幼馴染は二度目の人生で他の男を選んだ。泣いて謝ってきたけどもう遅い〜タイムリープで二度目の人生を俺は自分のために生きる〜

幼馴染は二度目の人生で他の男を選んだ。泣いて謝ってきたけどもう遅い〜タイムリープで二度目の人生を俺は自分のために生きる〜

last updateLast Updated : 2026-10-10
By:  猫カレーฅ^•ω•^ฅUpdated just now
Language: Japanese
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一回目の人生で幼馴染のリカに振り回され、自分の気持ちを押し殺したまま我慢ばかりの77年を終えた沢渡ヨータ。リカは「超絶」が付くほどの美少女で、老いても美しい妻だった。ヨータはそんな妻が病気で亡くなったことに悲しみ、もう一度リカの笑顔が見たいと神に願う。そんなヨータは目覚めると、高校時代へとタイムリープしていた。 高校生のリカは相変わらずモテまくっていて、一人の男子生徒の告白をOKしてしまう。思った効果が得られずにあっさり男子生徒をふってヨータのところに戻ろうとするリカだったが、ヨータの心は戻らなかった。

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Chapter 1

第1話:すべてが狂い出す前の、完璧だった俺たちの人生

「お願い! 私が間違ってたの! もう一度私と付き合って! 前世では結婚して、子どもだってちゃんと育て上げたじゃない! だからまた私と……っ!」

冬の放課後。黄昏色に染まる教室で、冷たい木枯らしがカタリと窓を揺らした。 誰もいなくなった静寂の中で、涙で瞳を濡らしたリカが俺の制服の袖に必死にしがみついてくる。

かつて世界で一番愛おしかったはずの幼馴染の顔を、俺はただ冷ややかに見下ろしていた。

「この2週目の人生を変えたのはお前だ、リカ。お前があんなことをしなければ……俺たちがこうなることはなかった」

袖を振り払うと、リカは絶望に顔を歪ませ、その場にへたり込んだ。

――どうして、こんなことになってしまったのだろう。 俺たちは、誰よりも仲の良い幼馴染で、誰よりも幸せな夫婦だったはずなのに。

時計の針を、すべての始まり……いや、「一回目の人生」の終わりまで戻そう。

***

俺とリカは、生まれた瞬間から隣同士の家で育った。 物心ついた時にはいつも一緒にいて、同じ幼稚園に通い、同じ小学校、中学校、高校へと進んだ。

進路に迷った時も、リカが「城南大学に行きたい」と言えば、俺も迷わず同じ城南大学の経済学部を受験し、一緒に合格した。

大学を卒業して二年目。商社で営業として必死に働き始めた俺と、別の会社で事務員をしていたリカは、自然な流れで結婚した。 翌年には長男が生まれ、その四年後には長女が生まれた。

「ヨータ、今日もお疲れ様。ご飯できてるよ」 「ああ、ただいま。子供たちは?」

「もうぐっすり寝ちゃった。はい、ビール」

忙しくも満たされた日々だった。気づけば三十年という月日が流れ、子どもたちは立派な大人になって俺たちの元を巣立っていった。

五十歳を過ぎ、再び二人きりになった俺たち夫婦。 贅沢な暮らしなんてできなかったけれど、老後の蓄えのためにパートで家計を支えてくれるリカと、たまの休みに安旅行へ出かけるのが何よりの楽しみだった。

二人の穏やかな時間が、ずっと続くのだと信じて疑わなかった。

だが、運命はあまりにも残酷だった。 七十七歳を迎えたある日、リカが倒れた。診断結果は、膵臓のガン。 発見された時にはすでに手遅れで、医師から余命宣告を受けてからは、あっという間の出来事だった。

病院のベッドで日に日に小さくなっていくリカ。 そして、冷たくなった妻の手を握りしめながら、俺は一人、病室で声を上げて泣いた。

「神様……お願いです。もし本当に神様がいるなら、俺の残りの寿命なんて全部あげるから……もう一度だけリカに会わせてくれ。あの温かい笑顔を、もう一度だけ見せてくれ……!」

