そう思った。気づけば。そこには、青空が広がっていた。
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蒼天の世界…
──暖かい。最初に感じたのは、陽の光だった。まぶたの裏を、優しい熱が照らしている。雪の寒さじゃない。囲炉裏の火でもない。もっと広く、果てしない温もり。トシオはゆっくり目を開けた。青空。どこまでも、どこまでも続く蒼。「……なんじゃここは」起き上がった瞬間。バキッ。足元の岩が砕けた。「……は?」自分の声が若い。いや、それだけじゃない。腕。肩。胸。着物が張るほど、筋肉が盛り上がっている。トシオは自分の手を見た。シワがない。白髪もない。日に焼けた、若い頃の腕だった。「……夢か?」その時。「トシオさん」聞き慣れた声。振り向いた瞬間、トシオの目が止まる。そこにいたのは、黒髪の少女だった。透き通るような肌。柔らかな目元。見覚えのある笑顔。「……ミツコ?」少女は困ったように笑う。「みたいやねぇ」二人はしばらく、何も言えなかった。目の前の相手が、ちゃんと“あの人”だと分かるのに、姿だけが違う。トシオは頭を掻く。「若返っとる……」「びっくりやねぇ」ミツコは、まるで他人事みたいに笑った。その時だった。草むらが揺れる。白銀の影が飛び出した。「ミツコおおおぉぉ!!」ドンッ!!勢いよく胸へ飛び込んできたのは、猫耳の少女だった。水色がかった銀髪。ふわふわの尻尾。蒼と金のオッドアイ。涙でぐしゃぐしゃの顔。「あぁ……よかった……!」その後ろから、さらに二人。「ばーちゃぁぁぁん!!」銀毛の少年獣人。ぴょこんと跳ねた二本のアホ毛。元気そうな顔をしているのに、今は涙でいっぱいだった。そして、その隣には銀白の少女。長いふわふわの髪。儚げな瞳。今にも泣き崩れそうに、ミツコを見つめている。「おばあちゃん……っ」ミツコは目を丸くした。「……ミーコ?」少女は何度も頷く。「タマもユキも……」トシオは、しばらく三人を見つめた後、ふっと笑った。「でかくなったのぉ」「そこなんですか!?」タマが涙目で叫ぶ。その声に、ミツコが吹き出した。「ほんとタマやねぇ」そして、三人まとめて抱き締める。「大丈夫よぉ」その瞬間。世界が震えた。ゴォォォォ──!!遠く。山脈の向こう。巨大な黒煙が空へ昇る。風が変わる。そして。空に浮かぶ、
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竜の民…
「……戦争が始まってしまう」ミーコ――水色がかった銀髪の少女は、震える声で呟いた。空を覆う、巨大要塞ヴァルグレイド。その黒い影だけで、空気が重くなる。タマは耳を伏せた。「なんでこんな場所に王国軍が……」ユキも不安そうに空を見上げる。「追手……?」ミーコは答えなかった。その表情だけで、全部伝わってしまった。トシオは腕を組む。「とりあえず、腹減ったのぉ」「この空気で!?」タマが叫ぶ。ミツコは少し笑った。「みんな落ち着いとらんもん」その時だった。ゴォォォッ!!上空から、爆風が吹き荒れる。巨大な影。空を横切ったのは、黒い竜だった。いや。一匹じゃない。三匹。巨大な翼が、太陽を隠す。タマが反射的に前へ出る。ミーコの顔が険しくなる。「竜人族……!」竜は、少し離れた草原へ降下した。轟音。地面が揺れる。そして。砂煙の中から現れたのは、鎧姿の戦士たちだった。漆黒の角。竜の尾。金色の瞳。人ではない。その中心にいたのは、長身の女戦士だった。燃えるような赤髪。大剣。鋭い目。彼女は、ミーコを見るなり目を細める。「……やはりか」空気が張り詰めた。タマが低く唸る。ユキはミツコの後ろへ下がった。ミーコは一歩前へ出る。「ヴォルグラード帝国軍……」女戦士は静かに頷く。「竜人族第三戦団長。カリヴァ=ドラグニル」その名だけで、ミーコの顔色が変わった。かなり偉いらしい。しかし。トシオだけは、ぽりぽり頭を掻いていた。「長い名前じゃのぉ」沈黙。竜人兵たちがザワつく。カリヴァの眉がぴくりと動いた。「……貴様、状況を理解しているのか?」「してないのぉ」トシオは即答した。「起きたら若返っとった」タマが頭を抱える。「じーちゃん!!」その時。竜人兵の一人が、ミーコへ槍を向けた。「レイシス王族を確認!確保します!」空気が凍る。だが次の瞬間。カリヴァが、その兵士の前へ腕を出した。「待て」低い声。そして。彼女はゆっくり、片膝をついた。竜人兵たちが息を呑む。「……まさか、ご存命だったとは」風が草を揺らす。赤髪の戦団長は、静かに頭を垂れた。「アクアリア=ヴァル=レイシス王女殿下」静寂。トシオが眉を上げる。ユキが不安そうにミーコ
