جميع فصول : الفصل -الفصل 40

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第31話:空気が動くとき

 相変わらず、クラスの中の空気はギスギスしていてとても居心地が悪い。 朝のホームルームの前の時間や昼休み、果ては10分休憩の時間までその空気はピリピリしている。 誰も俺に話しかけてこないし、変に目を合わせようともしない。みんな、スマホの画面に釘付けになるか、窓の外を眺めるかして、見えない境界線を引いていた。 特定の誰かに事情を説明したらいいのだったら話は早いのだけど、ギャル市東さんとか委員長とかキーパーソンはいるものの、俺が対峙しているのはクラス全体だ。 言ってみれば「空気」なのだ。 例の「公開裁判」の後は誰も俺に接触してこなくなったので、こちらからアクションを起こすのも変な感じなのだ。腫れ物に触らないというのを、これでもかとリアルに肌で感じている。 木村は……。 席から木村に視線を送ってみる。 助けを求める視線だ。 彼は小さく肩をすくめるジェスチャーで「難しいねぇ」って反応を返されてしまった。 クラスの中心的グループにいる彼ほどの影響力がある人間でも、こうなってしまったクラス全体の空気を変えるのは荷が重いらしい。 こうなった原因のリカの方を見ると……。 俺とふと目が合うと、あからさまにびくっと反応し、慌てて視線を逸して机の上の教科書に顔を近づけてしまう。 向こうは向こうで、少しでも周囲から追求されたら自分のついた嘘が完全に公になってしまうので、めちゃくちゃ気まずい状態なのだろう。 こちらから動くこともできず、向こうも積極的に動けない状態。周囲の生徒たちも、ただ気まずいながらも遠巻きに見守るという、まさに身動きの取れない膠着状態だった。 その膠着状態に風穴を開けるきっかけは、本当にほんの些細なことだった。パンパンに膨らんだ風船に、たった一本の鋭い針を突き刺すと一気に破裂するように、すべては突然やってきた。 放課後に、如月アヤノさんがうちのクラス、1組の教室を覗きに来たのだ。 俺も最近はすっかり教室内で動きにくくなっていて、放課後の卒アル委員の仕事に行きにくくなっていたから、その様子を心配して見に来てくれたのだろう。 もちろん、全校に広まった「アヤノさんに好きな人が『いる』……もしくは、『いた』」という話のインパクトも影響しているらしく、廊下を歩く彼女に教室の視線が一斉に突き刺さる。 教室のドアは開いていたので、ちょっと覗いただ
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第32話:それぞれの責任と、乱入者と、

 リカの口から飛び出た「そうなったらいいなって、思ったんだもーん!」という言葉。 そしてギャル市東さんの「リカてめえ!嘘だったってのか!」という怒号によって、いつの間にか教室を支配していた重苦しい「空気」は完全に霧散していた。 ​あれだけ俺を冷たい目で見ていたクラスメイトたちは、今や気まずそうに目を泳がせたり、ヒソヒソと小声で囁き合ったりしている。 誰もが、自分がこれまでの間、リカの流した嘘の涙に踊らされ、見当違いな正義感で主人公を追い詰めていたことに気づき始めていた。「我こそが正義なり」の精神でいたのに、実は自分が今いる場所こそが真っ黒な嘘の「悪側」にいることに気づいた瞬間だったのだろう。 ​その中心で、最も激しく動揺していたのは――他ならぬギャル市東さんだった。「おい!」「ひっ! ご、ごめんなさい!」ギャル市東さんがリカの襟首を掴んだときの悲鳴で、確証が取れたようだった。 ​彼女はしばらくの間、信じられないものを見るような目でぐずぐずと泣きじゃくるリカを見つめていたが、やがてガッと顔を上げ、すたすたと俺の席のほうへ歩いてきた。 その足取りには、激しい怒りの色が滲んでいる。なに!?今度は俺 何されるの!? なんて言われるの!? 俺はその勢いにたじろいでいた。 ​彼女は俺の机の前にたどり着くやいなや……。 ​ドンッと、教室の床に勢いよく額を擦り付けるように、彼女は完璧な土下座をキメたのだ。「すまーーーん!」 きれいな土下座だった。​「うわっ、ちょっ、まっ、待て。待ってくれ! 頭上げてくれ!」 ​突然のことに、俺は慌てて椅子から飛び退いた。周囲のクラスメイトたちも「うわっ」「マジか……」と息を飲む。 それだけではない。ギャル市東さんの動きに連鎖するように、いつもの三人組を形成していた委員長駒込さんと、その彼氏山田くんまでもが慌てて駆け寄ってきた。ギャル市東さんの両脇に並び、二人は申し訳なさそうな顔で綺麗に正座をして、深々と頭を下げる。​「わ、私も、ちゃんと事実を確認しないで沢渡くんを責め立てて……本当にごめんなさい!」「俺もだ。すまなかった、沢渡!」 ​クラスの女子を引っ張る中心人物たちが、揃って俺に頭を下げている。さっきまでのピリピリした敵意が嘘のように消え去り、別の意味で教室の温度がグッと上がった気がした。 完全に
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第33話:それぞれの結末と、図書準備室の密談

