じじばばにゃんこと異世界奇譚

じじばばにゃんこと異世界奇譚

last update최신 업데이트 : 2026-10-25
작가:  こいたろ최근 업데이트
언어: Japanese
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「じじばばにゃんこと異世界奇譚』 最愛の家族を失い、 静かに生きていた老夫婦トシオとミツコ。 ある日、 三匹の子猫との出会いをきっかけに、 二人は異世界『レヴァナスタシア』へ導かれる。 そこは、 竜と獣人、 魔法と戦乱が存在する世界。 若き姿を得た二人は、 争い続ける種族達へ、 “同じ鍋を囲む温かさ”を届けていく。 これは―― 優しさが、 世界を変えていく物語。

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1화

3匹の子猫たち…

その冬は、

何年ぶりか分からないほど雪が積もっていた。

古い平屋の屋根は白く染まり、

山あいの小さな村は静まり返っている。

縁側では、

トシオが湯飲みを片手に空を見ていた。

「よう降るなぁ」

「ほんとやねぇ」

ミツコは小さく笑い、

みかんの皮を剥いている。

85年。

長い人生だった。

二人には、

子供がいた。

けれど、

生まれて間もなく亡くなった。

それ以来、

二人きりで生きてきた。

悲しくなかったわけじゃない。

寂しくなかったわけじゃない。

それでも、

二人で飯を食べ、

笑って、

季節を越えてきた。

ただ最近、

ミツコは少しだけ痩せた。

病院の帰り道。

「長くはないでしょう」

医者はそう言った。

トシオは何も答えなかった。

ミツコも、

「そうですか」

と笑っただけだった。

だから今日も、

何でもない日みたいに過ごしている。

それが二人の優しさだった。

夕方。

買い物帰りの山道。

吹雪の中で、

トシオが足を止めた。

「……ん?」

小さな声。

雪の積もった側溝の奥。

ミツコが覗き込み、

息を呑む。

「まぁ……!」

そこにいたのは、

三匹の子猫だった。

二匹は雪みたいに白い。

もう一匹だけ、

ほんのり水色がかった毛並みをしていた。

三匹とも、

身体が震えている。

「こんな小さい子……」

ミツコは迷わず、

そっと抱き上げた。

すると、

水色の子猫がゆっくり目を開く。

丸い瞳。

片方は蒼。

片方は金。

不思議な、

吸い込まれそうな瞳だった。

トシオは小さく眉をひそめる。

「……普通の猫じゃねぇな」

「でも放っとけんよ」

ミツコは胸に抱き寄せる。

子猫は、

安心したみたいに小さく鳴いた。

「ミーコ」

「ん?」

「この子、ミーコや」

ミツコは笑った。

「この元気な子はタマ。

このふわふわの子はユキ」

トシオは少し呆れた顔をしたあと、

ふっと笑う。

「もう名前決まったんか」

その夜。

炬燵の中で、

三匹は丸くなって眠っていた。

タマは腹を見せている。

ユキはミツコの膝の上。

そしてミーコだけが、

静かに雪の降る外を見ていた。

まるで──

何かを警戒するように。

その時だった。

家の奥で、

古い柱がギシリと鳴る。

風もないのに。

トシオが振り返る。

暗い廊下の向こう。

そこに一瞬だけ、

“誰か”が立っていた。

白く長い影。

次の瞬間には消えていた。

「……なんだ今の」

低く呟いたその時。

ミーコのオッドアイが、

淡く蒼く光った。

