午前1時。小児病棟5階の主照明が一斉に落ち、廊下が闇に沈んだ。非常階段の防火扉が、音を立てて開いた。点検作業着の上に黒い上着を羽織った男が、8人入ってきた。手には特殊警棒、結束バンド、折り畳みナイフ。静江が悠真を強引に連れ去るため、雇った者たちだった。502号室のドアが非常用キーで開けられ、乱暴に押し開かれた。悠真の熱を確かめていた紗月は、はっとしてベッドの前に立った。「誰ですか! ここは重症の子どもの隔離病室です。出ていって!」暗がりの向こうから、チンチラとミンクのコートを着た静江が、金色の杖をついて現れた。口元には冷たい笑みがあった。「水瀬紗月。その卑しい手から、鷹宮家のたった一人の孫を引き取りに来たのよ」杖の先で紗月の鎖骨を突き、鋭く言った。「怜司が母親に逆らって暴れているのも、全部あなたがたぶらかしたせいでしょう。子どもは私が連れていって、鷹宮家の完璧な後継者に育てる。あなたは黙って消えなさい。逆らえば、5年前の父親と同じように、呼吸器を外されて死体になるわよ」紗月は点滴スタンドを握り、ベッドの前をふさいだ。「この子に指一本でも触れたら、ただじゃおかない。人殺し」「最後まで生意気な女ね! その女の頭を叩き割って、子どもを毛布でくるんで連れてきなさい!」紗月は非常呼び出しボタンを押したが、電源が落ちて反応しなかった。すぐに携帯電話で警察へ位置を伝え、悠真の酸素チューブが折れないよう、ベッドの頭側を壁へ寄せた。「ママ、ぼく……怖くないよ」声が震えていた。「怖くてもいいの。ママの声だけ聞いて、ゆっくり息をして」静江はあざ笑い、男たちへ入口をふさぐよう命じた。だが廊下の映像も入退室サーバーも、外部の警備センターへ自動でバックアップされていた。先頭の男が鉄パイプを上げ、紗月へ近づこうとしたとき、廊下の非常灯が一斉に点いた。「動くな」怜司が、防刃ベストを着た病院警備員とともに現れた。紗月を見たまま、短く尋ねた。「悠真の酸素は大丈夫か?」「今は大丈夫。
Terakhir Diperbarui : 2026-09-20 Baca selengkapnya