Alle Kapitel von 新郎も兄も、もう待たない: Kapitel 11 – Kapitel 20

21 Kapitel

第11話

オンライン会議の当日、三重野グループの株主たちが顔を揃えていた。大輔が議長席にふんぞり返っていて、賢太はその右側に腰を下ろしていた。結衣ももちろん、同席していた。映像がつながった時、私は海外の研究室にいた。背後には、データを映し出すスクリーンが一面に広がっていた。プロジェクト責任者が立ち上がり、紹介した。「こちらが、新たにグローバル研究開発部門の統括責任者に就任された、三重野知紗様です」会議室が、一瞬で静まり返った。真斗が画面を見つめた。「いつの間に統括責任者になったんだ」「この会議とは関係ありません」私は書類を開いた。「使用許諾の話をしましょう」大輔が怒りを抑えつけた。「知紗、会社の状況は分かってるだろう!まず生産再開の目処をつけろ。他の話は家に帰ってからにしろ」「帰る家なんて、ありません」「そこまで言い切る必要があるのか」「先に全部切り捨てたのは、そちらでしょう」大輔の顔が険しくなった。結衣がそっと彼の袖を引いた。「知紗姉ちゃん、大輔兄ちゃんここ数日、ろくに眠れていないの。これ以上怖がらせないであげて」私は、彼女に目を向けた。「浅野結衣さん、これは臨時株主総会です。関係者以外は、ご退席を」結衣の目がたちまち赤くなった。案の定、賢太がすぐさま眉をひそめた。「彼女は三重野家の一員だ」私は、淡々と返した。「姓は浅野のままで、株式を1株も持っていません」何人かの株主が、笑いを堪えるように俯いた。結衣の顔から、さっと血の気が引いた。大輔は、秘書に彼女を退席させるよう命じた。大輔が結衣をかばわなかったのは初めてのことだった。会議が再開された。私の弁護士が、株式の証明を提示した。「三重野知紗様は、三重野グループの株式の27パーセントを保有しておられます。これまでは、三重野大輔様に議決権の代理行使を委任されていました。本日をもって、その委任は正式に終了しております」大輔が机を叩いた。「この件は、後で話し合う。まず生産を解決しろ」「生産の問題を解決するためにこそ、研究開発を正当に評価できる経営体制に見直す必要があるんです」私は、他の株主たちに目を向けた。「この5年間、三重野グループは私の特許によって320億
Mehr lesen

第12話

真斗は過去のプロジェクト資料を洗い直し始めた。取引先から、発明者の再確認を求められていたからだ。彼は、書類にいくつか名前を書き足すだけだと思っていたが、調べ進めるほどに、彼の顔は青ざめていった。8年前の初代機器。三重野知紗。6年前のアルゴリズム改良。三重野知紗。3年前、重大な不具合を解決した技術報告書。それもまた、知紗だった。ところが、広報用のパンフレットに記載された研究開発責任者の名は、三重野真斗だった。彼は、大きな賞を受け取った。経済誌にも取り上げられた。インタビューでは、このプロジェクトのために2か月間徹夜続きだったと語っていた。だがその2か月、彼は結衣を連れて海外へファッションショーを見に行っていた。知紗はその間、研究室で寝泊まりしていた。秘書が書類を抱えて入ってきた。「社長、取引先が公式な訂正と謝罪を求めております。ご本人からの直接の説明も、ご要望です」真斗は、自分の受賞写真を見つめた。「あの時、彼女の名前を消したのは誰だ」秘書は一瞬ためらった。「……あなたですよ。発表会の前に、知紗様と結衣様の間で揉め事がございまして。『結衣様の見せ場を奪わせたくない』とおっしゃって、主要開発者のリストから名前を削られたのです」真斗の記憶が少しずつ蘇ってきた。あの日、結衣は三重野家の養女として発表会に出席することになっていた。彼女は泣きながら、自分は何もできないのに、知紗の隣に立ったら笑いものになると訴えた。そこで真斗は、知紗に壇上へ上がらないよう言った。知紗は尋ねた。「このプロジェクトは私がやったのに、どうして行けないの?」あの時、自分はなんと答えただろうか。そう、こう言ったのだ。「結衣のわずかな見せ場まで、お前が奪う気か?たかが名前ひとつだろう。そんなにこだわることか?」今となっては、その「たかが名前」というひと言が、彼の胸を重く圧し潰していた。大輔がドアを開けて入ってきた。「訂正の声明は準備できたか?」真斗が顔を上げた。「僕たちは一度でも、知紗を妹だと思ったことがあったのか?」大輔が眉をひそめた。「今さらそんなことを蒸し返して何になる。まずは会社を守るのが先だ」「まだ会社のことを考えてるのか?」真
Mehr lesen