 兵(つわもの)どもが夢の跡――とは、まさに今の教室のためにあるような言葉だった。 先日の「公開裁判」の後、教室内に漂っていた重苦しく冷たい「空気」は完全に破壊されていた。もう、誰も俺を冷たい目で責める人間はいない。「……で、沢渡、あーしがひと肌……」 「いや、本当にいいから。気持ちだけありがたくもらっとく」 「……ってことは、あーしの心を奪っていく的な……?」 「すまん。まさかそう斜め上の解釈をされるとは思わなかった。謝罪は十分すぎるほど受け入れて許すから、もうその話は気にしないでくれ」 涙を流すリカの対応をさておき、ギャル市東さんの斜め上の勘違いに俺は本気で頭を抱えながら困惑した。  委員長駒込さんの同様の「責任を取る」という申し出も、必死の思いでまとめてお断りした。 もちろん、その横で「じゃあ俺も」と謎の対抗心を燃やしていた委員長の彼氏・山田くんの申し出に至っては、聞かなかったことにして完全スルーした。 そうしているうちに、俺は手のひらをクルーンと返したクラスメイトたちに囲まれていた。 口々に「ごめんなさーい」「うちらも流されちゃってさ」「誤解が解けて本当によかった!」と謝罪の嵐が飛んでくる。 まあ、ここでヘタに突っ張って今後に禍根を残すよりは、素直に水に流してくれる方がお互いのためだろう。 教室の中では、ある意味で修羅場が一段落ついたところだった。  だが、視線を外の廊下に向けそちらの様子を伺おうとすると、どうやら廊下は廊下で別の大騒ぎ(修羅場?)が起きているらしかった。 ガラス窓越しに見える廊下では、アヤノさんが騒ぎを聞きつけて集まってきた隣の2組のクラスメイトたちに囲まれていた。「ねえ如月さん、さっきのって……ただ告白されただけ!?」 「かっこよかったじゃん! なんか男気あったよ!」 「よかったね、誤解が解けてさ!」 アヤノさんはすっかり囲まれてしまい、「え、あ、ちょっと……」と真っ赤になりながら盛大に困惑していた。  そもそも彼女は、元々「選択肢的ぼっち」気味で自分からガツガツ人間関係を作るタイプではなかったし、俺たちのクラスのピリピリした空気のせいで周囲も彼女に絡みづらかったという背景がある。 それが一連の騒動と俺の叫びをきっかけに、一気に好意的なスポットライトが当たってしまったようだ。(リカの方は……どうな
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第34話:三年分の写真とバタフライ効果

