八王子の霊園、納骨堂前の石段。秋の雨が激しく降る中、黒いレインコートの男が、懐から長い刺身包丁を抜いた。「静江会長を牢屋に入れた報いだ! 息子の首から落としてやる!」男は紗月と手をつないで階段を下りる悠真へ、まっすぐ突っ込んできた。「悠真!」紗月が抱きかばおうと体をひねったが、男のほうが近かった。怜司は悠真の肩を引き寄せ、紗月を横へ押し、自分の体で二人をふさいだ。刃が左脇腹へ深く入り、男の手とともに抜けた。「ぐっ……!」押し殺した声が漏れた。怜司はうまく息ができないまま、片手で傷を押さえ、肩で男を突き飛ばした。紗月が悠真を抱いて石段の下へ退く間に、霊園の警備員と追いついた護衛が、男を取り押さえた。「刃物を離してください! 119番しました!」紗月の声とともに、一人が落ちた包丁を足で遠ざけた。怜司は血の染みる腹を押さえ、雨水のたまった地面へ膝をついた。血圧が下がり、視界が白くなる。それでも震える血まみれの手を伸ばし、悠真の頬を探した。「悠真……けがは……ないか……?」頬に触れた手が落ち、怜司は雨水の中へ倒れた。紗月は折り畳んだ布を脇腹に当て、両手で圧迫した。「目を閉じないで。救急車が来るまで、私を見て」怜司は答える代わりに、悠真のいる方へ目を動かした。悠真は泣きながら、その指をつかんだ。「けがしてない。だからおじさんも、寝ちゃだめ」護衛たちは男から刃物を遠ざけ、周囲への立ち入りを止めた。怜司には顔を上げる力さえなかった。それでも、悠真が警備員の後ろに安全に立っていると確かめるまで、目を閉じなかった。紗月は怜司を寝かせ、コートの裏地を折って傷へ当てた。刺さったままなら触らない。今はすでに刃が抜けていたので、出血を抑えることが先だった。「怜司さん、声は聞こえますか? 名前を言って」「たか……みや、れいじ」「悠真の誕生日は?」焦点がぼやけるたび、紗月は手に力を込めた。「見てるだけじゃなく、答えて。意識を手放さないで」怜司の
Terakhir Diperbarui : 2026-09-25 Baca selengkapnya