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第11話 セレスの訪問

南の集積場から届いた修理記録には、番号を削られた荷車の持ち主が書かれていた。王領へ荷車を貸し出す商人の一人で、修理を受けたのは昨冬の終わり。ヴィンは使用履歴を別の帳簿で探し始めたが、私はそこまで一緒に見られなかった。昼前、ダリオが記録室へ来て、セレス・マーロウが私との面会を求めていると告げたからだ。「ガレスの婚約者の?」 分かっているのに、そう聞いてしまった。ダリオは頷き、王に先に伝えてあると言う。「お断りになっても構いません。先方は、王城へ来た用件はほかにもあるそうです」 断ればその日の仕事には戻れる。けれど、セレスがわざわざ私を指名した理由は知っておきたかった。祝祭の演壇で彼女を見たのはほんの短い間で、私たちはほとんど話していない。「会います。ここではなく、面会用の部屋でお願いします。帳簿を広げているところへ来られても困るので」 ダリオは「そのように手配します」と答えた。私は開いていた書類をヴィンに預け、自分の部屋で手を洗った。鏡に映った顔は、あの夜より痩せたようにも見える。髪を結い直しかけて、やめた。セレスと会うために整えたいのか、比べられるのが嫌なのか、自分でも分からなかったからだ。 面会室へ入ると、セレスは窓際に立っていた。淡い青の衣を着ていた式典とは違い、今日は旅用の濃い緑の上着を羽織っている。机には外した手袋が揃えて置かれ、彼女は私が来るまで椅子に座らなかったらしい。「来てくださってありがとう」 セレスが先に言った。親しげな声ではないが、礼儀を崩してもいない。「用件を聞かせてください」「立ったまま話すには長いわ。座っても?」 私が頷くと、彼女は机を挟んで向かいに座った。廊下側の扉は少し開き、離れたところに城の者が控えている。私たちの言葉までは聞こえないだろうが、二人きりでもなかった。 セレスは手袋の端を揃え直してから、私を見た。「あなたが王領の調査に協力していると聞いています。北倉へ届かなかった荷については、私の父の群れにも問い合わせが来ました。王城へ寄ったのはその返答のためです」「私に話したいのは、荷のことですか」「それだけなら、正式な書類を出せば済みます
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第12話 もう一人の署名

セレスが帰ったあとも、私は彼女の最後の言葉を何度か思い返した。ガレスが彼女にも、先に署名だけしてほしいと言ったこと。セレスは断り、自分で書類を読むと決めた。その先に何が書かれていたかを、私はまだ知らない。 聞きに行きたい気持ちはあったが、彼女が今どこで誰と話しているかも分からなかった。私は記録室へ戻り、ヴィンが見つけた荷車の修理記録を開いた。番号を削られた三台目は、昨冬の終わりにクレイン商会が修理に出している。商会が車を貸した相手まで分かれば、南の道で見つかった理由に近づけるかもしれない。「こちらが商会から出された車の貸出簿です」 ヴィンは別の冊子を机へ置いた。クレイン商会から写しを取り寄せていたらしい。荷車の番号が削られていても、車軸を修理した日付から貸出簿の候補を絞れる。ただ、同じ時期に修理された車がほかにもあり、今ある記録だけで一台に決めることはできなかった。「冬の荷にも、この商会の車を使ったことはありますか」 私が尋ねると、ヴィンは冊子の前半をめくった。「北倉への輸送に何度か出ています。冬道を知る御者がいるので、うちでも頼んでいたそうです」 昨冬。北倉。私は鞄に入れた古い帳簿を取り出し、王が見つけた未着の荷の頁を開いた。これまで見比べていたのは日付と荷の量、北倉の受領印だ。頁の下端には、私が書いた輸送係の名もあるはずだった。 紙を押さえていた指をずらすと、薄いインクで記した文字が見えた。『輸送係 オーウェン・ベル』 その横に、短い署名があった。