生まれて初めて、本気で神様に祈った。 泣き疲れ、リカの残香が漂う病室で静かに意識を失っていったあの日。

それが、俺の最初の人生の終わりだったはずだった。

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第1話:すべてが狂い出す前の、完璧だった俺たちの人生
「お願い! 私が間違ってたの! もう一度私と付き合って! 前世では結婚して、子どもだってちゃんと育て上げたじゃない! だからまた私と……っ!」 冬の放課後。黄昏色に染まる教室で、冷たい木枯らしがカタリと窓を揺らした。 誰もいなくなった静寂の中で、涙で瞳を濡らしたリカが俺の制服の袖に必死にしがみついてくる。 かつて世界で一番愛おしかったはずの幼馴染の顔を、俺はただ冷ややかに見下ろしていた。「この2週目の人生を変えたのはお前だ、リカ。お前があんなことをしなければ……俺たちがこうなることはなかった」 袖を振り払うと、リカは絶望に顔を歪ませ、その場にへたり込んだ。 ――どうして、こんなことになってしまったのだろう。 俺たちは、誰よりも仲の良い幼馴染で、誰よりも幸せな夫婦だったはずなのに。 時計の針を、すべての始まり……いや、「一回目の人生」の終わりまで戻そう。 *** 俺とリカは、生まれた瞬間から隣同士の家で育った。 物心ついた時にはいつも一緒にいて、同じ幼稚園に通い、同じ小学校、中学校、高校へと進んだ。 進路に迷った時も、リカが「城南大学に行きたい」と言えば、俺も迷わず同じ城南大学の経済学部を受験し、一緒に合格した。 大学を卒業して二年目。商社で営業として必死に働き始めた俺と、別の会社で事務員をしていたリカは、自然な流れで結婚した。 翌年には長男が生まれ、その四年後には長女が生まれた。「ヨータ、今日もお疲れ様。ご飯できてるよ」 「ああ、ただいま。子供たちは?」 「もうぐっすり寝ちゃった。はい、ビール」 忙しくも満たされた日々だった。気づけば三十年という月日が流れ、子どもたちは立派な大人になって俺たちの元を巣立っていった。 五十歳を過ぎ、再び二人きりになった俺たち夫婦。 贅沢な暮らしなんてできなかったけれど、老後の蓄えのためにパートで家計を支えてくれるリカと、たまの休みに安旅行へ出かけるのが何よりの楽しみだった。 二人の穏やかな時間が、ずっと続くのだと信じて疑わなかっ
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第2話:セピア色の記憶と、奇跡の再会
「――ヨータ、起きなさいー」 どこか懐かしい、透き通った声が耳元に届いた。 何十年も聞いていなかった、瑞々しく若い声。 俺が重い瞼を開けると、視界に飛び込んできたのは、見慣れた天井だった。 病院の白い天井ではない。木目の模様が刻まれた、実家の俺の部屋の天井だ。「もう、また目覚まし止めて二度寝してる。今日から高校三年生なんだから、初日から遅刻したらカッコ悪いよ?」 呆れ顔で俺を見下ろしていたのは、紺色のブレザー制服に身を包んだ、十七歳のリカだった。 皺ひとつない綺麗な肌、つやつやとした黒髪、そして健康的な赤みを帯びた唇。「リ……カ……?」 「なにボサッとしてるの? ほら、早く着替えて下に降りてきて! おばさんの朝ご飯冷めちゃうから!」 プンプンと怒りながら部屋を出ていくリカの背中を、俺はただ呆然と見送った。 自分の手を見る。シミもシワもなく、張りがある若い男の手だ。 慌ててベッドから飛び起き、部屋の姿見に駆け寄る。そこに映っていたのは、白髪交じりの老人ではなく、制服を着た青くさい自分の姿だった。 ドタバタと階段を駆け下りると、キッチンには若々しい母さんが立っていた。「あらヨータ、やっと起きたの。ごめんなさいねぇリカちゃん、いつもいつも起こしに来てもらっちゃって」 「いいえぇ、いつものことですから」 そう言って照れくさそうに笑うリカ。 壁のスケジュールカレンダーに目をやると、そこには『20XX年4月』と書かれていた。俺たちが十八歳になる、高校三年の春だ。(夢……じゃない。本当に、過去に戻ってきたのか……!?) 食卓につき、まだ開かない目で食パンをかじる。テレビからは今朝のニュース番組が流れていた。画面の隅に表示されている日付も時間も、間違いなく俺が高校生だったあの頃のものだ。 あの病室で命を落としかけた時、神様が俺の必死の祈りを聞き届けてくれたのだろうか。残りの寿命と引き換えに、もう一度リカと出会うチャンスをくれたのだろうか。
