LOGIN一回目の人生で幼馴染のリカに振り回され、自分の気持ちを押し殺したまま我慢ばかりの77年を終えた沢渡ヨータ。リカは「超絶」が付くほどの美少女で、老いても美しい妻だった。ヨータはそんな妻が病気で亡くなったことに悲しみ、もう一度リカの笑顔が見たいと神に願う。そんなヨータは目覚めると、高校時代へとタイムリープしていた。 高校生のリカは相変わらずモテまくっていて、一人の男子生徒の告白をOKしてしまう。思った効果が得られずにあっさり男子生徒をふってヨータのところに戻ろうとするリカだったが、ヨータの心は戻らなかった。
View More「お願い! 私が間違ってたの! もう一度私と付き合って! 前世では結婚して、子どもだってちゃんと育て上げたじゃない! だからまた私と……っ!」
冬の放課後。黄昏色に染まる教室で、冷たい木枯らしがカタリと窓を揺らした。 誰もいなくなった静寂の中で、涙で瞳を濡らしたリカが俺の制服の袖に必死にしがみついてくる。 かつて世界で一番愛おしかったはずの幼馴染の顔を、俺はただ冷ややかに見下ろしていた。 「この2週目の人生を変えたのはお前だ、リカ。お前があんなことをしなければ……俺たちがこうなることはなかった」 袖を振り払うと、リカは絶望に顔を歪ませ、その場にへたり込んだ。 ――どうして、こんなことになってしまったのだろう。 俺たちは、誰よりも仲の良い幼馴染で、誰よりも幸せな夫婦だったはずなのに。 時計の針を、すべての始まり……いや、「一回目の人生」の終わりまで戻そう。 *** 俺とリカは、生まれた瞬間から隣同士の家で育った。 物心ついた時にはいつも一緒にいて、同じ幼稚園に通い、同じ小学校、中学校、高校へと進んだ。 進路に迷った時も、リカが「城南大学に行きたい」と言えば、俺も迷わず同じ城南大学の経済学部を受験し、一緒に合格した。 大学を卒業して二年目。商社で営業として必死に働き始めた俺と、別の会社で事務員をしていたリカは、自然な流れで結婚した。 翌年には長男が生まれ、その四年後には長女が生まれた。 「ヨータ、今日もお疲れ様。ご飯できてるよ」 「ああ、ただいま。子供たちは?」 「もうぐっすり寝ちゃった。はい、ビール」 忙しくも満たされた日々だった。気づけば三十年という月日が流れ、子どもたちは立派な大人になって俺たちの元を巣立っていった。 五十歳を過ぎ、再び二人きりになった俺たち夫婦。 贅沢な暮らしなんてできなかったけれど、老後の蓄えのためにパートで家計を支えてくれるリカと、たまの休みに安旅行へ出かけるのが何よりの楽しみだった。 二人の穏やかな時間が、ずっと続くのだと信じて疑わなかった。 だが、運命はあまりにも残酷だった。 七十七歳を迎えたある日、リカが倒れた。診断結果は、膵臓のガン。 発見された時にはすでに手遅れで、医師から余命宣告を受けてからは、あっという間の出来事だった。 病院のベッドで日に日に小さくなっていくリカ。 そして、冷たくなった妻の手を握りしめながら、俺は一人、病室で声を上げて泣いた。 「神様……お願いです。もし本当に神様がいるなら、俺の残りの寿命なんて全部あげるから……もう一度だけリカに会わせてくれ。あの温かい笑顔を、もう一度だけ見せてくれ……!」 生まれて初めて、本気で神様に祈った。 泣き疲れ、リカの残香が漂う病室で静かに意識を失っていったあの日。 それが、俺の最初の人生の終わりだったはずだった。大学を卒業し、それぞれの道を歩みはじめて数年。 俺とアヤノは東京の地にいた。二人の生活は穏やかで、そして確かな温もりに満ちていた。 その日、俺たちが足を運んだのは、都内にある日本屈指の巨大ドーム会場だった。 信じられないことに、大学時代は兼業地方アイドルグループにいたのだけど、卒業と同時に東京に出て行った。「アイドルになる」と言って姿を消したリカは、たった3年でこの日本最高峰のステージにソロで立つトップアーティストへと駆け上がっていた。 「関係者パス、こちらになります」 スタッフに案内され、俺たちは本番前の静まり返った控室のドアを叩いた。(ガチャ) そこにいたのは、テレビや雑誌で見る、まばゆいほどの輝きを放つトップアイドル・リカの姿だった。