荷を積んだ場所で本人に書いてもらったものだ。私の字とは違い、最後の線が強く跳ねている。「この人を知っていますか」 ヴィンは名を読んでから首を傾げた。「北倉で働いている名簿にはありません。運送を引き受けた側の人でしょう。商会の貸出簿なら、御者の欄に載っているかもしれません」 私たちは二人で頁を探した。何台も同じ道へ出る冬の記録から、オーウェンの名はすぐに見つかった。私の帳簿に記された出発の日と一致する。ただし車の番号は、南の道で発見された三台目のものだとは確かめられない。修理記録にある車の番号が、今は削られているからだ。「同じ車だったかど
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第13話 森の家族

クレイン商会から、オーウェン・ベルの家族の住所が届いた。手紙には、家族が面会に応じるかどうかまでは分からないと添えてある。ダリオは先に使者を出す案を示したが、私は住所だけを持って訪ねたいと頼んだ。王の印がついた文書を先に届ければ、断りにくくなると思ったからだ。「私一人で行かせてほしい、と言われる前にお答えします。護衛は同行させます」 ダリオが言うので、私は先回りされたことを認めた。「家の前までは一緒で構いません。ただ、話すかどうかはご家族に選んでもらいたいんです」「そのようにします。途中で引き返すことになっても、私は文句を言いませんよ」 翌朝、私たちは馬車で森の東側へ向かった。オーウェンの家は、運送に使う街道から少し外れたところにある。道の左右には背の高い木が続き、ところどころ積まれた薪から、湿った樹皮の匂いがした。冬にこのあたりを通るなら、雪が降る前に帰りたくなるだろう。昨冬の彼も、そう思って荷車に乗ったのかもしれない。 家が見える手前で馬車を止めてもらった。ダリオは護衛とともに道に残り、私の姿が見える距離を保つ。私は古い帳簿を鞄に入れ、庭先へ続く小道を歩いた。 低い木柵の向こうで、女の子が薪を並べていた。私を見ると手を止め、家の扉へ向かって誰かを呼ぶ。出てきた女性は私と同じくらいの背丈で、袖を肘までまくっている。娘の前に立ったまま、木柵越しに用件を聞いた。「オーウェン・ベルさんのことを、お尋ねしたくて来ました。私はリヴィア・フェンといいます。昨冬、彼が北倉へ運ぶ荷を送り出したとき、帳簿をつけていました」 女性はすぐに木柵を開けなかった。「いまさら荷の弁償を求めに来たんですか」「いいえ。荷と、オーウェンさんがその後どこへ行ったのかを調べています。お話ししたくなければ帰ります」 彼女は私の背後の道を見た。馬車が止まっているのは見えるだろう。「あの人たちは?」「灰冠城のダリオさんと護衛です。私がここへ来るのを手伝ってくれました。でも、あなたに話を強いるためではありません」「王城の人間が訪ねてきて、気にするなというほうが難しいわ」 そのとおりだと思った。私は木柵から一歩離れる
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第14話 王が残した嘘

アデルから預かった通知の写しを机に置き、私はその日付をもう一度確かめた。昨冬、オーウェンが戻らなくなってから十日後に、荷の損失が処理されている。私が署名したのは、保存食と医薬品の数を帳簿から引くための確認欄だった。行方の分からない輸送係については、短い添え書きしかない。 私はその添え書きを見ながら、王城側では同じころ、何を記録したのか気になった。エイドリアン王は雪の中で荷車の残骸を見たという。その後、オーウェンを捜す話が出なかったのだろうか。 ヴィンに相談すると、彼は北倉の報告書を三冊持ってきた。雪で道が塞がれた日、荷が失われたと知らされた日、王が現地を訪ねた日の記録がそれぞれ残っている。私は日付と人の名を書き出し、報告の途切れるところを探した。「この先がありません」 現地確認の翌日の頁を示すと、ヴィンは帳簿を引き寄せた。「陛下の巡回記録なら、別に残っています。