朱里は目を開けると、まず腰へ回った腕を確かめた。「朝になっても答えを聞く」と言っていた本人は、ぐっすり眠っている。いつもより乱れた髪が額に落ち、枕に押された頬には薄い跡がついていた。15年の間に、悠真の寝顔なら何度も見てきた。大会前の控室でも。夜通し映画を観て、そのままソファで寝落ちしたときも。同じベッドで目を覚ましたのは初めてだった。朱里が腕をそっと持ち上げようとすると、腰の手が動いた。目は閉じたまま。「行くな」「トイレ」「行ってこい」「だったら離して」そこでようやく腕がほどけた。朱里がベッドから降りると、悠真が目を開ける。まだ眠そうな顔で朱里を上から下まで確認し、上半身を起こした。「後悔してる?」「朝からそれ?」「答えるって言っただろ」朱里はベッド脇に立ち、悠真の額を指で押した。「してない。昨日より好き。はい、満足?」悠真が手首をつかんで引いた。バランスを崩した朱里がベッドへ倒れ込むと、笑いながら受け止める。「まだ」「欲張りすぎ」「もう我慢する理由ないだろ」唇が触れる直前。朱里は手のひらで悠真の顔を押し止めた。「歯磨き」悠真の眉が寄る。「桜井朱里」「現実の恋愛は口腔ケアからです」朱里は笑いながら部屋を抜けた。すぐ後ろから、裸足でついてくる足音がする。いつも通り顔を洗い。いつも通り出勤の準備をして。いつも通りテーブルで向かい合い、卵を食べた。違うのはほんの少しだけ。悠真はコーヒーを渡すとき、わざと指を触れさせた。朱里は彼がトーストを食べている間、足先でふくらはぎをつついた。友達だった頃から距離は近かった。でも今は、触れるたびに意図がある。悠真が卵をもう一つ皿へ乗せた。「今日、マンスリーの荷物取りに行く」「私が帰りに行く」「一緒に」「代表さん、お忙しいんじゃないですか?」「忙しいけど行く」「コントロールし始めたら即減点ね」悠真は少し考えてから、うなずいた。「わかった。お前が来てって言ったら行く」「そんなすぐわかると、私が悪い人みたいじゃん」「じゃあ押し切る?」「やだ。今のがいい」朱里がさらっと言うと、悠真のフォークが止まった。昨夜、何度も「好き」と聞いたのに。毎回、初めて聞いたみたいな顔をする。朱里はその顔をもう少し見ていたくて、何事もなかったようにコ
Last Updated : 2026-09-20 Read more