第13話

記者会見が終わった後、結衣が急に胃のあたりを押さえた。壁に手をつき、顔は真っ青だった。「真斗兄ちゃん、胃がすごく痛い……」以前なら、真斗はすぐに彼女を抱き上げて病院へ運んでいたはずだった。だが今回は、運転手を呼んだだけだった。「結衣を病院へ送ってくれ」結衣が彼の袖を掴んだ。「一緒に来てくれないの?」「まだ仕事がある」「大輔兄ちゃんは?」「会社だ」彼女の目から、涙がこぼれた。「知紗姉ちゃんが戻ってきたから、私はもう用済みってこと?」真斗はすっと手を引いた。「知紗は戻ってない。いや……もう、戻ってくることもない」そう言って、彼は資料室へ入っていった。結衣はその場に立ったまま、みるみる表情を曇らせていった。その夜、真斗は古いハードディスクを探しに三重野家へ戻った。家政婦が、彼のために物置の鍵を開けた。荷物を運び出していると、小さな薬箱が落ちた。中の鎮痛剤はすでに期限切れだった。家政婦がため息をついた。「これは、知紗様が以前お使いになっていたものです」真斗の手が、止まった。「よく怪我をしてたのか?」「奥様が亡くなられて間もない頃、知紗様は胃の具合が悪くて。時には、痛みで立てなくなることもございました。皆様にはお伝えしないようにと、お仕事でお忙しいからと仰って」家政婦は、ひと呼吸置いた。「知紗様が家を出られた日、腰をかなり強く打たれていました。手にも、かなりの出血がございました」真斗が、勢いよく顔を上げた。「なぜ誰も、病院に連れて行かなかったんだ」家政婦は、言いにくそうな顔をした。「……運転手は呼びました。ですが結衣様が、知紗様は可哀想ぶっているだけだと仰って、先にご自分をエステサロンへお送りするよう指示されました。その後、知紗様はご自分で出て行かれました」入口の方で、小さな音がした。結衣がそこに立っていた。「……わざとじゃなかったのよ。あの時知紗姉ちゃん、まだ歩けてたから、大丈夫だと思ったの」真斗は彼女を見据えた。「お前がエステに行くのは、そんなに急を要したのか?」「あの日、予約が入ってたの」「知紗が怪我してるのは、急ぎじゃなかったのか?」結衣の目が、真っ赤になった。「お兄ちゃんだって前に
Mehr lesen