ただ、その翌日は満月だったはずです」 私は顔を上げた。王が夜の出来事を記録する帳面がある。前回と前々回の満月に使ったものを見せてもらったとき、棚には古い帳面が何冊も並んでいた。「そのころの記録を読むには、許可が要りますよね」「陛下に伺いましょう。私が勝手に出せるものではありません」 ヴィンと王の執務室へ行くと、エイドリアン王は私の話を聞き、冬の帳面を棚から出した。満月の夜の記録には、私生活に関わることも書かれているかもしれない。王は必要な頁を自分で開き、私とヴィンに読む範囲を示した。「この夜は、北倉からの使いが来ている。俺も翌朝、この帳面で知った」 記録を書いたのは、当時の担当書記だった。北倉で見つかった荷車の残骸、雪に埋もれた空箱、輸送係の不在。使いから聞いた内容が時刻とともに並ぶ。王が捜索を続けるよう言ったことも書かれていた。「オーウェンを捜すよう、命じていたんですね」「そう記録されている。だが実際には見つからず、その後の報告は荷の損失を認めるものになった」 王は次の頁へ手をかけた。そこには夜明け前、北倉の警備兵が再び訪ねたと記されている。名前はエリアス。兵は輸送係が逃げたという話に疑問を持ち、荷車のあった場所をもう一度調べてほしいと
last updateآخر تحديث : 2026-10-13
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第15話 信じるという仕事

警備室でエリアスの名を尋ねると、ダリオは北倉の古い勤務簿を開いた。昨冬に休職したあと、兵へは戻っていない。今は城から半日ほどの町で、革具の修理を手伝っているという。「こちらから事情を伝えて、会ってもらえるか聞きます」とダリオが言った。「陛下がいきなり訪ねれば、断りたくても断れません」 私は頷いた。王はエリアスを傷つけたという記録を、長いあいだ信じてきた。私たちは追記の筆跡を疑っているが、エリアス自身の話を聞いていない。その状態で王に「あなたはやっていない」と言うのは、私にはできなかった。 ダリオからの手紙に、エリアスは翌朝返事を寄こした。王本人と話すことを望む。ただし、リヴィア・フェンも同席してほしい、とある。「私の名前を知っているんですか」「冬の荷の帳簿を調べていると伝えました」とダリオが答えた。「エリアスも、荷を送り出した群れの記録係が来るなら話したいそうです」 王は返事を読み、自分の腕で馬を操れるようになったから騎乗で行くと言った。ダリオが医師の名を出す前に、私は「馬車で一緒に行きましょう」と勧めた。王は私を見て、今度は争わず頷いた。 道中、彼は冬の記録の写しを膝に載せていた。昨日から何度も読んでいるはずだ。追記の筆跡が本人のものに見えないと分かっても、書かれた出来事まで嘘だとはまだ決められない。そのことが王を悩ませている。「もしエリアスが、俺に腕を折られたと言ったら」 馬車が町へ近づいたころ、王が口を開いた。「私は、彼の話を聞きます」「お前には、俺を信じたい理由もあるだろう」「あります。だから一緒に来たんです。でも、彼が何をされたか決めるのは、私でもあの帳面でもありません」 王は写しを畳んだ。怒った様子はなかったが、続く言葉を探しているように見えた。「お前に、そんな返事をさせたかったわけではない」「分かっています。陛下は、万一のとき私が困ると思ったんでしょう。私はエリアスさんが話す前から、傷ついたのは誰かと考えています。会ってから答えを決めましょう」 王は「そうだな」と言い、窓の外へ顔を向けた。町の家々が見えてくる。石畳の端には、荷車から落ちた藁が風に寄せられてい
last updateآخر تحديث : 2026-10-14
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第16話 彼女がいない朝

