午後10時18分。水曜の夜。ホームに入ってきた電車を、私は見送った。乗れなかったわけじゃない。乗らなかった。理由は、目の前にいたから。「……久しぶり」5年前まで同じ会社にいた元同僚。一緒の部署ではなかったけれど、よく仕事帰りに何人かで飲んだ。たまに2人だけになったこともある。そして。あの頃、少しだけ好きだった。たぶん、向こうも少しだけ。でも何も起きなかった。そのまま彼が転職した。連絡も自然に減った。「何でいるの?」私が聞く。「この辺で打ち合わせ」「こんな時間まで?」「長引いた」「変わらないね」「そっちも」「何が?」「帰るの遅い」お互い様。次の電車まで7分。「さっきの乗れたでしょ」彼が言う。「そっちこそ」「俺は乗り換え違う」「じゃあ私だけ?」「見送った?」ばれている。「久しぶりだから」素直に言う。彼が少し笑った。「それ言われると、ちょっと嬉しい」昔より言うようになった。ベンチへ座る。彼も隣。自販機の明かり。ホームの端に少し冷たい風。「元気だった?」「まあまあ」「それ一番信用できない答え」「そっちは?」「まあまあ」「同じじゃん」笑う。5年空いているのに、会話は思ったより戻る。昔の部署。上司。共通の知人。結婚した人。辞めた人。「覚えてる?」彼が
Last Updated : 2026-10-21 Read more