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182 챕터
3匹の子猫たち…
その冬は、何年ぶりか分からないほど雪が積もっていた。古い平屋の屋根は白く染まり、山あいの小さな村は静まり返っている。縁側では、トシオが湯飲みを片手に空を見ていた。「よう降るなぁ」「ほんとやねぇ」ミツコは小さく笑い、みかんの皮を剥いている。85年。長い人生だった。二人には、子供がいた。けれど、生まれて間もなく亡くなった。それ以来、二人きりで生きてきた。悲しくなかったわけじゃない。寂しくなかったわけじゃない。それでも、二人で飯を食べ、笑って、季節を越えてきた。ただ最近、ミツコは少しだけ痩せた。病院の帰り道。「長くはないでしょう」医者はそう言った。トシオは何も答えなかった。ミツコも、「そうですか」と笑っただけだった。だから今日も、何でもない日みたいに過ごしている。それが二人の優しさだった。夕方。買い物帰りの山道。吹雪の中で、トシオが足を止めた。「……ん?」小さな声。雪の積もった側溝の奥。ミツコが覗き込み、息を呑む。「まぁ……!」そこにいたのは、三匹の子猫だった。二匹は雪みたいに白い。もう一匹だけ、ほんのり水色がかった毛並みをしていた。三匹とも、身体が震えている。「こんな小さい子……」ミツコは迷わず、そっと抱き上げた。すると、水色の子猫がゆっくり目を開く。丸い瞳。片方は蒼。片方は金。不思議な、吸い込まれそうな瞳だった。トシオは小さく眉をひそめる。「……普通の猫じゃねぇな」「でも放っとけんよ」ミツコは胸に抱き寄せる。子猫は、安心したみたいに小さく鳴いた。「ミーコ」「ん?」「この子、ミーコや」ミツコは笑った。「この元気な子はタマ。このふわふわの子はユキ」トシオは少し呆れた顔をしたあと、ふっと笑う。「もう名前決まったんか」その夜。炬燵の中で、三匹は丸くなって眠っていた。タマは腹を見せている。ユキはミツコの膝の上。そしてミーコだけが、静かに雪の降る外を見ていた。まるで──何かを警戒するように。その時だった。家の奥で、古い柱がギシリと鳴る。風もないのに。トシオが振り返る。暗い廊下の向こう。そこに一瞬だけ、“誰か”が立っていた。白く長い影。次の瞬間には消えていた。「……なんだ今の」低く呟いた
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穏やかな日…
朝。囲炉裏の上で、やかんが静かに鳴っていた。外はまだ雪。古い平屋は冷える。けれど今日は、いつもより少しだけ暖かかった。「タマ、こら。走ったら滑るよ」畳の上を勢いよく走った白い子猫が、つるりと転ぶ。そのまま炬燵に頭から突っ込み、ミツコが吹き出した。「ほらねぇ」タマは何事もなかったようにまた走り出す。トシオは新聞をめくりながら、小さく笑った。「元気なやつだ」ユキは、そんなタマを心配そうに見ながら、ミツコの膝で丸くなっている。そしてミーコだけは、窓の外を見ていた。雪。白い空。遠くの山。まるで何かを探すように、じっと。「ミーコ?」ミツコが呼ぶと、ハッとしたように振り返る。そして、少し迷ってから、ゆっくりミツコのそばへ来た。「寒かったねぇ」ミツコは、ふわふわの身体を抱き上げる。ミーコは最初、少し身体を強張らせた。でもやがて、小さく喉を鳴らし始める。その音を聞いて、ミツコは優しく笑った。「甘えるの下手くそやねぇ」トシオは黙ってその様子を見ていた。その時だった。ガタッ。突然、家の奥で何かが倒れる音。三匹の耳が同時に立つ。空気が変わった。ミーコの瞳が細くなる。タマはミツコの前へ出た。ユキは小さく震えている。「……誰かおるな」トシオが静かに立ち上がる。ゆっくり廊下へ向かう。