配給所の戸を開けたガレスは、最初に人の声ではなく、床を引きずる木箱の音を聞いた。奥ではイーダが薬の箱を数え直している。机には保存食の出庫票が積まれ、まだ朝の配給が始まっていないのに、窓口の外には十人ほどが並んでいた。「足りないのか」 ガレスが声をかけると、イーダは箱の蓋を閉めた。祝祭以来、彼女は仕事に必要なことしかガレスに話さない。今日も棚から帳簿を取り出し、印をつけた頁を開いた。「薬は今日の分があります。ただ、来週の分として頼んだ箱が、まだ来ていません。保存食は今朝、配る量を減らさないと週末までもたないです」「南から荷が来る予定だろう」「予定はそうです。でも、いつ着くかを確かめてもらえませんでした。先週から三度、長の執務室に伝えています」 ガレスは帳簿に目を落とした。イーダの字で日付と残数が並んでいる。その横に細かく書き込まれた古い注意書きは、リヴィアの字だった。小さな子どものいる家、狩りで負傷した者、ほかの村から一時的に身を寄せている家族。彼女は決まった量を配るだけでなく、誰がいつ受け取れなかったかまで記していた。「この欄は、必ず埋めなければならないのか」「埋めないと、来なかった家の分が余ったのか、取り置きが必要なのか分からなくなります。リヴィアがいたときは、受け取らなかった人のところへ、その日のうちに誰かが様子を見に行っていました」 イーダは箱を棚へ戻した。ガレスには、嫌味を言われたようにも聞こえた。ただ、今朝ここに並ぶ人々を前に、言い返す言葉が見つからない。「南には俺から催促する。今ある分は、夕方までに代わりを手配するから、朝はいつもどおり配ってくれ」「夕方までに届く見込みがあるなら、そうします。約束だけなら、今ある量に合わせて配ります」「俺が手配すると言っている」「だから、届く見込みを聞いているんです。昼に薬を使ったら、夕方届く予定の箱を開けることはできません」 外で待つ女が、窓口を覗いた。イーダは彼女に、もう少しで始めると告げる。ガレスは何も言わず、出庫票を一枚取った。南の集積場へ送った注文書に、確かに自分の承認印がある。だが、そのあと誰が到着日を確認することになっていたか、思い出せ
last updateآخر تحديث : 2026-10-15
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第17話 生きていた輸送係

診療所からの返事には、名前が書かれていなかった。『お尋ねの冬の輸送について、話をしたいという者がおります。本人の希望により、会うまでは所在を公にしないでください』 それだけでも、便箋を持つ私の指は落ち着かなかった。エリアスの話を聞いたあと、私たちは輸送路沿いの宿と診療所に、オーウェン・ベルの人相と荷馬車の事故の記録を尋ねていた。返事の大半は「心当たりなし」だったから、この一通にも期待しすぎまいと決めていたのに、出発の支度をするあいだ、私は何度もアデルの顔を思い出した。 国境の診療所は、川沿いの粉挽き小屋を改めた建物だった。戸口には乾いた薬草が吊られ、奥から石臼ではなく、湯を沸かす鍋の音が聞こえる。エイドリアンは護衛を外に残し、私とダリオだけを伴って中へ入った。 迎えた年配の医師は、王の顔を見ても腰を折らなかった。「先に断っておきますが、ここで暮らす人間を、診察台から引きずり下ろすような真似はさせません。あの人は手紙の内容を読み、自分で会うと言いました」「それでいい」 エイドリアンが答えると、医師はようやく廊下の先を示した。診療所の保護を頼っている人なら、王が来たこと自体、脅しに見えるかもしれない。私は部屋へ向かう前に、そのことをエイドリアンに小声で伝えた。「まず、私から話してもいいでしょうか。帳簿で名前を見つけたのは私ですし、彼の奥さんにも会いました」「わかった。私はここで待つ。彼が望まなければ入らない」 飾り気のない返事だった。私は安心した半面、自分だけが先にアデルの夫と会うことに、奇妙な後ろめたさも覚えた。 小部屋には窓が一つあり、洗った布が日の当たるところに掛けられていた。机の前に立つ男は私より少し年上に見え、左脚をかばっていた。衣服は清潔だが、袖口は何度も繕われている。名乗る前に、彼は私の手にある古い帳簿へ目を留めた。「まだ、あれが残っていたんですね」「オーウェン・ベルさんですか」「ええ。先に聞かせてください。妻と娘は生きていますか」 問いに勢いはなく、そのぶん、答えを待つ間の長さが痛かった。「お二人とも生きています。アデルさんには先日お会いしました。娘さんも一緒