 全卒アル委員6人が集まって、それぞれのアイデアを持ち寄る日が来た。2人ずつの3チームでアイデアを持ち寄ったけど、どれも良いアイデアだったのでそれぞれ採用することになった。 写真は元々卒アル様に準備されたものもあったし、俺たちのアイデアでオフショット的なものもありかなりの数があった。 今日は全員でその写真を選定しようというそんな日だった。 机の上には約三年間分のたくさんの写真が広げられていた。入学式、オリエンテーリング、体育祭、文化祭……。俺たちの学年のイベントの写真がものすごい数広げられていた。 写真をみながら自分の三年間を振り返ってみた。そこには、この二周目に気づく前の俺が写真に収められていた。多分、一周目と同じくリカを好きで、リカ一筋だった自分の姿が映っていた。そして、人気者らしくリカの写真も多く写っていた。 一周目ではとにかくリカを愛していた。そして、この二周目に気づいてからガラリと変わった。 リカのことが嫌いになったわけじゃない。未だに家族みたいには思っている。だけど、そこまでの執着に似た気持ちはこの二周目には持ってこれなかったらしい。 マンガやアニメのタイムリープものは完全のそれまでの記憶や経験を引き継ぐものだと思っていたけど、俺の場合はどうやら違ったらしい。記憶も経験も引き継いだけれど、何かを取りこぼしている。俺であって、俺ではない自分が今、この時間軸にはいるのだと思う。 リカも同様だろう。ただ、リカがタイムリープしてきたのはいつだろうか。もしかしたら、俺よりも前だったのでは。きっと。俺もリカも細胞レベルで一周目と全く同じ人間だ。 ずっと不安で俺の愛を確かめ続けたリカと、それに応え続けることに喜びすら覚えていた俺がいた一周目、二人のバランスは奇跡的にやじろべいのようにどちらにも傾かず、絶妙なバランスを保っていたのではないだろうか。 この二周目でリカが先に前世に気づいたとしたら、俺は生涯リカに尽くし上げたことを知っている。まるで結末まで観た映画をもう一度見直すみたいに自分が嬉しかったことを経験したかったのかもしれない。 俺は俺のヤキモチとか嫉妬みたいなものもその一つだったのだろう。『今日、告白されたんだ』 これくらいまでは一周目のリカも言っただろう。そして、俺も内心ヤキモチを妬きながらも面白くないという感情を表に出しつつ、ぶっ
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第35話:暴走する純愛と、朝の恐怖

「もう学校にいけない」 ベッドの上で膝を抱え、ぼそりとつぶやいたリカの顔は、いつもの気の強さや取り繕った笑顔が綺麗に剥ぎ取られ、ただの怯えた子供のようになっていた。 そう言えば、あの日――リカの嘘がクラス全体にバレた日、彼女は一体どうやって帰ったのだろうか。あの修羅場から目を背けるようにこっそり逃げ帰ったのだろうし、当然の如く翌日の学校を休んでいた。 そして何より、忘れてはならない大問題がある。  あれから両家を巻き込んだ例の「家族会議」が開催されたわけだが、その傷跡はまだ心のカサブタにすらなっていない。生々しく血は流れ続けている状態だった。 お互いの両親、そして義両親はめちゃくちゃに激怒していた。 ぷんぷんどころの騒ぎではなく、カンカンを超えて、もはやカムチャッカファイヤーという感じの大噴火を起こしていたのだ。よく分からないけど、とにかく洒落にならない修羅場だった。「なあ、リカ」 俺はベッドの端に腰掛け、頭を抱える幼馴染に声をかけた。「両親への嘘を、ちゃんと全部嘘だったって告白して、誤解を解いてく!。そしたら、学校の方は俺が何とかしてやるから」 「……え?」 「卒業まであと数か月あるだろ。このまま不登校を貫いたら、さすがに出席日数が足りなくなって本当に卒業できなくなるぞ。本当は……学校に行きたいんだろ?」 俺の言葉に、リカはびくりと肩を震わせた。  行く当てのない恐怖と、クラスに居場所を失った絶望。 一周目の人生を覚えていれば、知識の面では生活に困る様な状態にはならないと思う。それでも、「高校卒業」というステータスがないと、大学ににも進めないし、仕事をするにもそれは必要だろう。 そして、心のどこかで学校という社会にしがみつきたい未練が彼女にはあったのだろう。しばらくの沈黙の後、リカはこくりと小さく頷いた。「……わかった」 そうしてその日の夜、我が家のリビングには両家両親が緊急招集され、再びの特大プレッシャーを放つ修羅場会議が幕を開けた。「本当なんだね!? ヨータくん!」 「はい、リカはピカピカのバージンでした! おれが保証します!」 「……じゃあ、なにか!? ヨータくん、きみは実際にそれを確かめたのかい!?」 ――ぎゃーーーっ、しまったぁぁぁ!!  一周目の、付き合い始めたばかりのときの記憶と混同して、よりによって最悪
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第36話:人生をかけた謝罪と人生をかけた敬意