けれど、俺たちを見つけた瞬間、彼女はパッと少女のような笑顔に戻った。「ヨータ、来てくれたんだ。ありがと。アヤノさんも」「招待されたからな。すげえな、リカ。まさか本当にドームのステージに立つなんてさ」「でしょ? あたしの才能をなめないでよ」 ふん、と得意げに鼻を鳴らすリカ。その横で、アヤノが穏やかに微笑んでお辞儀をした。「リカさん、すごいです。本当に、おめでとうございます」「……ありがと、アヤノさん。相変わらず隙のない美人ね」 少しだけ気まずいような、けれど昔のようなトゲの全くない空気が流れる中で、俺はふと疑問に思ったことを口にした。「そういえばさ、なんで本番前なんだ? 普通、こういう楽屋への顔出しって、ライブが終わったあとじゃねえの?」 俺の問いかけに、リカは「はぁ?」と大げさに呆れたような顔をして腰に手を当てた。「そりゃ、本番のあとなんて全力出し尽くしてボロボロだもん。ステージ前はプロのメイクさんとかが最っ高にかわいくしてくれるからに決まってるでしょ!」 自分をよく見せたいのか、それとも未だに俺に未練があるのか……。「それに、終わった後の汗だくの姿じゃなくて、一番最高の状態の私をヨータに見せて、『あぁ、逃した魚は大きかったなぁ』って後悔させられないじゃない!」 後者だった……。 相変わらずの調子に、俺は思わず苦笑いを浮かべた。「いやいや、お陰様でうちはうまくやってるからさ」 その瞬間。「――っ痛っ!?」 不意を突いて、俺の足のつま先がギュッと踏みつけられ
デジャヴをご存知だろうか。日本語では既視感と字が当てられる。 初めて来た場所なのに、過去に来たことがあると感じたりする錯覚だ。脳の情報処理のバグなどと表現する人もいる。 しかし、そのメカニズムは明確にはなっていない。「どうしたの?沢渡くん」 アヤノさんの部屋に入った瞬間だった。強烈なデジャヴを感じていた。動きが止まってしまった俺のことを心配してくれてアヤノさんが尋ねた。「いや……、なんでもない……」 俺がアヤノさんの部屋にお邪魔したのは今回が初めてじゃない。俺たちの交際は受験生ながら、それぞれの両親にも公明正大に付き合ってきたからだ。 思い起こせば、初めてアヤノさんの部屋に入ったときにもデジャヴを感じたことを思い出した。 そして、これまでスルーしてきた「小さな引っかかり」を次々思い出した。 アヤノさんと初めて会ったあの図書室で、俺は自己紹介もしてないのに「ヨータくん」って呼んでいた。俺はリカのせいで悪い意味で目立っていたから、既に俺のことを知っているって考えたんだ。 でも、その後はずっと「沢渡くん」で通してきた。この違和感になぜ今まで気付なかったのか!? そして、俺自身も彼女を呼ぶときは「如月さん」って呼ぶのに、心の中では常に「アヤノさん」と呼んでいた。多分、相当始めの方からだ。「アヤノさん……」「アヤノさん?」 思わず出た俺の言葉にもアヤノさんは笑顔で返してくれた。「アヤノさんに機械の面白さを教えてくれた人って……」「あ、そのこと……。多分、信じてもらえないって思って、言ってなかったんだけど……」 そうなのだ。いつかのデートで俺が有頂天になって舞い上がっていたときに、アヤノさんには好きな人がいることが分かった。 そして、それは俺のことではなかった。なぜなら、それはアヤノさんに機械の魅力を伝えた人だと彼女自身から告げられたのだから。 俺は言ってみれば真逆の存在だ。俺はアヤノさんに出会って、機械のことを教えてもらったんだ。 それは、俺とアヤノさんの立場が真逆……いや、ここで俺は気づいてしまった。 なぜ、初めて入ったアヤノさんの部屋のことを俺は知っていたのか。 真逆なのは「立場」じゃない。「順番」だったんだ! 俺がアヤノさんを引っ張り出して、巻き込んで楽しんでいたから、段々と感化されてアヤノが機械好きになっていっ