古い床が軋む。暗い廊下の奥。誰もいない。だが、障子が少しだけ開いていた。冷たい風が入り込む。そして。雪の上に、奇妙な足跡が残っていた。人間でもない。獣でもない。爪のような跡。トシオは目を細める。その瞬間。ミーコが低く唸った。今まで聞いたことのない声。幼い子猫とは思えない、鋭く張り詰めた声だった。次の瞬間、窓の外の森で、何かが動いた。黒い影。一瞬だけ、金色の目が光る。タマが飛び出そうとする。だがミーコが、その前に立った。小さな身体。震えている。それでも、守るように。まるで──“王”のように。「……ミーコ?」ミツコが不安そうに呟く。その時。ミーコの口から、かすかに言葉が漏れた。「……みつかった」静まり返る部屋。トシオの目が見開かれる。ミツコは、抱えていた湯飲みを落とした。そして雪の降る山の奥で、何か巨大な影が、ゆっく
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忍び寄る…
「……今、喋った?」ミツコの声は震えていた。囲炉裏の火が、ぱちりと音を立てる。ミーコは、自分でも驚いたように口を閉じた。そして俯く。まるで、“言ってはいけないこと”を口にしてしまった子供みたいに。タマとユキも、不安そうにミーコを見ている。トシオだけは、静かだった。窓の外を見つめ、低く呟く。「……来るぞ」その瞬間。ドンッ!!家全体が揺れた。天井から埃が落ちる。ミツコが息を呑む。外。雪の庭。そこに、“それ”は立っていた。二本脚。黒い外套。頭には、獣の骨みたいな仮面。人ではない。けれど獣でもない。そして何より異様だったのは、周囲の雪だけが溶けていること。ジュウゥ……白い湯気が立つ。タマが低く唸る。ユキは震えながら、ミツコの服に隠れた。ミーコは、じっと外を見つめていた。その顔から、子猫らしい幼さが消えている。「……狩人」小さな声。けれど、はっきりした言葉だった。「私を……連れ戻しに来た」ミツコはミーコを抱き寄せる。「駄目よ」その一言に、ミーコの目が揺れた。「この子はうちの子や」外套の怪物が、ゆっくり顔を上げる。仮面の奥。赤い光。そして。──グォォォ……地鳴りみたいな低い声。空気が震える。窓ガラスにヒビが入る。普通の人間なら、立っていられない圧力。だが。トシオは、囲炉裏の火箸を手に取った。「トシオさん!?」「ミツコ」振り返らないまま言う。「戸を閉めとけ」静かな声だった。でも、海の底みたいに重かった。トシオは玄関へ向かう。ギィ……古い引き戸が開く。吹雪。白い世界。黒い怪物。85年生きた男は、火箸一本持って、雪の庭へ出た。怪物が笑う。『ニンゲン』頭の中に、直接響く声。『ソレヲ渡セ』トシオは肩をすくめた。「うるさいのぉ」そして。雪を踏みしめる。「寝とる猫を起こすんじゃねぇよ」次の瞬間。怪物の身体が、見えない何かに殴り飛ばされた。轟音。庭の石灯籠が砕ける。ミツコが息を呑む。タマのアホ毛がピンと立つ。ユキは目を丸くしていた。そしてミーコだけが知っていた。──ありえない。あの怪物は、異世界の兵士ですら恐れる“狩人”。普通の人間に勝てる存在じゃない。なのに。雪の中。トシオは
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不安と変わりつつある事…