「みんな、色々騒がせて本当に申し訳ない!」 俺は朝のホームルーム前、ある程度のクラスメイトが登校してきているのを確認して教卓に上がりみんなに向けて謝罪した。 当然、教室内はざわざわした。「リカ」 俺の声にリカが静々と教卓に上がり、俺の横に控えた。 リカは何も話さない。俺の指示だ。「色々と思いが暴走して俺たちふたりざ迷惑かけた。ごめん。でも、昨日、話し合ってもう落ち着いたから。二度とこんな迷惑はかけないから許してほしい。受験前の大変なときにみんなを騒がせて申し訳ない」 俺の全力の謝罪だった。多分、十七歳の高校生だったらこんな深刻な謝罪はしないだろう。前世の七十七歳の知識も経験も全部ぶっこんでの謝罪だった。 リカに謝らせるのではなく、被害者としてみんなに報告兼謝罪を俺がすることで「既に問題は解決している」と「俺たちの問題にみんなを巻き込んだ」と みんなの怒りを当事者ではなくしたのだ。 怒りたいのは俺の方、でも俺はリカを許したのだから、みんなはもう何も言うなという、ちょっとズルい謝り方だ。 ズルはこれだけじゃない。「市東さん!」「え? あ、は、はい!?」 ギャル市東さんを名指しした。あっけに取られて思わず返事をしてくれた。ここは無視されると思ってたから僥倖だ。「委員長、あと山田」「……」 委員長駒込さんは、言葉は発しないけどこちらに視線を向けてくれた。山田も一瞬彼女である駒込さんを見てから俺の方に視線を向けた。「特にリカのために怒ってくれてありがとう」 俺が頭を下げると、横にいたリカもそれに気づいて少し遅れて頭を下げた。「いや、あーしは別に……」 歯切れが悪いけど、ギャル市東さんのこれは「許す」ってことだろう。「私も教室内で問題がなければ……」 委員長駒込さんもいいってことだ。横の山田は無言でうんうんと頷いている。「リカ」 ここでは終われない。ちゃんと最後にリカにも謝罪を口にさせないと、今後教室内でリカがハブられる。 一回ちゃんと謝罪して、受け入れられていれば、すぐではなくても徐々に元に戻っていくもんだ。高校生なのだから、今はここまででいい。 これが社会に出てからだったら、完全に絶縁だった。なんらかの訴訟問題に発展した可能性だってある。「ごめんなさい」 何に対してかとか、ここではもうどうでもいい。細かく言え
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第37話:うれしはずかしご挨拶とデジャヴ

 週末、アヤノさんのお招きで如月家に訪問することになった。 初めて彼女の家に行くという、「うれしはずかしイベント」のはずなのだけど、どうにも晴れ晴れした気持ちでは行けない理由があった。 それはリカのことだ。 クラス内でのトラブルも収束しつつあるのだけど、リカの異常行動が止まらない。 一日中スマホにメッセージが届いている。「おはよ」に始まり「おやすみ」に終わる。お前はライオンさんか。 それだけならまだ許容範囲内なのだけど、「迎えに行くね」とか「ご飯作りに行くね」とか、果ては「会いたい」とか「寂しい」とか、俺の心を揺さぶるようなメッセージも少なくない。数えてみたら一日に百通くらい来てる。 マンガとかドラマとかではストーカーの行動としてよく見かける内容だけど、実際にメッセージが届き続けると、その数に比例して恐怖心が積み上がって行く。 家にいるとき、通学中、授業中、放課後、食事どき……。これだけ送るってことは、一日中スマホの前に張り付いているんじゃないかと思う。 そんなストーカー化しつつあるリカという不安要素がありつつも、俺はできるだけ気にしないように緊張しつつも元気よく如月家に向かった。「どひゃーーー!」 そこは結構な豪邸だった。少し西洋を思わせる上品なデザインで門構えも鉄の柵で見上げるような高さがあった。 いつか風水の本か何かで「門だけ大きな家は繁栄しない」という記述を見た気がするけど、この家は建物も門に負けないだけの立派なものだった。 服装よし、手土産よし(※角酒はやめた)、髪型よし、歯磨きよし、俺はチャイムを押す前に身だしなみ等を確認した。(ピンポーン)『はーい、いらっしゃーい』 待っていたのだろう。インターホンからはアヤノさんの声が聞こえてきた。(ガチャ)「いらっしゃ……、制服!?なんで!?」「えっと、正装かなって……」 そう、俺は制服で来た。「と、とにかく中にどうぞ」「ありがとう」 どんな家族だ!? どんな父親だ!?第一印象で失敗するわけにはいかない!「あ、これどうぞ」「えー、ありがとう。気を使わなくて良かったのにぃ」 俺は手土産をアヤノさんに手渡した。「今、みんなリビングにいてね……」 さあ、勝負だ!「うっ……」 リビングにいたのは、お父さん、お母さん、お姉ちゃん、妹ちゃん……と思う。 人数に圧倒さ
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第38話:リカとの決別