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第3話:違和感の芽生えと、崩れ始める日常
満開の桜並木を抜けながら、俺たちは並んで学校へと向かっていた。 一回目の人生を振り返ってみて、つくづく思う。 幼馴染がいてくれて、本当によかったな、と。 物心ついた時から隣にリカがいてくれたおかげで、俺の人生には迷いがなかった。 好きな子を探す苦労も、進路で一人孤独に悩む寂しさもなかった。リカが前を走り、俺がその隣を歩く。それだけで、俺の人生は完璧に満たされていたのだ。 リカは学校でもすごく人気があった。それだけかわいいのだ。そんな子がいつも俺の横にいてくれたのは俺の自慢だった。みんなの羨ましい目が気持ちよかった。 だけど、一回目の人生はどこか駆け抜けるように生きてしまった気がする。 学業に追いかけられ、仕事に追われ、子育てに追われ……気づけば七十七歳になっていた。(今度は、もっと一日一日を大切に生きよう。リカとの時間を、噛み締めるように味わいながら生きていくんだ) そんな誓いを胸に刻むと、あふれ出る愛おしさを抑えきれなくなり、思わず口から言葉がこぼれ落ちていた。「リカ、今度はもっと人生を楽しもうな」 あっ、と気づいた時には遅かった。 「今度は」は余計だった。タイムリープなんて異常な事態を経験した二周目の俺にしか分からない、独り言のつもりだったのだ。突然そんなことを言われたら、リカだって首を傾げるに決まっている。「変なこと言ってごめ――」 撤回しようとした俺の言葉を遮るように、リカは足を止め、クスリと悪戯っぽく笑った。「そうね。健康に気遣って生活しないとね!」 「……え?」 俺の足が、ピタリと止まった。 健康に気遣って……? 十八歳の女子高生が、新学期初日の登校風景で口にするには、あまりにも不自然で、生々しい言葉だった。 リカの一回目の死因は、膵臓ガンだった。 日本人の二人に一人はガンにかかる時代だ。病気で命を落とすこと自体は珍しいことではない。けれど……今の一言は、あまりにも引っかかる。 まるで、自分が病気で死んだことを知っているかのような―
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第4話:静かな決別と、図書室の少女
 木村からの告白を受け入れたと笑うリカを前に、俺は必死で平気な顔を作っていた。「ふ、ふーん……」 声が裏返らないように抑えるのがやっとだった。 一度目の人生で、リカは俺以外の男と付き合ったことなんてただの一度もなかった。 俺たちは当たり前のように二人でいて、当たり前のように恋人になり、当たり前のように結婚したのだ。(リカは、俺だけのものじゃなくなったんだ) その事実を脳が理解した瞬間、俺の中で長年大切に育ててきた何かが、音を立てて木っ端微塵に砕け散った。  胸の奥に広がったのは、猛烈な嫉妬などではない。底なしの、冷え切った虚無だった。 一回目の人生で七十七年かけて築き上げた愛着も、死の間際に神様へ捧げた必死の祈りも、すべてが馬鹿らしくなっていく。 俺が命と引き換えにしてまで愛した妻は、二度目の人生の始まりとともに、あっさりと他の男の手を取ったのだ。 その夜、俺は自分の部屋で目覚まし時計を三十分早くセットして眠りについた。 ◇ 翌朝、鳴り響くアラームの音と同時に体を起こした。 