年末年始は推薦だ、共通テストだ、一般入試だと、とにかくバタバタと過ごした。 年が明けて3年は自由登校になったころ、続々と試験結果が学校に届くようになった。 WEBで確認と学校経由で発表のパターンがある。 俺とアヤノさん、そしてリカはそれぞれ合格の知らせを学校経由で受け取った。 リカは城南大に合格。 俺とアヤノさんは念願の城東大学の工学部に合格した。 大学から俺は独り暮らしするし、ここでリカとは決定的に、完全に道が分かれるな。 職員室で合格の知らせをもらったあと、なんとなく教室に来た。発表を聞きにいくクラスメイトはもういないので誰もいないと思っていたのにそこにはリカがいた。 そして、ここで物語の冒頭にもどるーーー。「お願い! 私が間違ってたの! もう一度私と付き合って! 前世では結婚して、子どもだってちゃんと育て上げたじゃない! だからまた私と……っ!」 冬の放課後。黄昏色に染まる教室で、冷たい木枯らしがカタリと窓を揺らした。 誰もいなくなった静寂の中で、涙で瞳を濡らしたリカが俺の制服の袖に必死にしがみついてくる。 かつて世界で一番愛おしかったはずの幼馴染の顔を、俺はただ冷ややかに見下ろしていた。「この2週目の人生を変えたのはお前だ、リカ。お前があんなことをしなければ……俺たちがこうなることはなかった」 袖を振り払うと、リカは絶望に顔を歪ませ、その場にへたり込んだ。「……それも嘘だろ?」「うん。最後だから」 さっきまで涙を流していたリカがケロッとして答えた。まったくこんな整った顔のやつがぽろぽろ涙を流しながら復縁を求めてくると、全部知っている俺でも本気かと思ってしまう。 信じていなかったけど、リカの言う「サムシング」ってのは本当に存在するのかもしれない。「おめでとう」「ありがと。お互いにな」「うん」 リカは笑顔で俺を教室から送り出した。いつか言っていた「最後は笑顔で別れたい」ってのを実現したのか……。 いつからか、リカは俺に対して嘘ばかりだった。では、さっきの笑顔も……と考えると色々複雑だけど、それはもう俺の考えることではないだろう。「良かったんですか?」 ここで廊下でアヤノさんと合流した。リカと一緒だったのも知っているみたいだ。「中途半端に優しくするのは余計にひどいってもんだよ」「それはそうかも」 俺は、アヤ
俺とアヤノさんの交際は順調だった。まず、あれだけ大騒ぎしたのだから、クラス中が俺たちが付き合っていることは知っていた。 同じ理由でうちの両親もアヤノさんと付き合い始めたことは知っている。彼女がうちに遊びに来ることもあるからだ。 一番最初だけ少し変な空気になったけれど、礼儀正しくてかわいいアヤノさんのことを両親が気に入らないわけがなかった。 最近になって「あのときは悪かった。実の息子を疑うなんてどうかしていた」などと父さんからガチ目の謝罪を受けた。母さんも「私は息子をそんな風には育ててない。仮に妊娠させてもそこで逃げるような子じゃない」とか言ってた。 こっちはもう少ししっかりと話をしないといけないかもしれない。 もちろん、リカの両親も二人とも土下座する勢いで謝ってくれた。学校での一件もどこからか耳に入ったらしい。 ちょっといいお菓子の折を持ってきた。すごく反省しているようだし、昔からの付き合いだし、そして、一周目の義両親ってこともあってお世話になった記憶もある。俺は謝罪を受け取った。 なんかみんな憑き物が落ちたみたいにガラリと変わったんだ。 多分、俺のトラブルは終わったんだ。アニメや映画ならエンドロールが流れているか、既に流れたあとなんだろう。現実ではいつ終わったかなんて分からないのだけど……。 ✳ ある週末のこと。 アヤノさんが週末に勉強がてら、うちに遊びに来た。彼女とうちの母さんはすごいはやさで仲良くなっていった。 相手の心の領域には踏み込みすぎず、かと言って消極的ではなく、むしろお互い積極的に関わっていってた。 俺としては悪いことではないし、アヤノさんも「お母様お料理が上手で!生姜焼きの味はなんとかして盗みたい」とか言ってた。偶然かもしれないけど、俺の好物は生姜焼きなんだけど。 勉強もしたし、ご飯も食べたし、俺がアヤノさんを家まで送って行こうかってタイミングで部屋の外が騒がしかった。『ちょ、いまはっ!』 ガタガタと大きめの物音と共に母さんの声が一階から聞こえた。「なんだろ。ごめん、ちょっと見てくる」「うん……」 アヤノさんに断りを言ってから俺は一階に降りることにした。(ガチャ)「……」 そこにはリカの姿があった。後ろから母さんがリカの腕を掴んでいたから、母さんでは止められなかったらしい。 リカは部屋の中に入ると一瞬