 俺とアヤノさんの交際は順調だった。まず、あれだけ大騒ぎしたのだから、クラス中が俺たちが付き合っていることは知っていた。 同じ理由でうちの両親もアヤノさんと付き合い始めたことは知っている。彼女がうちに遊びに来ることもあるからだ。 一番最初だけ少し変な空気になったけれど、礼儀正しくてかわいいアヤノさんのことを両親が気に入らないわけがなかった。 最近になって「あのときは悪かった。実の息子を疑うなんてどうかしていた」などと父さんからガチ目の謝罪を受けた。母さんも「私は息子をそんな風には育ててない。仮に妊娠させてもそこで逃げるような子じゃない」とか言ってた。 こっちはもう少ししっかりと話をしないといけないかもしれない。 もちろん、リカの両親も二人とも土下座する勢いで謝ってくれた。学校での一件もどこからか耳に入ったらしい。 ちょっといいお菓子の折を持ってきた。すごく反省しているようだし、昔からの付き合いだし、そして、一周目の義両親ってこともあってお世話になった記憶もある。俺は謝罪を受け取った。 なんかみんな憑き物が落ちたみたいにガラリと変わったんだ。 多分、俺のトラブルは終わったんだ。アニメや映画ならエンドロールが流れているか、既に流れたあとなんだろう。現実ではいつ終わったかなんて分からないのだけど……。 ✳ ある週末のこと。 アヤノさんが週末に勉強がてら、うちに遊びに来た。彼女とうちの母さんはすごいはやさで仲良くなっていった。 相手の心の領域には踏み込みすぎず、かと言って消極的ではなく、むしろお互い積極的に関わっていってた。 俺としては悪いことではないし、アヤノさんも「お母様お料理が上手で!生姜焼きの味はなんとかして盗みたい」とか言ってた。偶然かもしれないけど、俺の好物は生姜焼きなんだけど。 勉強もしたし、ご飯も食べたし、俺がアヤノさんを家まで送って行こうかってタイミングで部屋の外が騒がしかった。『ちょ、いまはっ!』 ガタガタと大きめの物音と共に母さんの声が一階から聞こえた。「なんだろ。ごめん、ちょっと見てくる」「うん……」 アヤノさんに断りを言ってから俺は一階に降りることにした。(ガチャ)「……」 そこにはリカの姿があった。後ろから母さんがリカの腕を掴んでいたから、母さんでは止められなかったらしい。 リカは部屋の中に入ると一瞬
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第39話:幼馴染は二度目の人生で他の男を選んだ

