病院から支払いの請求書を渡されたとき、海人の体はすでに冷たくなっていた。1000万円。救命措置や手術、それまでの治療で滞納していた費用を合わせた金額だ。「至急お支払いを済ませてください。遺体の搬送にもご家族の署名が必要になります」と、看護師が声を落として告げる。私は請求書をじっと見つめていた。そこに印字された数字が次第にぼやけていき、そこでようやく、自分がまた泣いていることに気づく。朔也に電話をかけたが、すでに着信拒否されていた。代わりに秘書から電話がかかってくる。その口調は、いつもと変わらず丁寧だ。「奥様、社長は今、取り込み中です」「1000万円だけでいいから……」声はかすれている。「海人が……亡くなったって伝えて。これから葬儀の手配をしなきゃいけないの」電話の向こうが、しばらく沈黙する。「奥様、社長は、もう騙されないとおっしゃっています」スマホを強く握りしめる。2年前、確かに私は朔也を騙した。あのとき、海人は初めての心臓手術を終えたばかりだった。私は1か月、つきっきりで世話をしていた。それなのに、朔也は一度も病院に顔を出さなかった。灰原家に閉じ込められた生活にも、海人が何度も「どうしてパパは僕のことが嫌いなの?」と尋ねてくることにも、もう耐えられなかった。だから私は朔也に、海人を連れて病院へ検査に行くと嘘をついた。本当は、その時点ですでに南の街へ向かう切符を2枚用意していた。私たちのことを誰も知らない遠くの街で、人生をやり直したかった。しかし、発車の10分前、朔也が部下を連れて駅のホームに現れた。彼は海人の目の前で切符を引き裂き、私を無理やり灰原家へ連れ戻した。それから私は、1か月もの間、監禁された。スマホも、パスポートも、キャッシュカードも、すべて取り上げられた。朔也は部屋の外に立ち、冷たい声で言った。「また海人を連れて逃げようとしたら、一生この家から出られると思うな」あのとき、私は確かに嘘をついた。だから今、私が何を言おうと、朔也は信じない。「それに、坊ちゃんの死を口実にして騙そうとするなら、本気で怒るともおっしゃっています」秘書の声に、現実へ引き戻される。白い布がかけられた小さなベッドを見た。海人は静かに横たわっている。手首には、
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