キャンセルの手続き書類にサインをしていると、賢太からまた電話がかかってきた。「結衣の予備のドレスはどこだ?さっき鍋の汁が飛んで、息もできないくらい泣いてるんだぞ」私は冷ややかに答えた。「ブライズメイドのドレスは1着だけ。予備なんてないわ」電話の向こうで、大輔が鼻で笑った。「はっ。知紗、お前は何の役にも立たないくせに、そういう小細工だけは一人前だな。結衣が今日、淡い色のドレスを着るってわかってて、わざと予備を用意しなかったんだろう」真斗も口を挟んできた。「式に少し遅れただけだろう。いったい誰への当てつけのつもりだ」結衣が涙声でふたりをなだめた。「……お兄ちゃんたち、知紗姉ちゃんを責めないで。今日の主役は知紗姉ちゃんなんだから、私が怖い思いをしたことなんて大したことないわ。知紗姉ちゃんがドレスを届けてくれないなら、私、汚れたままのドレスで行くから……っ恥をかくのは私だけだもの。知紗姉ちゃんの結婚式には影響しないわ」賢太の声が、途端に冷たくなった。「聞いたか?結衣はお前にこんな目に遭わされても、まだお前をかばってるんだぞ。ドレスを届けて、直接謝ってこい」私は受け付けに掲げられた、大きなウェディングフォトを見つめた。「……結婚式は中止よ」電話の向こうが、一瞬静まり返った。賢太が、ふっと嘲るように笑った。「お前なんかに、中止にする度胸があるわけないだろ?知紗、お前はもう30だろう。俺と別れて、他に誰が貰ってくれるって言うんだ。気性は悪いし、口も減らないし、1日中無愛想で木石みたいに突っ立ってるだけの女をな!俺が昔のよしみで、お前みたいな誰も欲しがらない売れ残りを拾ってやってるんだろうが」大輔が、蔑むような口調で言った。「賢太、お前が甘やかしすぎたせいだよ。こういう女は、しばらく放っておけばおとなしくなる」真斗が、鼻先で笑った。「ま、本当に中止になるなら、それもいいな。藤城家に嫁いでから、三重野家の恥を晒さずに済む」結衣が慌てて口を挟んだ。「そんなっ、お兄ちゃんたち、そんなふうに言わないでよ。知紗姉ちゃんは賢太さんのことが好きすぎて、彼が私に優しくするのが妬ましいだけなのよ」結衣が小さくしゃくり上げた。「全部、私のせいね……
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