第14話

ふたりの兄は過去の出来事を調べ始めた。調べてみると、どれも不自然なほど都合よく偶然が重なっていたことに気づいた。私の卒業式の日、結衣は熱を出した。私の誕生日には、結衣が階段から落ちた。母の命日には、結衣が悪夢を見たと言い出した。私が初めて重要なプロジェクトを任された発表会でさえ、結衣は舞台裏で「ドレスが駄目になった」と泣き出した。大切な瞬間のすべてで、私は置き去りにされてきた。そして結衣は、いつも3人の付き添いを得ていた。真斗はあの発表会の舞台裏の映像を見つけ出した。映像の中で、結衣は自分のドレスに赤ワインをこぼしていた。次の瞬間、彼女は泣きながら駆け出していった。真斗が駆け込んできて、事情も聞かずに私のドレスを脱がせ、彼女に着せた。私はシャツ1枚の姿で、舞台裏に立っていた。発表会が終わるまで、誰も私を探しに来なかった。大輔は映像を見終えると、煙草に火をつけた。「あいつは、わざとだったんだな」真斗の声がかすれた。「……どれだ?」大輔は答えなかった。どれも、わざとだった可能性がある。だが今さら、それを問い詰めたところで全く意味がない。結衣は、目を赤くするだけでよかった。本当に酷い言葉を口にしたのは、彼ら自身だった。本当に私を置き去りにしたのも、彼らだった。ある日、賢太が三重野家を訪ねてきた。彼は、プリントアウトしたチャット履歴の束をテーブルに投げ出した。「結衣は前から、よく知紗のスマホをいじってたんじゃないか?」結衣が、彼の後ろで顔を青くしていた。「賢太さん、それどういう意味?」「3年前、知紗から別れのメッセージが来たことがある。30分後に取り消されて、送る相手を間違えたと言われた」賢太は彼女を見据えた。「あの日、お前は彼女のスマホを使っていた」結衣が、指を強く握りしめた。「……写真を撮るのにちょっと借りただけよ。うっかり触っちゃったのかも」「うっかりで800文字も打てるものか?」賢太が印刷した紙を押しやった。結衣が泣き出した。「……っ!だって……知紗姉ちゃんがいつも私をいじめてる気がして……それで、ちょっと驚かせたかっただけ……ふたりの仲があんなに良かったんだから、1通のメッセージくらい、ふたりの関係に影
Mehr lesen

第15話

1週間後、私は新たな許諾条件を送った。三重野グループは、8年分の特許使用料を遡って支払うこと。私の開発者名義を、すべて正式に回復すること。母が私に遺した資産を、返還すること。私名義の株式を、三重野家の家族資産から完全に切り離すこと。今後、私と三重野家の関係は、株主としてのものに限る。親族であることを理由とした特別扱いはしない。親族だからという理由で負う義務も一切ない。大輔はそれを読み終え、顔を青くした。最後の条項には、一文だけがあった。【今後、母の遺言を盾に、三重野知紗に対して結衣の世話を要求することを禁ずる】取締役会は、彼に署名を急がせた。彼は、長い間座り込んだままだった。弁護士が念を押した。「大輔様、今夜12時までにご署名がなければ、許諾交渉は自動的に終了します」大輔はペンを取った。「……そこまでして、三重野と縁を切りたいのか」弁護士は、落ち着いた口調で言った。「知紗様は、縁はとうに切れていたと仰っています。今はただ、過去の貸し借りを清算しているだけだと」ペン先が、紙に落ちた。大輔は、最初の署名を済ませた。特許使用料は、数十億円にも及んだ。財務担当者たちは、顔を青くした。大輔は、それでも迷わなかった。この金は、もともと私に支払われるべきものだった。2つ目は、母の遺産に関する返還合意書だった。添付資料を開いて初めて、母が私に残したのがアクセサリーだけではないと知った。不動産2件と、研究室1つ、そして研究開発基金まであった。不動産は、三重野家が長年使用していた。研究室は、結衣のアトリエに変えられていた。研究開発基金は、彼女の工房の資金に流用されていた。「これを承認したのは、誰だ」財務担当者が、小さな声で言った。「すべて、あなたご自身です」大輔は目を閉じた。結衣が、この研究室は日当たりがいいからと甘えてねだったのを覚えている。彼は、私の実験設備を倉庫へ運び出させた。私は戻ってきて、問い詰めた。彼はただ、こう言った。「たかが研究室だろう。結衣が気に入ったなら、やればいい」あの時、私は入口に立っていた。長い間、何も言えなかった。気にしていなかったわけではなかった。ただ、言っても無駄だと分かっていただ
Mehr lesen

