心ない嘲笑を耳にしても、知代は黙々と作業の手を止めなかった。前世でも、同じだった。あのときの知代は、噂話が聞こえた途端に手元の部品を作業台へ叩きつけ、職場じゅうの視線を集めるなか、ひとりずつ指さして罵り返した。相手が顔を真っ赤にして黙りこむまで。陰では誰もが彼女を「頭がおかしい女」と呼んだ。それでも構わなかった。文幸さえいてくれれば、他人に何を言われようとどうでもよかったのだ。文幸は、県庁から出向してきた職員だった。いつも糊のきいた白いワイシャツを着こなし、すらりと背が高い。端整な顔立ちには、周囲の男たちとは明らかに違う品格が漂っていた。知代はひと目で恋に落ちた。その年、川に飛びこんで文幸の窮地を救った知代は、命の恩を盾にして、自分との結婚を迫ったのである。首尾よく籍は入れた。けれど、知代は痛いほどわかっていた。彼の心には、ずっと清子という幼なじみが住み着いていることを。諦めきれなかった知代は、あらゆる手を使って子を身ごもった。子どもさえいれば、彼の心をつなぎとめられると信じたのだ。ところが、生まれた娘までもが、なぜか清子の背中ばかり追いかけた。毎日「清子おねえちゃん」と慕い、すっかり懐き、実の母親である知代のことなど眼中にないようだった。前世では、会社は東北の過疎の町に新設された工場を立ち上げるため、各部署に応援要員の割り当てを出していた。異例なことに、既婚者までもが対象とされた。その候補名簿に自分の名前が載ったとき、知代は裏で金を積み、つてを頼って、自分の名前をこっそり清子の名前に書き換えさせたのだ。物思いに沈んでいると、路地の入り口がにわかに騒がしくなった。顔を上げると、文幸と清子が肩を並べて歩いてくるのが見えた。うつむきがちに言葉を交わしては、ふたりで笑い合っている。娘の梅谷早百合(うめたに さゆり)も弾んだ声で「清子おねえちゃん!」と呼びながら両手を広げて清子の胸に飛びこんでいった。まるで、絵に描いたような親子3人の姿だった。その和やかな光景は、前世の知代が、死ぬまで手に入れられなかったものだった。清子が地方へ発ったあと、知代は持てるすべてを注ぎこみ、文幸のよき妻になろうと努めた。仕事に没頭するあまり食事を忘れる彼のために、弁当を作って職場まで届けた。毎晩遅くまで残業する彼を、
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