毎朝、リカが部屋のドアを開けて「ヨータ、起きなさいー」と声をかけてくる前に、自分で洗顔を済ませ、制服に着替える。「あら、ヨータ? 今日は随分と早いのね。リカちゃん、まだ来てないわよ?」  キッチンで朝食の準備をしていた母さんが、驚いたように目を丸くした。「今日から少し早く行って、教室で勉強しようと思って。先にいくね」 「えっ、あ、そう? いってらっしゃい」 母さんの制止を振り切り、俺は一人で家を出た。 朝の冷たい空気が、火照った頬に心地いい。 いつもなら隣にリカがいて、くだらないおしゃべりをしながら歩く通学路。一人で歩いてみると、驚くほど静かで、どこか清々しかった。 三十分早く着いた教室は、まだ誰もいなくてひんやりとしていた。 自分の席に座り、単語帳を開いて眺める。リカのいない時間は、こんなにも穏やかに流れるものなのかと知った。 始業ベルの十五分前、教室の扉が勢いよく開いた。「もー、ヨータ! なんで先に行っちゃうの!?」 息を切らしたリカが、プンプンと怒りながら俺の席へと駆け寄ってきた。 毎朝一緒に登校するのが「当たり前」だったリカにとって、置いていかれたことが不満で仕方がないらしい。 俺は単語帳から目を逸らさないまま、淡々と答えた。「別に……」
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第5話:図書委員と、新しい役割
「準備室はその限りではありませんので、そちらを特別に提供します。その代わり何か本を借りてください」 悪戯っぽく微笑み、唇に人差し指を当てて「しー」とポーズをとる如月さん。 そのあまりに可愛らしく、けれどどこか知性的な仕草に、俺は一瞬呼吸を忘れそうになった。 自分の思い通りにならないとすぐ不機嫌になり、大声で主張するリカとはあまりにも違う。静かで、お茶目で、相手を思いやる優しさがある。「……あぁ。ありがと……」 差し出された鍵を受け取り、図書準備室のドアを開ける。 そこは古本の匂いと、日陰のひんやりとした空気が満ちる小さな部屋だった。 パイプ椅子に腰掛け、買ってきた焼きそばパンを一口かじる。静寂の中で食べるパンは、いつもの騒がしい教室で食べるよりもずっと美味しく感じられた。(借りる本、どうしようかな……) パンを食べ終え、約束を守るために準備室を出て図書室の棚を眺める。 文芸書の棚を通り過ぎ、ふと足が止まったのは、技術・工作のコーナーだった。 一回目の人生では見向きもしなかった領域だ。けれど、本当は子供の頃からプラモデルを作ったり、機械の構造を調べたりするのが大好きだったはずの自分がそこにいた。 一冊の「図書・写真で見る近現代の機械構造」という厚めの本を手にとり、カウンターへ向かう。「それ、借りるんですか?」  如月さんが、眼鏡の奥の目を少し丸くして俺を見上げた。「うん。ダメだったかな?」 「いえ! すごく渋い選択だなと思って……。そのシリーズ、写真がすごく綺麗で面白いですよ。私も好きなんです」 パッと花が咲いたような笑顔を見せる如月さん。 一回目の人生では一度も交わさなかった会話。けれど、俺たちの趣味や波長は、驚くほど自然に噛み合っていた。 手渡された貸出カードに自分の名前を書き込みながら、俺は静かな充実感に満たされていた。 ◇「――はーい、それじゃホームルーム終わる前に、今年の『卒業アルバム制作実行委員』のメンバーを決めるぞー」 午後のホームルーム。担任のダミ声が教室に響き渡ると、クラス中にウッと嫌そうな空気が流れた。  卒アル委員は写真の選定や行事の取材、ページのレイアウト構成など、行事の裏でとにかく面倒な作業が多いことで有名な「ハズレくじ」の委員だ。 誰も手を挙げず、気まずい沈黙が流れる。「誰か立候補はいないかー?
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第6話:放課後の図書準備室と、心地よい居場所
