午後9時40分。小さなジャズライブハウスに入った。理由は、雨。傘はあった。でも、駅まで歩く気になれないくらい強くなった。近くに、〈本日21:30〜 2nd set〉と書かれた看板。30分くらい雨宿り。そのつもりだった。店内は暗い。丸いテーブル。小さなステージ。ピアノ。ベース。サックス。私は一番後ろの空いた席へ。と思ったら。「すみません、そこ相席でもいいですか?」スタッフに聞かれる。小さなテーブル。先客が1人。30代後半くらいの男性。濃い色のシャツ。手元にはウイスキー。彼が軽く会釈する。「どうぞ」「すみません」向かいに座る。演奏が始まる。会話はできない。ピアノの音。ベース。サックス。近い。生の音って、思ったより体に響く。私はホットコーヒーを頼んだ。雨宿りのつもりなのに、少し本気で聴いている。1曲目が終わる。拍手。向かいの彼が少し身を寄せた。「その曲、知ってます?」店内がまだざわついていて、聞こえにくい。「何?」彼がさらに近づく。耳元。「今の曲」低い声。近い。「知らない」私も小声で返す。「有名なの?」「結構」「じゃあ私が知らないだけ」「僕も最近知りました」なんだ。彼が笑う。次の曲。今度は少しゆったり。演奏中、テーブルの下で私の膝が何かに触
Last Updated : 2026-09-30 Read more