一度や二度の験担ぎと呼ぶには、あまりにも長い。「遼」「ん?」「悠真って、長く付き合った人いないの?」遼が写真を整理していた手を止めた。「急に何」「私には『何人か会ったことある』くらいしか言わなかったから。考えてみたら、彼女を紹介されたこともないし」「長く続いた人はいないよ」「どのくらい短いの?」「大学のとき一回、二か月くらい。ジム始める前は、一か月いかなかったかな」朱里が知っていたよりずっと短かった。悠真は恋愛の話を聞くと面倒そうに流した。朱里はただ、無愛想な性格だから私生活を話したくないのだと思っていた。その「二か月」の間にも、悠真は朱里の就活面接の前、毎朝電話で起こしてくれた。「一か月も続かなかった」という相手と会っていた頃には、朱里が初めて担当した作品の打ち切り日に、夜食を持って会社まで来た。付き合ってる人がいるのにそんなことしていいの、と聞いたら、「もう終わった」とだけ返された。当時はたまたま時期が重なったのだと思った。今はもう、偶然だとは片づけにくい。「なんで全部すぐ別れたの?」「それ俺に聞く?」遼が曖昧に笑った。「あいつ、人に時間使わないからな。ジムか水泳の勉強、それ以外なら朱里。付き合った側からしたら、そりゃきついだろ」「私は友達だからでしょ」「そう。友達」その返事が妙に聞こえて振り返ったが、遼はもう次の箱を開けていた。朱里はミサンガを元の前ポケットへ丁寧に戻した。手を離しても、粗い糸の感触が掌紋の間に残っていた。*家へ戻ると、悠真はキッチンで遅い夕飯を作っていた。朱里はスイムバッグの入った箱を玄関脇へ置く。「昔の資料、片づいた?」「うん。遼がサイトに使うって」「余計なことするな、あいつ」「バッグの中に、私があげたミサンガあった」包丁の音が止まった。悠真はまな板を見たまま言う。「見た?」「なんでまだ持ってるの?」「捨てたら絶交って言っただろ」「高校生の冗談、今まで守ってるの?」「捨てる理由なかったし」悠真はまた包丁を持った。朱里はまな板へ向く横顔を見つめ、ダイニングの椅子を引いて座る。「ねえ。付き合っても、なんで全部すぐ別れたの?」包丁の先がネギから少し外れた。「遼、何言った」「私が聞いたの。今まで、あんたが言わなかったから」悠真は包丁を置き、手を洗った。
Last Updated : 2026-09-19 Read more