半年後、新プロジェクトが正式に発表された。私は発表会のステージの舞台裏に立っていた。秘書が袖口を整えながら、手首のバングルに目を留める。バングルは修復されたが、割れた跡はまだわずかに残っていた。修復した線が、かつての亀裂をなぞるように走っている。完璧ではない。けれど前よりもずっと自分のものらしく見えた。「お時間です」私は頷いた。ステージの照明が点く。今度は誰も遅れてこない。誰かのために照明を落とす者ももういない。大型スクリーンには、私の名前がはっきりと記されていた。プロジェクト研究開発統括責任者、三重野知紗。客席から拍手が湧く。私はステージの中央に立ち、最後のプロダクトデモンストレーションを終えた。中継カメラが客席を映す。賢太は最後列に座り、ふたりの兄は反対側の席にいた。彼らは連絡してこなかったし、舞台裏に押し入ろうともしなかった。発表会が終わると、記者が尋ねた。「三重野博士、この技術の最初のひらめきはどこから来たのでしょうか」私はバングルに目を落とす。「母からです。壊れたものは直せると教えてくれました。でも直ったからといって、ひび割れを無理に隠す必要はないと」再び拍手が湧いた。舞台裏の控室で、スマホに3件の友だち追加リクエストが表示された。賢太のメッセージ。【あの新居、買い戻した】大輔のメッセージ。【家の暗証番号は、変えてない】真斗のメッセージ。【母さんのアルバム、もう一部バックアップを作った】私は長い間それを見つめ、すべて拒否した。秘書が尋ねる。「昔のお友達ですか?」「いいえ」私はスマホをしまった。「過去の人たちよ」ドアの外で取引先の代表が私を待っていた。海外本社の新しい研究室は完成しており、これからさらに3つの都市を回る予定だった。忙しい。けれどその一日一日は、すべて私自身のものだった。賢太は、あの新居に戻った。部屋の中は結婚式前の様子に戻されていたが、壁にウェディングフォトはない。机の上には栗のケーキがひとつ置かれていた。彼は夜更けまで座り続け、ケーキには一口も手をつけなかった。大輔と真斗は、三重野家に戻った。私の部屋はそのまま残されていたが、もう誰も入ろうとはしなかった。
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