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始まりの民…
草原を吹き抜ける風は、冷たかった。砕けた槍。沈黙する竜人兵。そして。素手で槍を握り潰した青年――トシオを見つめる、カリヴァ=ドラグニルの鋭い瞳。「……何者だ、貴様ら」低い声だった。疑念。警戒。そして、わずかな恐怖。トシオは頭を掻く。「何者って言われても、昨日まで漁師じゃったしのぉ」「漁師……?」カリヴァの眉が寄る。タマが慌てて前へ出た。「じーちゃんはじーちゃんだよ!」「タマ、それ説明になっとらんよ」ミツコが苦笑する。その空気に、竜人兵たちの方が混乱していた。意味が分からない。目の前の存在は、明らかに異常。なのに、どこにでもいる家族みたいに会話している。その時だった。一人の竜人兵が、突然顔色を変えた。「……っ!」震える指で、トシオとミツコを指差す。「ま、まさか……」兵士の瞳には、明確な怯えが浮かんでいた。「どうした」カリヴァが問う。竜人兵は、乾いた唇を震わせる。「角が……反応しています」空気が止まる。カリヴァの目が細くなる。竜人族の角。それは、古代の魔力や神性に反応する器官。嘘はつかない。兵士は、恐怖に滲んだ声で呟いた。「……始まりの民」ミーコの顔が凍りついた。ユキも息を呑む。タマはきょとんとしている。「はじまり?」カリヴァが、ゆっくりトシオへ近づく。その目には、先程までの軍人としての視線ではなく、“神話を見る者”の色があった。「人族……」静かな声。「馬鹿な。存在するはずがない」トシオは首を傾げる。「人族?」「レヴァナスタシア最古の伝承だ」今度はミーコが答えた。その声は、どこか震えている。「世界アルケシアを巡った、最初の二人」風が吹く。草原が揺れる。ミーコは、まるで古い絵本を読むみたいに続けた。「男神アダル。女神イヴェナ」「七種族を導き、命を繋ぎ、世界へ知恵を与えた存在」ユキが静かに俯く。「そして……神代の終わりに消えた種族」沈黙。タマだけが、話についていけずに瞬きをしていた。「え?じゃあじーちゃん達って神様?」「違うのぉ」トシオは即答した。「昨日まで畑の大根抜いとった」空気が崩れる。ミツコが吹き出した。「ほんとやねぇ」だが。カリヴァだけは笑わなかった。竜人族第三戦団長
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空飛ぶ城…
ゴォォォォォ──!!空気が震える。巨大要塞ヴァルグレイド。その黒い巨影が、草原の空を覆っていた。近づくほど分かる。大きい。あまりにも大きい。まるで山そのものが、空を飛んでいるみたいだった。側面には、無数の砲門。腹部には、巨大な魔導結晶。そして城壁には、レイシス王国の紋章。獅子と波を重ねた王家の証。ミーコ――アクアリア=ヴァル=レイシスの顔が曇る。「……第一王子派」カリヴァが低く呟いた。「間違いないな」竜人兵たちにも緊張が走る。空中要塞は、本来なら国家戦争級兵器。それがこんな辺境まで来る時点で、異常だった。「ミーコを探しとるんか?」トシオが聞く。ミーコは小さく頷いた。「私が生きていると知られれば、争いはもっと酷くなります」その声には、王女としての責任が滲んでいた。だが。「ふぅん」トシオは空を見上げる。「でかい船じゃのぉ」「船……?」カリヴァが固まる。「空を飛んでおるだけで、あれは船じゃろ」タマが吹き出した。「じーちゃん、その発想好き」だが次の瞬間。ヴァルグレイドの側面が、赤く光る。カリヴァの顔色が変わった。「全員伏せろ!!」轟音。空が裂けた。極太の光線が、草原を薙ぎ払う。ドォォォォォン!!爆炎。地面が抉れる。草原が吹き飛ぶ。タマがミーコを庇う。ユキが悲鳴を上げた。ミツコの髪が爆風に揺れる。そして。その中心で。トシオだけが、動かなかった。黒煙の中。仁王立ち。片腕を前へ出した姿勢のまま。カリヴァの瞳が揺れる。「……防いだ?」トシオの足元。大地が深く抉れている。だが。それだけだった。トシオは、少し痺れた腕をぶらぶら振る。「熱いのぉ」沈黙。竜人兵たちの顔から、完全に血の気が引いた。ヴァルグレイドですら、止まったように見える。タマが口を開ける。「……じーちゃん今、王国砲止めた?」「なんか飛んできた」「なんかじゃない!!」ユキは震えながら、ミツコへしがみつく。ミツコは困ったように笑った。「トシオさん、怪我しとらん?」「腹減った」「後でおにぎり作るねぇ」その瞬間。カリヴァ=ドラグニルは、確信していた。この二人は、ただの人族ではない。神話そのものだと。その時だった。ヴァルグレイド上空
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