あの日から。家の周囲には、時々“何か”が現れるようになった。雪の上に残る奇妙な足跡。夜中、山の奥で響く遠吠え。そして、ミーコたちが時折見せる、猫とは思えない表情。けれど。不思議と、家の中だけは穏やかだった。「タマ、味噌汁飲もうとせん!」「にゃっ!?」「ユキは細すぎるねぇ。もっと食べんね」「みゃぅ……」「ミーコはまた難しい顔しとる」囲炉裏の前。ミーコは小さく目を逸らした。トシオは、その様子を見ながら煙草に火をつける。「最近、よう笑うようになったな」ミーコの耳がぴくりと動いた。「……そうでしょうか」まだ拙いが、もう普通に言葉を話している。最初こそ驚いていたミツコも、今では自然に返事をしていた。「いいことや」ミツコは笑う。「笑える時は笑わんと」その横顔を見て、トシオは静かに目を伏せた。最近、咳が増えた。立ち上がる時、少し苦しそうにする。分かっていた。時間はもう、長くない。その夜。雪は止み、空には星が出ていた。縁側。ミツコは毛布にくるまり、三匹を膝に乗せている。「綺麗やねぇ」空を見上げ、小さく笑う。ミーコは、そんなミツコをじっと見ていた。「……怖くないのですか」「ん?」「終わることが」静かな声。王族として、多くの死を見てきた声だった。ミツコは少し考え、空を見上げる。「怖いよ」その言葉に、ミーコの目が揺れる。「でもねぇ」ミツコは、三匹をそっと撫でた。「最後に、こんな幸せもらったけん」「……」「悪くない人生やった」ミーコは俯く。小さな身体が震えていた。その時。遠くの山が、一瞬だけ蒼く光った。空気が変わる。トシオが立ち上がる。そしてミーコは知ってしまう。──来る。“世界”が、こちらを見つけた。
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別れと始まりの…
その夜。吹雪だった。窓を叩く風が、まるで誰かの叫び声みたいに響いている。ミツコは布団の中で、静かに呼吸していた。浅い。弱い。トシオは、その手を握っている。もう何も言わなかった。言葉にした瞬間、終わってしまいそうだったから。囲炉裏の前では、タマとユキが寄り添っている。そしてミーコだけが、外を見ていた。蒼い瞳。その奥に映るのは、雪山ではない。“門”。異世界へ続く、巨大な光の裂け目。ついに境界が崩れ始めていた。ミーコは理解していた。この家が、この世界との“楔”だった。そして。ミツコの命こそが、門を安定させていたのだと。「……嫌」小さな声。王女ではない。ただの幼い少女の声だった。「嫌です……」その時。ミツコの瞼が、ゆっくり開く。「ミーコ……?」「……っ」ミーコは慌てて駆け寄る。ミツコは、弱々しく笑った。「泣かんでよぉ」その手が、ミーコの頭を撫でる。優しい。あまりにも優しい。ミーコは、初めて知ってしまった。“母”の温もりを。「……おばあちゃん」ぽろりと涙が落ちる。ミツコは、少し驚いたように目を丸くした。そして、嬉しそうに笑った。「うん」その瞬間。世界が揺れた。ゴォォォォ──!!家の外。山の奥で、巨大な蒼い光が空を裂く。門が開く。吹雪が逆巻く。家が軋む。タマが叫ぶ。ユキが震える。ミーコのオッドアイが、強く輝き始める。そして。ミツコは最後に、トシオを見る。「……ありがとうねぇ」トシオは、何も言えなかった。ただ、強く手を握る。そして。ミツコの手から、力が抜けた。静寂。その瞬間。門が完全に開いた。蒼い光が、家ごと飲み込む。タマの身体が光る。ユキの毛並みが舞う。ミーコの姿が、人の形へ変わり始める。そしてトシオは、ミツコを抱き締めたまま、光の中へ落ちていく。──暖かい。最後に、そう思った。気づけば。そこには、青空が広がっていた。
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蒼天の世界…
