Todos los capítulos de 灰になった妻は、遠い空の下で新しい愛を知る: Capítulo 11 - Capítulo 20

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第11話

かつて和葉は、自分を救うために子宮を激しく損傷した。だから誓ったのだ。生涯大切にする、一生子どもは作らない、と。それなのに、一生どころか、こんなにも早く、ふたりは生と死に引き裂かれてしまった。暁人は同じ姿勢のまま、一晩を明かした。考えはもうまとまっていた。和葉の両親は海外にいるから、航空会社からもすぐには連絡がつかないはずだ。人を使って手を回せば、きっと遺品を手に入れられる。まずは彼女の葬儀を執り行う。舞来の子どもなど、どうでもいい。自分は一生、和葉のそばにいるのだ。心を決めて部屋を出ると、執事が慌てて駆け寄ってきた。「社長、ようやく出てきてくださいましたか。菅沢様が大変なんです!」「なんだ?」暁人は眉をひそめた。今は、そういう話を聞きたい気分ではなかった。「菅沢様が体調を崩されて、お腹の張りもあるそうで、入院されました!当主様が、すぐに来るようにと!」暁人はしばし黙り込んだが、結局は病院へ向かった。着いてみると、舞来はICUのベッドでうめき声を上げていた。両親はその前を落ち着きなく行ったり来たりしている。「だから言ったのよ、和葉はろくでもない女だって。死んでまで舞来ちゃんに祟るなんて!自分が子どもを産めないだけならまだしも、いつも舞来ちゃんを目の敵にして、いったい何なのよ!」美郷が嘆いた。和葉が自分のために子宮を損なったことは、これまで星山家には伏せてきた。けれど今、これ以上彼女に濡れ衣を着せたくはなかった。暁人は低い声で切り出した。「子どものことだけど、和葉は前に……」その言葉を遮るように、医師がICUから出てきた。「菅沢舞来さんのご家族の方!妊婦さんは母子ともに問題ありません。今日このまま退院できますよ」背を向けながら、医師はぼそりと呟いた。「まったく、何ともない妊婦さんをICUに入れて、ベッドを占領して……」そのひと言が、暁人の耳に引っかかった。両親とともに舞来を迎えに行こうとしていた足が止まる。暁人は訝しげに振り返り、医師を呼び止めた。「今、なんて言いました?」医師は一瞬きょとんとした。「あなたがご家族ですか。妊婦さんはどこも悪くありませんよ。次からはこんな大騒ぎしないでください」そう言い残すと、医師は別の病室へ急いでいった。ガラス越
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第12話

「うちの孫が無事で、本当によかったわ」美郷がしみじみと言った。「ええ。きっと、この子と私の運が強かったんです」舞来は微笑み、ほどよく儚げな表情を作ってみせた。お腹はもう臨月で、いつ生まれてもおかしくない。そんな時期に和葉が事故で消えてくれるなんて、まさに天の配剤だった。和葉さえいなければ、自分が星山家の妻の座に収まるのは当然の流れだ。お腹にいるのは暁人の子なのだから、たとえ彼に愛されていなくても、この子に免じて星山家に置いてもらえるはずだ。舞来はお腹を撫で、笑みを浮かべた。もう少し美郷と話していようとしたそのとき、玄関の扉が勢いよく開いた。暁人が帰ってきたのだ。舞来は目を輝かせ、お腹を支えながら急いで出迎えた。「暁人さん、おかえりなさい。昨日はいてくれなくて、本当に怖かったんだから。でも赤ちゃんが無事でよかった。ほら、あと数日で生まれるみたいなの」彼の手を取り、自分のお腹に当てさせようとする。けれど暁人は氷のような顔で、その手を強く振りほどいた。「俺には、心配していたようには見えないがな。検査の結果、どこも悪くなかったそうじゃないか」冷ややかな声だった。舞来は一瞬固まり、ぎこちない笑みを浮かべた。「それは、その……だから、赤ちゃんが無事でよかったって……」「そうよ、暁人。帰ってくるなり舞来ちゃんにそんな態度をとって、どういうつもり?この子はいつ生まれてもおかしくないのよ、ストレスなんてかけられないの。和葉が亡くなってつらいのはわかるけど、舞来ちゃんは妊婦なんだから、少しは気持ちを考えてあげなさい」美郷がかばうと、舞来の顔色はようやく少し和らいだ。暁人は舞来と両親を順に見渡し、ふいに口の端を上げて冷笑した。「この女が何をしてきたか、本人が一番よくわかってるはずだ!」彼は執事を呼んだ。「スクリーンに映像を流してくれ。この女の本性を、全員によく見せてやれ!」執事はうなずき、慣れた手つきでリビングの大型スクリーンを操作した。胸騒ぎを覚えていた舞来は、映し出された防犯カメラの映像を見て、みるみる顔色を失った。彼女のしてきたことが、すべて映し出されていく。見え透いた自作自演も、濡れ衣も、仕組まれた騒動も、何もかもが舞来の顔に突きつけられ、その顔を真っ白に染めた
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第13話

