アデラインが提示した条件は毎晩の夕食を共にすること、そして週に2日の授業だった。「もちろん、外せない約束などもおありでしょうから強制ではありませんわ。でも、その時はちゃんと事前に連絡をくださいませね」 仕事を理由に断ろうとした矢先に、アデラインがやんわりと先制したため、ヒューはその条件を受け入れざるを得なかった。 屋敷で食事をとり、夜は紳士の集まりに出向く。それはそんなに大変な作業ではない。面倒になれば理由を付けて断ればいいのだ。 そう考えることにしたが、3日も夕食を共にすると、この魅力的な時間を断るのは非常に惜しいことにヒューは気付いていた。 トマスの報告では、アデラインはヒドルストン伯爵夫人にいたく気に入られており、サロンに頻繁に出入りしているとのことだったが、それはヒューの想像よりも有益な出来事だったのだ。 アデラインは流行りの物語や、話題の舞台や詩などヒューの興味のなかった様々な分野の話を聞かせてくれた。 それらのおかげで紳士の集まりでも、話題を取りこぼすことが無くなったのは、とても大きな成果だった。 だが、一番の成果は貴婦人たちの動向を把握できることだった。「オルランド伯爵の船が沈んだことで、絹や生糸が高騰していると皆様不安に思われていらしてましたわ」 オルランド商会はこの国の絹の2割を占めていた。 もちろんベッカー商会でも絹の取り扱いはあるが、流通量が少なくなった分、アデラインの言うとおり絹の価格は例年に比べて高騰している。「社交のシーズンはもう終わりでしょう。屋敷に引きこもるのに絹のドレスは不要なのでは」「まあ。旦那様ったら。冬が終われば春がきますのよ?皆様今のうちに次の社交シーズンに向けた衣装を作るのに大忙しですわ」「なるほど。それは死活問題だ」 ヒューはコーヒーを飲みながら口元を緩めた。 この高騰は、前々から絹の在庫を十分に確保していたベッカー商会にとっては痛手でもなんでもなく、渡りに船でしかなかったからだ。「春の社交が始まるまでに絹のドレスが用意できなかったらどうするというんだ?」 ヒューが揶揄うように言うと、アデラインは少し
Dernière mise à jour : 2026-10-03 Read More