──暖かい。最初に感じたのは、陽の光だった。まぶたの裏を、優しい熱が照らしている。雪の寒さじゃない。囲炉裏の火でもない。もっと広く、果てしない温もり。トシオはゆっくり目を開けた。青空。どこまでも、どこまでも続く蒼。「……なんじゃここは」起き上がった瞬間。バキッ。足元の岩が砕けた。「……は?」自分の声が若い。いや、それだけじゃない。腕。肩。胸。着物が張るほど、筋肉が盛り上がっている。トシオは自分の手を見た。シワがない。白髪もない。日に焼けた、若い頃の腕だった。「……夢か?」その時。「トシオさん」聞き慣れた声。振り向いた瞬間、トシオの目が止まる。そこにいたのは、黒髪の少女だった。透き通るような肌。柔らかな目元。見覚えのある笑顔。「……ミツコ?」少女は困ったように笑う。「みたいやねぇ」二人はしばらく、何も言えなかった。目の前の相手が、ちゃんと“あの人”だと分かるのに、姿だけが違う。トシオは頭を掻く。「若返っとる……」「びっくりやねぇ」ミツコは、まるで他人事みたいに笑った。その時だった。草むらが揺れる。白銀の影が飛び出した。「ミツコおおおぉぉ!!」ドンッ!!勢いよく胸へ飛び込んできたのは、猫耳の少女だった。水色がかった銀髪。ふわふわの尻尾。蒼と金のオッドアイ。涙でぐしゃぐしゃの顔。「あぁ……よかった……!」その後ろから、さらに二人。「ばーちゃぁぁぁん!!」銀毛の少年獣人。ぴょこんと跳ねた二本のアホ毛。元気そうな顔をしているのに、今は涙でいっぱいだった。そして、その隣には銀白の少女。長いふわふわの髪。儚げな瞳。今にも泣き崩れそうに、ミツコを見つめている。「おばあちゃん……っ」ミツコは目を丸くした。「……ミーコ?」少女は何度も頷く。「タマもユキも……」トシオは、しばらく三人を見つめた後、ふっと笑った。「でかくなったのぉ」「そこなんですか!?」タマが涙目で叫ぶ。その声に、ミツコが吹き出した。「ほんとタマやねぇ」そして、三人まとめて抱き締める。「大丈夫よぉ」その瞬間。世界が震えた。ゴォォォォ──!!遠く。山脈の向こう。巨大な黒煙が空へ昇る。風が変わる。そして。空に浮かぶ、
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竜の民…
「……戦争が始まってしまう」ミーコ――水色がかった銀髪の少女は、震える声で呟いた。空を覆う、巨大要塞ヴァルグレイド。その黒い影だけで、空気が重くなる。タマは耳を伏せた。「なんでこんな場所に王国軍が……」ユキも不安そうに空を見上げる。「追手……?」ミーコは答えなかった。その表情だけで、全部伝わってしまった。トシオは腕を組む。「とりあえず、腹減ったのぉ」「この空気で!?」タマが叫ぶ。ミツコは少し笑った。「みんな落ち着いとらんもん」その時だった。ゴォォォッ!!上空から、爆風が吹き荒れる。巨大な影。空を横切ったのは、黒い竜だった。いや。一匹じゃない。三匹。巨大な翼が、太陽を隠す。タマが反射的に前へ出る。ミーコの顔が険しくなる。「竜人族……!」竜は、少し離れた草原へ降下した。轟音。地面が揺れる。そして。砂煙の中から現れたのは、鎧姿の戦士たちだった。漆黒の角。竜の尾。金色の瞳。人ではない。その中心にいたのは、長身の女戦士だった。燃えるような赤髪。大剣。鋭い目。彼女は、ミーコを見るなり目を細める。「……やはりか」空気が張り詰めた。タマが低く唸る。ユキはミツコの後ろへ下がった。ミーコは一歩前へ出る。「ヴォルグラード帝国軍……」女戦士は静かに頷く。「竜人族第三戦団長。カリヴァ=ドラグニル」その名だけで、ミーコの顔色が変わった。かなり偉いらしい。しかし。トシオだけは、ぽりぽり頭を掻いていた。「長い名前じゃのぉ」沈黙。竜人兵たちがザワつく。カリヴァの眉がぴくりと動いた。「……貴様、状況を理解しているのか?」「してないのぉ」トシオは即答した。「起きたら若返っとった」タマが頭を抱える。「じーちゃん!!」その時。竜人兵の一人が、ミーコへ槍を向けた。「レイシス王族を確認!確保します!」空気が凍る。だが次の瞬間。カリヴァが、その兵士の前へ腕を出した。「待て」低い声。そして。彼女はゆっくり、片膝をついた。竜人兵たちが息を呑む。「……まさか、ご存命だったとは」風が草を揺らす。赤髪の戦団長は、静かに頭を垂れた。「アクアリア=ヴァル=レイシス王女殿下」静寂。トシオが眉を上げる。ユキが不安そうにミーコ