 年末年始は推薦だ、共通テストだ、一般入試だと、とにかくバタバタと過ごした。 年が明けて3年は自由登校になったころ、続々と試験結果が学校に届くようになった。 WEBで確認と学校経由で発表のパターンがある。 俺とアヤノさん、そしてリカはそれぞれ合格の知らせを学校経由で受け取った。 リカは城南大に合格。 俺とアヤノさんは念願の城東大学の工学部に合格した。 大学から俺は独り暮らしするし、ここでリカとは決定的に、完全に道が分かれるな。 職員室で合格の知らせをもらったあと、なんとなく教室に来た。発表を聞きにいくクラスメイトはもういないので誰もいないと思っていたのにそこにはリカがいた。 そして、ここで物語の冒頭にもどるーーー。「お願い! 私が間違ってたの! もう一度私と付き合って! 前世では結婚して、子どもだってちゃんと育て上げたじゃない! だからまた私と……っ!」 冬の放課後。黄昏色に染まる教室で、冷たい木枯らしがカタリと窓を揺らした。 誰もいなくなった静寂の中で、涙で瞳を濡らしたリカが俺の制服の袖に必死にしがみついてくる。 かつて世界で一番愛おしかったはずの幼馴染の顔を、俺はただ冷ややかに見下ろしていた。「この2週目の人生を変えたのはお前だ、リカ。お前があんなことをしなければ……俺たちがこうなることはなかった」 袖を振り払うと、リカは絶望に顔を歪ませ、その場にへたり込んだ。「……それも嘘だろ?」「うん。最後だから」 さっきまで涙を流していたリカがケロッとして答えた。まったくこんな整った顔のやつがぽろぽろ涙を流しながら復縁を求めてくると、全部知っている俺でも本気かと思ってしまう。 信じていなかったけど、リカの言う「サムシング」ってのは本当に存在するのかもしれない。「おめでとう」「ありがと。お互いにな」「うん」 リカは笑顔で俺を教室から送り出した。いつか言っていた「最後は笑顔で別れたい」ってのを実現したのか……。 いつからか、リカは俺に対して嘘ばかりだった。では、さっきの笑顔も……と考えると色々複雑だけど、それはもう俺の考えることではないだろう。「良かったんですか?」 ここで廊下でアヤノさんと合流した。リカと一緒だったのも知っているみたいだ。「中途半端に優しくするのは余計にひどいってもんだよ」「それはそうかも」 俺は、アヤ
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第40話:デジャヴの正体

 デジャヴをご存知だろうか。日本語では既視感と字が当てられる。 初めて来た場所なのに、過去に来たことがあると感じたりする錯覚だ。脳の情報処理のバグなどと表現する人もいる。 しかし、そのメカニズムは明確にはなっていない。「どうしたの?沢渡くん」 アヤノさんの部屋に入った瞬間だった。強烈なデジャヴを感じていた。動きが止まってしまった俺のことを心配してくれてアヤノさんが尋ねた。「いや……、なんでもない……」 俺がアヤノさんの部屋にお邪魔したのは今回が初めてじゃない。俺たちの交際は受験生ながら、それぞれの両親にも公明正大に付き合ってきたからだ。 思い起こせば、初めてアヤノさんの部屋に入ったときにもデジャヴを感じたことを思い出した。 そして、これまでスルーしてきた「小さな引っかかり」を次々思い出した。 アヤノさんと初めて会ったあの図書室で、俺は自己紹介もしてないのに「ヨータくん」って呼んでいた。俺はリカのせいで悪い意味で目立っていたから、既に俺のことを知っているって考えたんだ。 でも、その後はずっと「沢渡くん」で通してきた。この違和感になぜ今まで気付なかったのか!? そして、俺自身も彼女を呼ぶときは「如月さん」って呼ぶのに、心の中では常に「アヤノさん」と呼んでいた。多分、相当始めの方からだ。「アヤノさん……」「アヤノさん?」 思わず出た俺の言葉にもアヤノさんは笑顔で返してくれた。「アヤノさんに機械の面白さを教えてくれた人って……」「あ、そのこと……。多分、信じてもらえないって思って、言ってなかったんだけど……」 そうなのだ。いつかのデートで俺が有頂天になって舞い上がっていたときに、アヤノさんには好きな人がいることが分かった。 そして、それは俺のことではなかった。なぜなら、それはアヤノさんに機械の魅力を伝えた人だと彼女自身から告げられたのだから。 俺は言ってみれば真逆の存在だ。俺はアヤノさんに出会って、機械のことを教えてもらったんだ。 それは、俺とアヤノさんの立場が真逆……いや、ここで俺は気づいてしまった。 なぜ、初めて入ったアヤノさんの部屋のことを俺は知っていたのか。 真逆なのは「立場」じゃない。「順番」だったんだ! 俺がアヤノさんを引っ張り出して、巻き込んで楽しんでいたから、段々と感化されてアヤノが機械好きになっていっ
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