「父さん、母さん。この件にはもう口を出さないでくれ」暁人の口調には、有無を言わせない響きがあった。星山家のしきたりで罰を受けることはあっても、権限まで奪われることはない。今や星山家の実権は、ほぼすべて暁人の手の中にあった。射抜くような彼の眼差しに、美郷は怯んだ。「あ、あなた、親に向かってなんてことを!」「今日だけは、和葉のために親不孝者になるさ。誰か、おふたりを別室へお連れしろ!」暁人はきっぱりと言い放ち、うろたえる両親の顔から視線を外した。振り返った暁人の目には、もう舞来しか映っていなかった。舞来は小刻みに震えながら、じりじりと後ずさった。「暁人さん、違うの。ちゃんと話を聞いて。お願い、この子には何もしないで。あなたの子なのよ!」暁人は一歩ずつ距離を詰めていく。その声は、どこまでも冷たかった。「俺たちの子じゃない。お前が盗むような真似をして手に入れた子だ。言ったはずだ。和葉にしたことを、すべて償わせると」とうとう壁際まで追い詰められた。こんな暁人を、舞来は一度も見たことがなかった。かつての甘やかすような色は目から消え失せ、そこにあるのは凍てついた憎しみだけ。生き地獄に突き落とそうとしているかのようだった。舞来の目から、恐怖の涙があふれた。「……私のしたことを恨んでるのはわかってる。でも、全部私たちの子のためだったの!あんな手段でも使わなければ、この子は愛人の子として生まれるしかなかった。生まれた瞬間から後ろ指をさされるなんて、あなただって耐えられないでしょう!それに……それに、和葉さんが事故に遭ったのは私のせいじゃない。私はほんの少し小細工をしただけ。だから、もう一度だけチャンスをちょうだい?二度とこんなことしないから。私にも、この子にも、一度だけチャンスをちょうだい。ね?」狂ったように泣きじゃくりながら、両手でお腹を覆ってかばう。誰が見ても哀れを誘う姿だった。けれど暁人は、その顔にもううんざりしていた。これまで何度となく和葉を陥れてきたとき、舞来はいつもこの表情で彼を欺いてきたのだ。あんなことさえなければ、和葉を海外へ追いやろうなどと考えるはずもなかった。空港まで見送りにも行かないなんてことも、なかったはずだ。すべては舞来と、この子どものせいだ。
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第14話