第16話

海外で開かれた業界サミットの当日、私は基調講演を任されていた。会場の外は報道陣が詰めかけていた。賢太とふたりの兄は夜通し移動して駆けつけてきたようだが、入口で警備員に止められている。「申し訳ございません。3名様のお名前は招待客リストにございません」賢太が名刺を出した。「藤城グループの社長だ」警備員はちらりと見ただけだった。「関係者としてご入場の場合は、事前の登録が必要です」大輔が低い声で凄む。「俺たちは、三重野知紗の家族だ」係員がシステムを確認した。「三重野様のご登録情報では、ご家族は同伴者として登録されておりません」そのひと言が、3人をその場に釘付けにした。彼らはガラス張りのエントランスの外に立たされるしかなかった。私は黒いスーツを着てステージに上がった。大型スクリーンに、中核プロジェクトの最新データが映し出される。客席から割れんばかりの拍手が湧き起こった。三重野博士と呼ぶ者も、最年少の研究開発統括責任者と呼ぶ者もいた。賢太はガラスの向こうから、呆然と見開かれた目で私を見つめていた。彼の記憶の中の私は、いつも地味な服を着ていた。彼の帰りを待ち、書類を整え、結婚式の会場選びでは10万円かかる照明のグレードアップにすら頭を悩ませる女。だから私を世間知らずで能力もなく、彼なしでは生きられないと決めつけていたのだ。だが今、私は千人を超える会場の中心に立ち、どんなに専門的な質問が飛んできても、堂々と淀みなく答えていた。周りにいるのは、彼が面会を望んでも簡単には会えない人々ばかりだ。真斗が小さな声でこぼした。「あいつは、昔からこうだった」賢太には意味が分からない。「何だって?」「大学の卒論発表だ。あいつはトップの成績を収めた」真斗はステージの上の私を見つめた。「僕は見に行くと約束していた。でも結衣が、隣町のケーキを食べたいって言うから、すっぽかしたんだ」大輔の顔が強張る。「あいつ、そんなこと一言も……」「言ったさ。僕たちが、あいつに気にするなって言ったんだろ」3人は、それ以上何も言わなかった。サミットが終わると、私は取引先に囲まれた。賢太が中へ入ろうとしたが、再び止められる。「知紗!」声は聞こえたが、私は足を止めなかった。
Mehr lesen

第17話

その夜、賢太はホテルのロビーで待っていた。エレベーターを降りた私の前に歩み寄ってくる。「話をしよう。10分だけでいい」「いいよ」と、私は時刻を確かめて応じた。彼は明らかに安堵した。隅のカフェに腰を下ろすと、賢太は婚約指輪をテーブルに置いた。「結婚式はやり直す。今度は全部お前の言う通りにする。結衣も出席させない」私は指輪を見つめた。「……それだけ?」「新居だって、同じような家を買い直してやる。場所もお前の好きなところでいい。知紗、これだけ譲れば十分だろう」私は思わず笑ってしまった。「ふっ……私が去ったのは、式の段取りが悪かったからだと?」「違うのか?」「それなら、よく聞いてください」私は指輪を押し返した。「母の命日に、あなたは墓参りに付き合うと約束した。でも結衣が気分が悪いと言うと、あいつと映画に行ったね」賢太の唇が小さく動く。「あの時は……結衣が失恋した直後だったんだ」「私が初めて手術を受けて入院した時、あなたは会議だと言ったよね。でも目が覚めた時、結衣のSNSで、ふたりが買い物をしているのを見たよ」「あいつが、ひとりでは危ないと言ったから……」「私の30歳の誕生日の日には、あなたはレストランで私を4時間待たせた。結衣が酔って、あなたの名前を呼んだから」賢太の顔から血の気が引いていく。それでも、私は続けた。「でも、一番重要なのはそこじゃない。一番許せなかったのは、私が傷つくたびに、あなたが私を『気にしすぎだ』と言ったことよ。私が離れようとするたび、『誰もお前なんかと結婚してくれない』と言った。私が傷つくのを知らなかったわけじゃない。ただ、どれだけ痛くても、私が去ることはないと思い上がっていただけ」賢太は指輪を握りしめた。「俺は変わるから。もう一度だけ、チャンスをくれ」「あげたよ。10年の間、許すたびにそれがチャンスだった」彼の喉が鳴る。「お前は、10年も俺を愛してきたじゃないか。それなのに、どうして簡単に愛が冷めたりするんだ」私は彼を見つめた。「簡単に冷めたわけじゃないよ。何かあるたびに、少しずつ気持ちがすり減っていったの。あなたが私を置いていくたびに少しずつ減って、あなたに辱められる
Mehr lesen