ガラリと図書準備室の引き戸を開けると、ほんのりと古本の香りと夕日の柔らかい光が部屋を包み込んでいた。「あっ、いらっしゃい――……えっ、ヨータく……、沢渡くん!?」 パイプ椅子に座って資料を広げていた如月アヤノさんが、驚いたように大きな目を丸くした。眼鏡の奥の瞳がぱちくりと瞬いている。「1組の卒アル委員って、沢渡くんだったんですか?」 「うん。勝手に立候補しちゃったんだけど……迷惑だったかな?」 「まさか! すごく嬉しいです。他のクラスの男子委員さんは誰も乗り気じゃなかったみたいで困っていたんです。……あ、座ってください」 アヤノさんはパッと表情を明るくすると、隣のパイプ椅子を引いてくれた。 聞けば卒アル委員の1回目のミーティングは既に終わっていたらしい。多分、うちのクラスでも案内があったんだろうけど、全く耳に入ってなかった。 3年は6クラスあるんだけど、なんでも2クラスごとにアイデアをまとめて持ち寄ることになっているらしい。 1組は委員のなり手がいなかったし、2組のアヤノさんは一人で困ってたらしい。今日決まって、今日ミーティングなんておかしいと思ったんだ。納得した。 夕日が窓から差し込み、準備室の小さな机をオレンジ色に染めている。 教室にいた時のギスギスした空気や、リカの理不尽な言い分による疲労感が、彼女の柔らかな声と微笑みによってスーッと溶けていくようだった。「じゃあ早速だけど、今年のアルバムのテーマと写真の配分についてなんですけど……」 アヤノさんが手際よくノートを開き、過去の卒業アルバムや構成案の資料を広げる。 彼女の提案はとても合理的で、それでいて生徒一人ひとりの表情を大切にしたいという温かさに満ちていた。「ここ、行事写真のページなんですけど、ただ写真を並べるだけじゃなくて、制作裏話とか撮影者のコメントを小さく入れるのはどうでしょう? その方が後で見返した時に絶対に面白いと思うんです」 「いいな、それ。写真部のやつらにも協力してもらって、ボツになっ
last updateLast Updated : 2026-09-25
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第7話:待ち伏せと、すれ違う拒絶
「じゃあ沢渡くん、また明日。アルバムの企画、楽しみですね」  「ああ、家まで送ろうか?」「ありがとう大丈夫。まだ明るいし」 「そか、また明日な。気を付けて帰れよ」 図書室での打ち合わせを終え、アヤノさんと並んで校門へと向かう。 夕闇が迫る校庭には運動部の声が遠く響き、爽やかな風が吹き抜けていた。アヤノさんとの会話の余韻が心地よく、胸の奥がじんわりと温かい。 だが、校門の脇、大きな桜の木の陰からスッと影が躍り出た瞬間、その心地よさは一瞬で吹き飛んだ。「……ヨータ」 待ち伏せしていたのは、リカだった。 腕を組み、不機嫌さを隠そうともせずに佇んでいたリカは、俺の隣に立つアヤノさんを一瞥すると、露骨に眉をひそめた。「遅いからずっと待ってたんだよ。なんでそんな女と一緒に……」 棘のあるリカの言葉に、アヤノさんは驚いたように一瞬目を丸くした。 しかし、すぐに場の空気を察したようで、困ったような苦笑いを浮かべると、俺に向かって軽く頭を下げた。「……あ、取り込んでるみたいだからお先するね。沢渡くん、また明日」 他人のドロドロとした事情に深入りせず、あっさりと引いてみせるその潔さと大人な立ち振る舞い。 「あ、うん。気をつけてな」と俺が声をかけると、アヤノさんは軽やかな足取りで校門をくぐり、一人で去っていった。 遠ざかるアヤノさんの後ろ姿を目で追っていると、リカが苛立ちを隠さずに俺の前に立ちはだかった。「なんなの、あの女! ヨータ、いつからあんな女と仲良くなってたの!?」  「あんな女って言い方はよせよ。同じ委員の如月さんだ」 「ふん、如月さん……ね。そんなことよりヨータ、もういいでしょ? 朝も昼も私を無視して、こんな時間まで他の女子といるなんて……。お願いだから、もう意地を張るのはやめてよ」 リカは俺の制服の袖をつかもうと手を伸ばしてきた。一回目の人生で、俺が彼女に甘かったことを知っているかのような、当然のように許されると思っている態度。 だが、俺はその手を冷ややかにかわした。