医師はそれ以上何も言わず、舞来に麻酔を施した。極限の恐怖のせいか、舞来は意識を失わなかった。目を見開いたまま、医師が処置を進めていくのを見つめていた。お腹の中の子どもには、まだ確かな心拍があった。もうすぐ生まれるはずだった。無事に取り出されさえすれば、生きられるはずの命だった。「赤ちゃん!私の赤ちゃん――!」舞来は泣き叫んだ。けれど処置が進むにつれ、ついさっきまで確かに打っていた心拍が、少しずつ弱くなっていく。やがて、完全に止まった。「ああああっ!」麻酔が効いているはずなのに、痛みを感じているかのように、舞来は喉が裂けるほどの叫び声を上げた。自分の子ども。ずっと焦がれてきた子どもが、こんなふうに死んでしまった。目を血走らせ、舞来はもがいた。「暁人さん!私たちの子なのよ!どうしてそんなに冷酷になれるの!」応える者は誰もいなかった。取り出された胎児は、そのまま処理用の容器へ入れられた。まるで何の価値もないもののように。暁人はすでに背を向けていた。ほかにもやるべきことがある。いつまでもここにいるつもりはなかった。舞来は叫び声の途中で、涙を浮かべたまま気を失った。わが子の姿をもう一度目にすることさえ許されず、処置が終わるとすぐに、星山家の地下室へと移された。一方で、暁人は和葉の両親と連絡がつかずにいた。つまり戸籍上の親族でないため、遺品の扱いが宙に浮いていたのだ。彼は再び空港を訪れ、和葉とのこれまでの関係を説明し、どうにか遺灰の入った小さな容器を受け取った。こんなにも軽く、頼りない小さな容器ひとつ。これが、和葉なのだ。彼女を連れて家に帰り、霊園に連絡を入れた。通話を終えたとたん、再びスマホが鳴った。知らない番号だった。暁人は電話に出た。「お世話になっております。離婚手続きを担当しております弁護士の者です。1か月前に提出された離婚届の受理証明書が届きましたので、お時間のあるときに事務所まで受け取りにいらしてください」弁護士の声に、暁人ははっと我に返った。自分と和葉はもう何の関係もないのだと、改めて突きつけられる。心臓が鋭く痛んだ。無数の針に刺し貫かれたようだった。何度か深く息をついて、ようやく声を絞り出した。「……わかりました。近
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第15話

「この親不孝者が!死んだ人間のために、実の親とここまで揉めるつもりか!舞来のどこが不満なんだ、子どもさえ産めればそれで十分だろう!」本家に軟禁された暁人の両親は、この数日、似たような言葉を延々と繰り返していた。部屋に入った暁人は、驚きはしなかった。和葉が生きているころから、ふたりはずっと彼女を苦しめ、追い詰めてきたのだ。その和葉が死んだ今、なおさら居丈高になるのは目に見えていた。胸の内にあったものをすべて吐き出したせいだろうか。今の暁人の頭は、驚くほど冷えていた。一歩ずつ中へ進んでいくと、両親は彼の姿を見て一瞬言葉を切った。けれど、すぐにまくし立て始めた。「やっと来たのね。暁人、今の自分が何をしてるか分かってる?こんなこと、周りに知られたら何を言われるか分からないわよ。もう見張りなんてやめさせて、舞来ちゃんと結婚しなさい。隠さずに、きちんと公表するの。子どもが生まれたら、私たちも面倒を見るから。全部、あなたのためを思って言ってるのよ。暁人」和葉に家のしきたりを振りかざしたときも、彼女を海外へ追いやろうと言い出したときも、両親は同じように「お前のためだ、星山家のためだ」と言った。あのころは深く考えもしなかった。けれど今になって振り返れば、その言葉に従っていた自分は、なんと愚かだったのだろう。暁人は口の端をわずかに上げた。両親はそれを和解のしるしだと思ったらしい。好機とばかりに畳みかける。「和葉が亡くなってつらいのはわかってる。でも、そろそろ気持ちの整理もついたでしょう。これまでのことは、一時の気の迷いよ」「和葉が死んだのは、あなたたちのせいだ。海外へ追いやったりしなければ、あいつが事故に遭うことはなかった。あなたたちが和葉を殺したんだ」暁人は静かに言った。両親は一瞬呆然とし、すぐに怒りをあらわにした。「何を言ってるの?あの子が子どもを産めないうえに、舞来ちゃんを傷つけてばかりいなかったら、私たちだってあんなことはしなかったわ。それに、海外へ行かせることにはあなたも賛成したじゃない。暁人、もう死んでしまったんだから、何を言っても無駄よ。舞来ちゃんとちゃんと暮らしていくことのほうが大事でしょう」「和葉は舞来を傷つけてなんかいない。そのことは、もう知ってるはずだろう?」暁人は本家の中を見回した。値打
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第16話