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始まりの民…
草原を吹き抜ける風は、冷たかった。砕けた槍。沈黙する竜人兵。そして。素手で槍を握り潰した青年――トシオを見つめる、カリヴァ=ドラグニルの鋭い瞳。「……何者だ、貴様ら」低い声だった。疑念。警戒。そして、わずかな恐怖。トシオは頭を掻く。「何者って言われても、昨日まで漁師じゃったしのぉ」「漁師……?」カリヴァの眉が寄る。タマが慌てて前へ出た。「じーちゃんはじーちゃんだよ!」「タマ、それ説明になっとらんよ」ミツコが苦笑する。その空気に、竜人兵たちの方が混乱していた。意味が分からない。目の前の存在は、明らかに異常。なのに、どこにでもいる家族みたいに会話している。その時だった。一人の竜人兵が、突然顔色を変えた。「……っ!」震える指で、トシオとミツコを指差す。「ま、まさか……」兵士の瞳には、明確な怯えが浮かんでいた。「どうした」カリヴァが問う。竜人兵は、乾いた唇を震わせる。「角が……反応しています」空気が止まる。カリヴァの目が細くなる。竜人族の角。それは、古代の魔力や神性に反応する器官。嘘はつかない。兵士は、恐怖に滲んだ声で呟いた。「……始まりの民」ミーコの顔が凍りついた。ユキも息を呑む。タマはきょとんとしている。「はじまり?」カリヴァが、ゆっくりトシオへ近づく。その目には、先程までの軍人としての視線ではなく、“神話を見る者”の色があった。「人族……」静かな声。「馬鹿な。存在するはずがない」トシオは首を傾げる。「人族?」「レヴァナスタシア最古の伝承だ」今度はミーコが答えた。その声は、どこか震えている。「世界アルケシアを巡った、最初の二人」風が吹く。草原が揺れる。ミーコは、まるで古い絵本を読むみたいに続けた。「男神アダル。女神イヴェナ」「七種族を導き、命を繋ぎ、世界へ知恵を与えた存在」ユキが静かに俯く。「そして……神代の終わりに消えた種族」沈黙。タマだけが、話についていけずに瞬きをしていた。「え?じゃあじーちゃん達って神様?」「違うのぉ」トシオは即答した。「昨日まで畑の大根抜いとった」空気が崩れる。ミツコが吹き出した。「ほんとやねぇ」だが。カリヴァだけは笑わなかった。竜人族第三戦団長
last update최신 업데이트 : 2026-09-14
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空飛ぶ城…
ゴォォォォォ──!!空気が震える。巨大要塞ヴァルグレイド。その黒い巨影が、草原の空を覆っていた。近づくほど分かる。大きい。あまりにも大きい。まるで山そのものが、空を飛んでいるみたいだった。側面には、無数の砲門。腹部には、巨大な魔導結晶。そして城壁には、レイシス王国の紋章。獅子と波を重ねた王家の証。ミーコ――アクアリア=ヴァル=レイシスの顔が曇る。「……第一王子派」カリヴァが低く呟いた。「間違いないな」竜人兵たちにも緊張が走る。空中要塞は、本来なら国家戦争級兵器。それがこんな辺境まで来る時点で、異常だった。「ミーコを探しとるんか?」トシオが聞く。ミーコは小さく頷いた。「私が生きていると知られれば、争いはもっと酷くなります」その声には、王女としての責任が滲んでいた。