last updateLast Updated : 2026-09-26
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第8話:機械の魅力と、日曜日の約束
 自分の部屋の机に向かい、昼間に図書室で借りてきた『図書・写真で見る近現代の機械構造』を開く。 パラパラとページをめくっているうちに、気づけば俺はすっかりその世界に引き込まれていた。 そこには、普段の生活では目にする機会もない高精密な半導体製造装置の内部構造から、普段街で見かけるような自動たい焼き製造ラインのからくりまで、ギミックの詰まった写真と図面がズラリと並んでいた。(うわ、なんだこれ……めちゃくちゃ面白いな……) 整然と配置されたギア、規則正しく動くアーム、無駄のないパーツの噛み合い。見ているだけで胸の奥がゾクゾクするような高揚感が込み上げてくる。 試しにスマホを取り出し、動画サイトで「自動化ライン 機械」と検索してみた。 画面に流れてきたのは、大量の今川焼きがコンベアに乗せられ、自動で生地が注がれ、餡が落とされ、絶妙なタイミングでひっくり返されていく映像だった。 滑らかなアームの動き、一切の無駄がない一連の挙動。 気づけば俺は、口を半開きにしたまま同じ動画を三十分以上も延々と眺めていた。(やばい……ずっと見ていられる……) 一回目の人生では、リカの買い物に付き合ったり、彼女の機嫌を取ることに夢中で、自分が何に興味を持っているのかすら深く考えたことがなかった。 けれど、俺は本来、こういう「複雑な機械が緻密に動く仕組み」を見るのがたまらなく好きだったのだ。 七十七年間の人生を経て、二度目の高校生活でようやく気づいた自分自身の本当の好き(フェイバリット)。 胸の中に、じわじわと温かい充足感が広がっていった。 ◇「――それでさ、ネットで動画探したら、今川焼きを作るマシーンが延々と動いてる動画があって。気づいたら三十分もそれだけ見ちゃってたんだよ」 翌日の放課後。図書準備室でアルバムの写真を分類しながら俺がそう明かすと、向かいに座っていたアヤノさんは「ふふっ」と鈴を転がすような声で笑った。「分かります! あの整然と型に生地が落ちて、くるっとひっくり返る瞬間の気持ちよさですよね。ずっと見ていられますよね」 眼鏡の奥の瞳をキラキラと輝かせ、アヤノさんが深く頷く。
last updateLast Updated : 2026-09-26
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第9話:日曜日の太宰府と、小さなからくり
 日曜日、秋晴れの澄み渡る空のもと、俺は約束の十五分前に駅の改札前に着いていた。 一回目の人生では、リカとは家が隣同士だったこともあり、「待ち合わせ」という概念すらまともに存在しなかった。 約束の時間より何十分も早く勝手に俺の部屋へ上がり込んできては、「ヨータ、まだ準備してないの!? 遅い!」と理不尽に急かされるのが日常茶飯事だった。自分の都合だけで振り回されるのが当たり前だったあの頃。 けれど、今日の俺の心には、そんな嫌な焦りや苛立ちは微塵もなかった。あるのは純粋なワクワク感だけだ。「沢渡くん! おはようございます。お待たせしちゃいましたか?」 声をかけられて振り向くと、そこには少し息を切らせたアヤノさんが立っていた。  制服姿しか知らなかった彼女の私服は、落ち着いたベージュのカーディガンにチェックのスカートという上品な装い。少し風になびく髪と、日差しを受けて光る眼鏡のフレームが、いつも以上に大人っぽく、そして可愛らしく見えて一瞬胸が跳ねた。「ううん、俺も今着いたところ。おはよう、如月さん」 「よかった……! 遅れちゃいけないと思って走ってきちゃいました。