暁人が地下室の扉を開けたとたん、鋭く差し込んだ光が舞来の目を刺した。彼女はもう何日も、日の光を見ていない。完全に光を遮断された暗闇の中にずっといたせいで、とっさに反応することすらできず、反射的に両手で顔を覆った。それから何かに思い当たったように、はっと顔を上げる。暁人だった。一縷の救いを求めるように、舞来はなりふり構わず這いずり、彼の脚にすがりついて泣き叫んだ。「私が悪かった、本当に悪かったの。許して、暁人さん!もう何もいらない。ここから出してくれるなら、何だってするからー!」わずか数日で、彼女は別人のようにやつれ果てていた。妊娠でふっくらとしていた体は、今では見る影もない。暁人は静かに、氷のように冷たい目で彼女を見下ろした。「和葉への借りをすべて返したら、ここから出してやる」その言葉に、舞来の目に希望の火が灯った。何度も何度も、すがるようにうなずく。「全部私が悪かった。全部私が悪かった。和葉さんに濡れ衣を着せたのも私。私のせいで和葉さんが星山家の罰を受けたなら、その分、全部私が引き受けるから!」ここから逃げ出せるなら、もう何だってよかった。暁人が無言で顎をしゃくると、ボディーガードが、太い竹刀を手に入ってきた。それを見た瞬間、舞来は思わず身をすくませた。けれど、これさえ耐えればここを出られる。そう思うと、彼女は逃げようとはしなかった。次の瞬間、竹刀が背中に振り下ろされた。「っ……!」あまりの痛みに、悲鳴が漏れる。「和葉も同じ罰を受けた。お前だけ軽く済ませるつもりはない」暁人は冷たく言い放った。舞来は歯を食いしばるしかなかった。やがて再び竹刀が振り下ろされ、その衝撃に耐えきれず、舞来は冷たい床に手をついた。痛い。あまりにも痛かった。和葉は以前、どうやってこれに耐えたのだろう。何度も竹刀が背中に落ちるうちに、舞来は声を上げる力さえ失っていった。背中は腫れ上がり、衣服にも血が滲んでいた。全身が焼けるように痛む。それでも、これが終われば自由になれる。ただその一心で、舞来は耐え続けた。やがて、最後の一打が振り下ろされた。舞来は床に崩れ落ちたまま、もう指一本動かすこともできなかった。「……もういい。終わりだ」暁人の声が聞こえた。舞来は震えながら、かすれた声を絞り
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第17話

再び地下室から出てきた暁人に、待ち構えていた執事がハンカチを差し出した。「遺留物を鑑定に出した結果、そこから見つかった微量の組織のDNAが和葉様のものとは一致しなかったそうです。和葉様は、生きていらっしゃる可能性があります」ハンカチで手をぬぐっていた暁人の、光を完全に失っていた瞳にかすかな輝きが戻った。「……今、なんて言った?」「遺留物から見つかった微量の組織を調べたところ、DNAが和葉様と一致しませんでした。それに航空会社によると、あの日、搭乗しなかった乗客がひとりいたそうです。それが和葉様かもしれません。もっとも、何かの手違いという可能性もありますが」執事は恭しく、だがはっきりと告げた。その調査結果は、暁人の心に一筋の希望をもたらした。わずかでも生きている望みがあるなら、決して諦めるつもりはない。「なら捜せ。和葉の確かな居場所がわかるまでだ。事故に遭っていないなら、きっとまだ怒っていて、どこかに身を隠しているんだろう。全国に人を向かわせるだけじゃなく、ネットにも情報を流せ。誰であれ、和葉の情報を持ってきた者には破格の謝礼を出す」わずか1週間で、和葉の捜索に関する話題は、SNSのトレンド上位を独占した。配信された動画の中で、暁人はふたりの過去を静かに語った。結婚して5年、ずっと深く愛し合ってきたこと。結婚前、和葉が自分を救うために子宮を損なったこと。だから一族の反対を押し切り、家のしきたりに従って竹刀で打たれてまで、妻とともに子どもを作らない人生を選んだこと。けれど……そこで彼の眉間に暗い陰が差した。ある女が使用済みの避妊具を盗み、勝手に自分の精子で妊娠して、この家庭を壊した。それなのに、自分の両親はその女に子どもを産ませようとしたのだ、と。暁人はずっと冷ややかな声で語り続けていた。表情が揺らいだのは、和葉の乗ったはずの便が事故に遭ったことに話が及んだときだけだった。現時点では、妻である和葉は亡くなっておらず、行方不明になっている可能性がある。そのため星山グループは広く呼びかける。和葉に関する確かな情報を寄せてくれた者には、誰であれ手厚い謝礼をする、と。この衝撃的な告白は、瞬く間にネット中を騒然とさせた。ふたりの一途な愛に胸を打たれたというコメントもあれば、舞来の非道な行いを激しく非難する
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第18話