だが。「ふぅん」トシオは空を見上げる。「でかい船じゃのぉ」「船……?」カリヴァが固まる。「空を飛んでおるだけで、あれは船じゃろ」タマが吹き出した。「じーちゃん、その発想好き」だが次の瞬間。ヴァルグレイドの側面が、赤く光る。カリヴァの顔色が変わった。「全員伏せろ!!」轟音。空が裂けた。極太の光線が、草原を薙ぎ払う。ドォォォォォン!!爆炎。地面が抉れる。草原が吹き飛ぶ。タマがミーコを庇う。ユキが悲鳴を上げた。ミツコの髪が爆風に揺れる。そして。その中心で。トシオだけが、動かなかった。黒煙の中。仁王立ち。片腕を前へ出した姿勢のまま。カリヴァの瞳が揺れる。「……防いだ?」トシオの足元。大地が深く抉れている。だが。それだけだった。トシオは、少し痺れた腕をぶらぶら振る。「熱いのぉ」沈黙。竜人兵たちの顔から、完全に血の気が引いた。ヴァルグレイドですら、止まったように見える。タマが口を開ける。「……じーちゃん今、王国砲止めた?」「なんか飛んできた」「なんかじゃない!!」ユキは震えながら、ミツコへしがみつく。ミツコは困ったように笑った。「トシオさん、怪我しとらん?」「腹減った」「後でおにぎり作るねぇ」その瞬間。カリヴァ=ドラグニルは、確信していた。この二人は、ただの人族ではない。神話そのものだと。その時だった。ヴァルグレイド上空
last update최신 업데이트 : 2026-09-14
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竜の翼…
空が赤く染まる。 巨大要塞ヴァルグレイド。 その上空へ展開された、 超大型魔法陣。 草原全体へ、 重圧が降り注ぐ。 カリヴァ=ドラグニルの顔色が変わった。 「あれは……まずい」 竜人兵たちも緊張している。 タマが耳を伏せた。 「なんかヤバそうなんだけど」 「なんかじゃない!!」 カリヴァが叫ぶ。 「あれは対城級魔導砲だ! この辺り一帯が消し飛ぶ!!」 ユキが息を呑む。 ミーコの顔も青ざめていた。 「どうして…… ここまで本気で……」 ヴァルグレイド。 それは、 国家戦争用の兵器。 本来、 個人へ向けるものではない。 つまり。 王国側は、 アクアリア=ヴァル=レイシスを “確実に消す”つもりだった。 空気が張り詰める。 だが。 「……あの船、 落としたら駄目か?」 トシオがぼそりと呟いた。 全員が固まる。 「は?」 タマが間抜けな声を出す。 カリヴァですら、 一瞬言葉を失った。 「落とすって…… あれをか?」 空中要塞。 全長数キロ。 国家兵器。 普通なら、 国ひとつでようやく止める代物。 トシオは普通に頷く。 「船なら落ちるじゃろ」 「理屈がおかしい!!」 タマが叫ぶ。 その瞬間。 ヴァルグレイドの魔法陣が、 さらに輝きを増した。 空気が震える。 地面が軋む。 第二射。 来る。 カリヴァが剣を抜いた。 「総員防御態勢!!」 竜人兵たちが動く。 魔法陣展開。 防御障壁。 だが。 誰も、 防ぎ切れるとは思っていなかった。 その時。 トシオが、 ゆっくり前へ出る。 ミツコが少し困った顔をする。 「トシオさん」 「ん?」 「ほどほどにねぇ」 「善処する」 カリヴァが目を見開いた。 ほどほど。 国家兵器相手に。 そんな会話をする存在を、 彼女は初めて見た。 トシオは空を見上げる。 巨大要塞。 砲門。 魔法陣。 まるで、 嵐の海に浮かぶ巨大漁船だった。 「……潮の流れみたいなもんか」 次の瞬間。 ドォォォォォォン!! 第二射が放たれる。
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