第18話

翌日、ふたりの兄から会いたいと連絡があった。場所は母が生前好んでいたレストランだった。私が着いた時、ふたりはすでに2時間も待っていた。大輔がひとつの書類箱を押し出す。「これは母さんが残した手紙だ。ずっと金庫にしまってあった」私は受け取らなかった。「単刀直入に言って」真斗がかすれた声を出す。「……僕たちは間違っていたと分かってる。知紗、母さんは最後に、お前のことを頼むと言った。僕たちは、それができなかった」大輔が続ける。「だが、俺たちはそれでも家族だ。一緒に戻ってこい。家にはいつでもお前の居場所がある」私は彼らに目を向けた。「私の居場所?結衣のクローゼットの半分を、私にくれるのね?」大輔の顔が白くなる。「部屋は元に戻した。お前のトロフィーも、写真も全部元の場所に戻したぞ」「あのベッドカバーは?」ふたりは言葉を失った。母が手縫いしてくれたあのベッドカバーは、靴拭きマット代わりにされていたのだ。真斗が俯く。「洗ったら、ボロボロになってしまった。だから、もう元には戻らない」私は自分の書類袋を開き、母が生前に作成していた信託書類を出した。3人の子供へ残した手紙も一緒に。「あなたたちはいつも、お母さんが結衣の世話を頼んだと言っていたね。それ、一体どこに書いてあるの?」大輔が手紙を受け取る。母の筆跡に間違いはなかった。3人の子供が互いに支え合ってほしいと願い、ふたりの兄に私を守ってほしいと書かれている。全文のどこにも結衣の名前はなかった。母が亡くなった時、結衣はまだ三重野家に入っていなかったからだ。真斗の手が震え始めた。「そんなはずはない……父さんは、母さんが最後に結衣を養女として三重野家に迎えることを承諾したと言っていた」「お父さんが結衣と知り合ったのは、母が亡くなった半年後よ。時期の矛盾さえ確かめていなかったのね」私は信託書類の添付資料をめくった。母のアクセサリー、不動産、研究室は、すべて明確に私へ遺されていた。「結衣に分け与える」という記述はどこにもなく、譲るようにとの指示も一切ない。大輔は文書を見つめた。「それなら、俺たちがこれまで……」「あなたたちはただ、お母さんの名前を都合よく借りて
Mehr lesen