D国。和葉はすでに、暁人が方々に莫大な懸賞金をかけて自分を必死に捜していることを知っていた。暁人が用意したあのS国行きの便が墜落したことも、ニュースで耳に入っていた。もしもあのとき、暁人に言われるまま、あの飛行機に乗っていたら。今ごろ自分はどうなっていたのか。想像するだけで背筋が凍った。両親は、どれほど悲しんだだろう。テラスでカップの中のコーヒーをゆっくりとかき混ぜながら、ぼんやりと物思いにふけっていると、母親の武内一実(たけうち かずみ)が心配そうな顔で近づいてきた。「和ちゃん、暁人くんがあちこちであなたを捜してるそうよ。海外にまで話が広まってるって。そのうち、ここにいることも知られてしまうかもしれないわ」不安げな母の顔を見て、和葉は安心させるように柔らかく微笑んだ。「大丈夫。ここまで隠し通せたこと自体、奇跡みたいなものよ。たとえここにいることがばれても、暁人とはいずれ、ちゃんと決着をつけなきゃいけなかったの。だから心配しないで、お母さん」「心配しないわけないでしょう。あなたは私のたったひとりの娘なのよ」一実は隣に腰を下ろした。「こっちに来たとき、あの人があなたに何をしたか聞いて……本当に胸が痛かったわ。あんなにつらい思いをしてたなんて」帰ってきてからずっと、両親はこまやかに和葉の面倒を見てくれていた。胸の奥がじんわりと温かくなって、和葉は思わず母親の肩を抱きしめた。「平気よ。もう終わったことだから。これから先、暁人とは何の関係もなくなるの」そのとき、階下から父親の弾んだ声がした。「和ちゃん、悠真くんが、また会いに来たぞ!」それを聞いて、和葉の目に困ったような色がよぎった。一実はにこにこと笑っている。「ほら、早く行ってあげなさい。待たせちゃ悪いわ」「はいはい。まったくもう、どっちが本当の子供なんだか」和葉が階段を下りていくと、ソファに座っている姿がすぐに目に入った。「早すぎない?待ち合わせは夜だったでしょう」北原悠真(きたはら ゆうま)が振り返り、爽やかな笑顔を見せた。「早く会いたくてさ。それに、おじさんとおばさんにも挨拶したかったし」和葉はほとほと手を焼いていた。この人は毎回、何かしら適当な理由を見つけてくるのだ。D国に来て間もないころ、両親から、昔の幼なじみ
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第19話