ふふ、私服の沢渡くん、新鮮ですね。すごくお似合いです」 「そうかな……ありがと。如月さんも、すごく素敵だ」 「え……あ、ありがとうございます……っ」 素直に思ったことを口にすると、アヤノさんは少し頬を染めて照れくさそうに笑った。 誰かの顔色を窺うのではない、お互いを尊重し合う自然なやり取り。それだけで、今日のデートが最高のものになると確信できた。 ◇ 電車に揺られること約三十分。太宰府駅を出ると、参道は多くの観光客や参拝客で賑わっていた。  香ばしい焼き菓子の匂いが漂う参道を歩きながら、アヤノさんが「ここです!」と足を止めたのは、老舗の佇まいを見せる一軒の梅が枝餅屋さんだった。「店内奥のガラス張りのコーナーを見てみてください!」 「おお……!」 吸い寄せられるように店の奥へ向かうと、そこにはまさに「職人技を再現した自動製造マシン」が鎮座していた。 滑らかなアームが均一な大きさの餅生地を押し出し、絶妙なプレスで餡を包み込む。それがコロコロと焼き型の鉄板へと運ばれ、カチャンと蓋が閉まる。 一定の焼き時間を経てパカッと蓋が開くと、こんがりと香ばしい刻印のついた梅が枝餅が次々と排出
last updateLast Updated : 2026-09-27
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第10話:絵馬に託す未来と、静かな決意
 参道の人波を抜け、楼門をくぐると、境内の空気はどこかひんやりと澄んでいた。 手水舎で清めてから本殿へと向かい、二人並んでお賽銭を投げ入れる。二礼二拍手一礼。 一回目の人生の高校時代、俺は「リカと同じ大学に行けたらいいな」なんてぼんやりとした理由だけで進路を選んでいた。自分のやりたいことなんて何一つ考えず、ただ流されるままに生きていた。 けれど、今は違う。 パンパン、と静かな境内に拍手の音が響く中、俺は目を閉じ、心の中で静かに言葉を紡いだ。 さっきの梅が枝餅の店の機械……。俺にとってはかなりの衝撃だった。  単に見ただけだったら、それほどの衝撃は感じなかっただろう。「あのフタの動き、その自重や角度を計算して作られているんですよ。だから、決まったところでフタは開いて、決まったところでは押し付けるんです。アームとか、カムとか……そんなギミックは物理につながっていて、その物理を解くためのツールとして数学があるんです」 アヤノさんの目はキラキラしていた。 学校の数学や物理は俺にとって「つまらないもの」の代表だった。国語や英語は社会に出たら必要だと思う事はある。でも、数学とか物理とか、そんなものは必要だと思っていなかった。 ところが、俺が好きなあの機械は物理と数学で動いているのだという。なんだそれ。めっちゃ気になる。 あんなのに囲まれる生活ができたら楽しいだろうなぁ……。(俺の本当の『好き』が見つかりました。これからは、自分の意志で機械の道を学びたいです。どうか見守ってください) 神様への俺のお願いはそんな感じだった。  もっとも、既にタイムリープで二度目の人生を叶えてくれているので、俺の願いなんて叶えられる訳はないのだけど……。 隣を見ると、アヤノさんも深く頭を下げ、真剣な表情で手を合わせていた。眼鏡の脇から覗く横顔が、境内を包む木漏れ日に照らされてどこか神秘的に見えた。「――よしっ」 お参りを終え、胸を張って息を吐くアヤノさん。「沢渡くん、絵馬も書いていきませんか? せっかく学問の神様に来たんですから」 「そうだな。書こうか」 絵馬を二枚買い、並んで小さな台に向かう。 アヤノさんはサラサラと丁寧な文字で『志望校合格・みんなが笑顔で過ごせますように』と書いていた。彼女らしい、優しくまっすぐな願い事だ。 俺は少しペンを走らせる手
last updateLast Updated : 2026-09-27
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