第19話

結衣が、海外まで追いかけてきた。彼女はホテルのロビーで私を呼び止めるなり、その場に膝をついた。周囲にはたちまち人だかりができる。「知紗姉ちゃん、私が悪かった。お兄ちゃんたちを見捨てないで!ふたりともこの数日まともに食べられないし、眠れてもいないの。知紗姉ちゃんが家に戻ってくれるなら、私すぐに三重野家を出るから」賢太とふたりの兄が、ちょうど駆けつけてきた。結衣はさらに激しく泣き出す。「全部、私が知紗姉ちゃんの居場所を奪ったせいなの。死んで償ってもいいから!」そう言うと、彼女は不意に隣のテーブルの角へ頭をぶつけようとした。真斗が彼女を止める。結衣はその勢いのまま彼の胸に倒れ込んだ。これまでと変わらない、あまりにも手慣れた流れだった。だが今回、真斗は彼女を支えた後、すぐに手を離した。「ちゃんと立て」結衣は固まった。私は秘書にパソコンを開かせた。「せっかく全員揃ったので、きちんと清算しましょう」ひとつ目は、ホテルの駐車場の記録。結婚式当日、結衣の車は軽く擦れただけだった。それなのに賢太が駆けつけた後、彼女は自ら鍋を食べに行こうと言い出していた。ふたつ目は、家族グループチャットのバックアップ。私に点滴の写真を送った後、彼女は別のグループでこう言っていた。【あの人、絶対薬を届けに来るよ。ほんと、安っぽい女】3つ目は、家政婦の証言を録音したデータ。バングルが落ちる直前、結衣が故意に手を離したのを、家政婦がはっきりと目にしていた。結衣の顔が真っ青になる。「全部嘘よ。知紗姉ちゃんは私を恨んでるんだから、何だって捏造できるでしょう!」私は最後の監視カメラの映像を再生した。彼女が私の手を掴み、自分の頬を叩いている姿がはっきりと映っていた。賢太が目を閉じ、真斗が一歩後ずさる。大輔の顔には何の表情もなかった。結衣が彼にしがみつく。「大輔兄ちゃん、私はただ、あなたたちを失うのが怖かっただけなの!知紗姉ちゃんを傷つけたいなんて、思ってなかった」大輔は彼女を押し離した。「失うのが怖いからといって、知紗のものを壊していいのか?」「だって、みんな私のことが好きだったじゃない!」結衣が泣きながら叫ぶ。「私を選んだのは、あなたたち自身よ!」
Mehr lesen

第20話

帰国前、私は弁護士に依頼し、正式に結衣を提訴した。バングルは専門業者に修復を依頼し、修復費用と価値の減少分については、彼女に損害賠償を請求する。彼女が流用した研究開発基金も、全額返還させる。三重野家も、これまで結衣に無償で与えていた財産をすべて回収した。ただし、結衣を無一文で追い出したわけではない。大輔が彼女のために質素なアパートを用意し、毎月最低限の生活費だけを渡すことにした。「あいつは過ちを犯した。責任を取らせる。だが三重野が養ってきた以上、追い詰めて死なせるわけにもいかない」それが大輔の最後の決断だった。私は何も評さなかった。彼はようやく責任の区別を学んだが、その気づきはあまりに遅すぎたのだ。帰国の日、賢太が空港で待っていた。結衣は連れておらず、花も用意していない。ただ、1枚の結婚式の企画書を差し出した。「ブライズメイドはいない。藤城家からの要求も一切ない。場所も時間も、全部お前が決めていい」私は受け取らなかった。「賢太、まだ分からないの?この結婚式に足りなかったのは照明や花じゃないわ。花嫁がもう、あなたと結婚したくないと思っていること」彼の目が赤くなる。「結衣に関する物は、すべて処分した。連絡先も削除した。これからは、お前だけのそばにいる」「昔の私は、確かにそれを欲しがっていたわ。でも今は違うよ。もう必要ないもの」ふたりの兄は少し離れた場所に立っていた。真斗は修復された母のアルバムを手にし、大輔は三重野家の鍵を持ってきている。「部屋は元に戻した。研究室も改装し直した」真斗がアルバムを差し出す。「母さんのもの、全部ここにある」私はアルバムを開いた。傷んでいた写真は修復されている。あの家族写真の中で、ふたりの兄が私の隣に立ち、明るく笑っていた。だが写真は直せても、関係は直せない。私はアルバムだけを受け取り、鍵は受け取らなかった。大輔が小さな声で言う。「株式も、不動産も基金も、もうすべて返した」「返したんじゃないよ」私は訂正した。「もともと私のものだし」「そうだな」彼は苦しげに頷いた。「もともと、お前のものだった」賢太が私の前に立ち塞がる。「どんな罰でも受ける。完全に見捨
Mehr lesen
ZURÜCK
123
CODE SCANNEN, UM IN DER APP ZU LESEN
DMCA.com Protection Status