悠真が予約していたのは、落ち着いた佇まいの、故郷の料理を出す店だった。和葉が故郷の料理を好むことを、彼はしっかりリサーチしていたのだ。向かい合って席に着き、ひとしきり他愛のない話をしたあと、悠真は声を落とした。その眉間には、かすかな懸念がにじんでいる。「そういえばネットで見たんだけど、星山暁人が君を捜してるって」やはり、その話だった。和葉は静かにうなずいた。「前から思ってたの。星山家の力があれば、私が死んでないことなんて、いずれ気づかれるって」「それで……もし手を貸せることがあれば、うちの家族も力になるよ。父も母も、君のことをすごく気に入ってるから」遠回しなその言い方に、和葉はくすりと笑った。「大丈夫。暁人が私に何かするとは思えないし、あの人とはいつか向き合わなきゃいけなかったの。今日はもうあの人の話はやめましょう。せっかくのご飯がまずくなっちゃう」「わかった、君の言うとおりにするよ。でも困ったときは、必ず僕のことを思い出して。なにせ今は君を口説いてる最中なんだから、君のためなら、火の中水の中だって飛び込むよ」悠真は臆面もなく言ってのけた。彼はいつも、話を軽やかな方向へ持っていくのがうまい。和葉はまた笑ってしまった。「ふふ。じゃあ聞くけど、どうして私なの?」「おっと、ついに告白タイム?ずっとその質問を待ってたんだ」悠真は少しだけ声のトーンを落とし、まっすぐに和葉の目を見た。「実は、君がこっちを離れる前から、ずっと君のことが好きだったんだ。5年前にも、君に会いに行こうとしたことがあった。君が大きな交通事故に遭ったって、おばさんから聞いてね。でも出発する直前に、君が結婚するって知らされて。そのとき、もう望みはないってわかったんだ。だからずっとこっちに残ってた。それでも、ずっと君を忘れられなかった。和葉、この数年、つらかったよね。君を困らせたくないから、断ってくれても構わない。ただ、もう二度と後悔したくないだけなんだ」これほど真剣で、まっすぐな言葉。今度は和葉が言葉を失う番だった。こんなにも遠い異国の地で、ずっと自分を想い続けてくれていた人がいたなんて、思ってもみなかった。つい考えてしまう。もし5年前、悠真が本当に会いに来ていたら、何かが変わっていただろうか。きっと、変わらなか
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第20話

その知らせが暁人のもとに届いたのは、捜索を始めて3か月近くが経ったころだった。手がかりはまったくなく、和葉は本当に死んでしまったのではないか、何もかも無駄なのではないか、もう二度とあの人に会えないのではないか。そう疑い始めていた。けれどその日、ついに海外から1件の情報が寄せられた。ひどくぼやけた写真1枚だけだったが、暁人にはひと目でわかった。それは、間違いなく和葉だった。彼女は生きていた!また会える!暁人はすぐさま執事に調べさせた。写真の場所はD国で、和葉の両親もD国に住んでいるという。どうして今まで思いつかなかったのだろう。狂おしいほどの喜びが胸を満たした。和葉はずっと手の届くところにいたのに、自分が気づかなかっただけなのだ。一刻も待てず、暁人はD国行きの航空券を取った。飛行機に乗り込んでも、胸の緊張は解けなかった。和葉は許してくれないかもしれない。会うことさえ拒まれるかもしれない。けれど彼はすぐに思い直す。あれほど長い年月を深く愛し合ってきたのだ。和葉が本気で自分のもとを離れられるはずがない。すべてにけじめをつけ、自分の誠意を見せれば、きっと機嫌を直して帰ってきてくれる。10時間後、D国に降り立った暁人は、その足で和葉の実家へ向かった。門の前で、警備の者に行く手を阻まれた。「お義父さん、お義母さん!和葉に会いに来ました!帰ってきてるのはわかってるんです。一目だけでいい、和葉に会わせてください!」暁人は門の前で叫び続けた。だが出てきたのは和葉ではなく、彼女の両親だった。「よくもぬけぬけと来られたものね!」暁人の顔を見るなり、一実の目に怒りが燃え上がった。非は自分にある。和葉の家族に疎まれるのは当然だと、暁人もわかっていた。ただ、どうしても和葉に会いたかった。だから一実にきつい言葉を浴びせられても、頭を下げたまま受け止めた。「お義母さんが俺を許せないのはわかっています。自分が間違っていたことも、もうわかっています。菅沢舞来との子どもも、彼女本人も、すべて片をつけました。どちらも、二度と和葉の前に現れることはありません。俺の両親についても、星山家は和葉に顔向けできないことをしました。和葉が望まない限り、本家の人間が和葉に関わることは一切ありません。俺が間違っていたことはわかっています。
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