last updateآخر تحديث : 2026-10-16
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第18話 同じ月を見上げて

城へ戻った翌朝、ヴィンが南の街道図を机いっぱいに広げた。紙の端を文鎮で押さえても、長く巻かれていた癖が抜けず、精錬路のあたりが丸まって見えなくなる。私が帳簿を重しにすると、ヴィンはようやく道を指で追えるようになった。「オーウェンさんが言った窯は、ここでしょう。古い精錬路は冬でも通れますが、荷を積んだ馬車には狭い。三台とも向かったなら、途中で車を替えたはずです」「三台目は車輪の番号が削られていたわ。替えた車かもしれないし、あとで別の場所を走っただけかもしれない。今ある記録だけでは、つなげられないわね」「そう言われると思って、修繕代の控えも持ってきました」 ヴィンは得意そうに薄い綴りを差し出した。昨年の冬、精錬路沿いの橋は雪で欄干を傷め、春先に補修されている。通れなかった証拠にはならないが、道幅や車輪の跡が残った場所を探す手がかりにはなる。私が礼を言うと、彼は「褒めるのは帰ってきてからにしてください」と答えた。「ダリオさんはアデルさんの家へ行っています。返事が届くまでは、こちらも動きすぎないほうがいいでしょう。守る相手がいる捜査って、帳簿を読むより気を使いますね」 以前の私なら、そこまで考えただろうか。損失の数字は追ったのに、戻らなかった御者の名前を追わなかった。その後悔に足を止められたくはないが、忘れて仕事を手早く済ませた気にもなれなかった。 昼を過ぎてダリオが戻り、私はヴィンと一緒に報告を聞いた。アデルの家の周囲に不審な人影はなく、兵は離れた二か所に配置したという。オーウェンの手紙は、ダリオが直接渡した。「奥方は、最初の一行を読んだところで座り込みました。しばらくして全部読み終えると、泣くのをやめて、あいつは脚をどうしたのかと私に聞いた。事情を話したら、今度は怒りだしたよ」「何に?」「本人が生きていてよかったことと、知らせを寄越さなかったことは別だ、と。ずいぶん正確な言い分だった。あの場では、私も余計な口を挟めなかった」 ダリオは大きな手で封書を一通、机へ置いた。アデルからの返事だった。オーウェンに直接渡してほしいと書かれた宛名の下に、私たちへの短い伝言が添えてある。娘を伴って会うつもりだが、家の安全と道中の護衛を自分でも確かめた
last updateآخر تحديث : 2026-10-17
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第19話 銀の出どころ

南の古い精錬路へ入る前に、私たちは橋のたもとで馬を降りた。ヴィンが見つけた修繕費の控えには、春に架け直した欄干の長さまで記されている。実際に見ると、片側の木だけ色が新しく、橋板には荷馬車の車輪が通る二本の筋が深く残っていた。 ダリオが三台目の馬車から採った灰色の粉を、小さな紙包みごと職人に見せる。橋の補修を請け負った男は、指につけて匂いを確かめたあと、顔をしかめた。「窯の灰ですね。ここから先へ運ぶなら、春は馬車を軽くしないと橋がもちません。冬は欄干を壊したまま通したやつがいて、その修繕を私らがやったんです。誰の馬車かまでは見ていませんが」 橋を通ったのがオーウェンの荷だとは、まだ言えない。私は修繕の日付と職人の名を書き留めた。ダリオが橋板の筋を調べているあいだ、エイドリアンは川上に続く道を見ていた。