「考えてるの」「紹介の相手にも、そんなに考えさせるのか?」「だって、そのときはあんたじゃないし……」言葉が途切れた。悠真の目が唇で止まり、また目へ戻る。「避けたいなら避けろ」冗談はなかった。「今、顔そらしたら、ここで終わる」どうか、避けないでくれ。15年間積み上げたこの卑怯な境界を。お前の手で壊してほしい。悠真は心の中で何度も叫んだ。朱里の揺れる息が唇の近くへ触れるたび、理性の糸が一本ずつ切れていく。やがて朱里が顔を上げた。「避けない」悠真の顎が、ほんの少し固くなる。「意味わかって言ってる?」「わかってる」今度は朱里が先に距離を縮めた。小さな動き。でも答えとしては十分だった。悠真の唇が触れる。最初は確認。短く触れ、離れる。次に近づく前に、朱里の顔を見る。朱里も目を開けたまま見返していた。つないだ手を離す代わりに。悠真の指を強く握る。二度目の口づけは、まるで違った。悠真は、長く押さえてきたものを少しだけこぼした。もう片方の手で朱里の頬を包み。唇をゆっくり重ねる。親友の体温と呼ぶには、知らない。初めてのキスと呼ぶには、不思議なくらい懐かしい。朱里が息を整えるため顔を動かすと、悠真はすぐ空間を作った。「平気?」荒れているのは声だけ。手は朱里が逃げられるくらい緩い。朱里は答えず、つないだ手を離さない。悠真の視線が自分の唇へ落ちても、顔をそらさなかった。その許しに。悠真はもう一度、深く口づけた。いつの間にか、ソファの上でつないだ手はほどけている。朱里の手が悠真の肩へ乗っていた。スーツのシャツ越しに硬い身体が触れる。朱里の指先が一度動いた。悠真はすぐに離れた。急に空いた場所へ、冷たい空気が入る。悠真は半歩離れ。片手で自分の口元をぬぐい。床を見た。「ごめん」「何が?」「練習って言うには、長すぎた」朱里が慌てて続けた。「実践みたいにしようって言ったじゃん。あんたが」それが言い訳だということを。朱里も。悠真も。よくわかっていた。「練習かどうか」を言葉にするなら。なぜ避けなかったのかも、説明しなければならない。悠真がゆっくり朱里を見る。「本気でそう思ってる?」「じゃあ、何だと思うの」朱里はクッションを引き寄せ、腹の前へ置いた。悠真は答えなかった。朱里も
Last Updated : 2026-09-20 Read more