ソハは何度も腕時計を確認していた。空港のチェックインまでは、まだ十分に時間がある。それでも落ち着かなかった。普通の出張ではない。社長をはじめとする上級役員たちが同行する海外出張だった。指定された集合時間より最低でも三十分は早く着いていないと、安心できそうになかった。車が少しでも速度を落とすたび、ソハは首を伸ばして前方の道路を確認した。「かなり渋滞していますか?」運転手に尋ねると、ルームミラー越しに返事が返ってきた。「この程度なら大丈夫です。予定より十分ほど早く着くと思います」「あ、はい。ありがとうございます」そこでようやく、ソハは背中をシートへ預けた。けれど、ほんの数秒後にはまたスマートフォンを確認していた。仁川空港第2ターミナル。ラスベガス行き。会社からCESの実務チームに選ばれたと知らされたのは、わずか一か月前だった。最初に名簿で自分の名前を見つけたときは、素直に嬉しかった。チーム長へ昇進してから担当してきたプロジェクトが、社内できちんと評価されているということだったからだ。けれど、達成感は長く続かなかった。今回の出張は、単なる展示会の視察ではない。会社がここ数年かけて開発してきた次世代技術を、海外市場で初めて公開する場だった。問題は競合他社だった。わずか半年前までは、技術面で少なくとも一年以上の差があると判断していた競合が、予想を上回る速度で追い上げてきている。CESでどちらが先に市場の注目を奪うかによって、その後の勢力図が変わる可能性すらあった。さらに展示会二日目には、アメリカの大手テック企業との非公開ミーティングが予定されていた。単なる業務提携ではない。契約が成立すれば、今後数年間の供給量と海外での実績を同時に確保できる。逆に逃せば、その座を競合に奪われる可能性が高かった。だからこそ、社長自ら動いた。ク・ボニル。ソハが勤める会社の社長であり、今回の出張団の最高責任者だった。その下には、戦略担当副社長、技術統括専務、海外事業本部長、法務担当役員まで同行する。それに比べ、実務メンバーの人数はずっと少なかった。その名簿の中に、自分の名前があった。ソハはバッグからタブレットを取り出した。昨夜まで何度も読み返した資料が、再び画面を埋める。プレゼ
Last Updated : 2026-10-27 Read more