「窯まで馬で行けるか」「行けます。ただ、あそこには今も人がいますよ。古い窯を使って細々と仕事をしている連中です。勝手に押し入れば、見せてくれるものも隠すでしょう」 職人の忠告を受け、私たちは護衛を橋に残して三人で向かった。窯の入口には割れた鉢と石炭袋が積まれ、炉からは細い煙が上がっている。すでに誰もいない場所を想像していた私は、仕事中の人たちを見て少し恥ずかしくなった。ここには、昨日までの暮らしがある。 責任者だという女は、王の名を聞いても帳面を胸に抱えたままだった。「うちは税を納めています。王様が来たからといって、釜の中身を全部ひっくり返されたら明日の仕事が止まります」「必要なものだけ見せてほしい。仕事の損失が出たら記録して払う」とエイドリアンが答える。「後で払うと言われて、後で払ってもらえた経験があまりないんですよ」 女はすぐに引かなかった。私は橋で採った粉の包みを出し、炉そのものより、昨冬にここへ来た荷と粉の由来を知りたいのだと説明した。彼女は私の帳簿とエイドリアンの顔を見比べ、窯の裏にある棚だけを案内すると決めた。「荷主の名前を知りたいなら、うちの控えを読んでください。ただし持って帰らないで。前に役人に原本を持っていかれて、返してもらうまで仕入れを二重に払いました」 彼女の警戒には理由があった。私たちはそ
last updateآخر تحديث : 2026-10-18
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第20話 王城に欲しかった席

窯を借りた男の署名は、朝の光に透かしても読み取れなかった。筆の終わりだけが紙に深く食い込み、前半は急いで書き流したように潰れている。私は昨夜から何度も眺めていたが、読めるはずだと思い込むほど、知っている名前に見えてしまう。「ここで名前を決めるのはやめましょう」 私が帳面を閉じると、ヴィンはうなずいた。彼も同じ署名を別の紙に何通りか写していたが、どれにも自信がないらしい。「代金の受け取り先から追えます。現金払いでも、窯を借りる前に誰が道を通したかは残るはずです。国境の荷を王城へ入れる許可を調べてみます」 通行の控えを探しに行ったヴィンの背中を見送り、私は窯から預かった銀板と、三台目の馬車で採った粉についての記録を並べ直した。どちらも行き先を証明するには足りない。だからこそ、書類を一枚見つけるたびに犯人の名前を先回りして書きたくなる気持ちを、抑えなければならなかった。 昼前、ヴィンが戻ってきた。抱えていたのは通行記録ではなく、厚い人事簿だった。「クレイン商会の名義で、昨冬に王城北倉への荷の搬入申請が出ています。その控えを探していたら、王廷の補給官を選ぶための書類にも同じ申請番号があったんです。荷の申請を、職を求める際の実績として使っています」「誰が?」 ヴィンは私を見て、答える前に簿冊を机へ置いた。「ガレス・ロウです」 知っている名前なのに、耳に入った途端、しばらく意味を結ばなかった。ガレスが地位を欲しがっていたのは昔から知っている。領内の役職では満足せず、王城で仕事をしたいとも言っていた。私が驚いたのは、その願いが窯の荷と同じ書類に現れたことより、いつの間にか私は、彼の望みを深く考えるのをやめていたからかもしれない。 人事簿には、北倉の補給監督補佐を求める申請が綴じられていた。冬の荷が行方不明になる前に、ガレス自身が署名している。添付された事業計画では、自分の群れとクレイン商会が冬道の輸送を整え、王城の補給費を減らせると訴えていた。荷の搬入実績が認められれば、補佐の選考を進めてほしいともある。 そして、その後ろに挟まれた写しに、私の署名があった。『王城北倉向け物資の搬出命令を確認し、記載の荷を引き渡す』
last updateآخر تحديث : 2026-10-19
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