アデルが選んだ馬車は、王城から用意したものではなかった。御者を知っている近所の女に頼み、護衛の兵には川沿いの分かれ道で合流してもらう。人数は二人、制服ではなく旅装で、家の前には来ない。それが彼女から届いた返事だった。 ダリオは手紙を読み終えると、「こちらが考えていたより、よほど行き届いている」と言った。私は同感だったが、少しだけ胸が痛んだ。夫が帰らないあいだ、アデルは娘を連れてどこへ行くにも、誰が見ているかを確かめていたのだろう。 診療所の医師からは、娘を会わせることに支障はないが、オーウェンの脚は長く立っていられないので、最初は座って話してほしいと返事が来た。私はそれをアデルに伝え、同席を望むなら部屋に残るし、家族だけで話したければ外へ出ると書いた。彼女の返事は短かった。『最初だけ、いてください。顔を見た途端、私が何を言うかわからないので』 国境の診療所に着くと、アデルは先に来ていた。娘は彼女の外套の裾をつかみ、廊下の窓に並ぶ薬草の鉢を眺めている。アデルは私に気づくと、挨拶より先に夫の様子を尋ねた。「脚は、家まで歩けるくらいには治っているんですか」「短い距離なら歩けます。でも、医師は無理をさせないでほしいと言っていました」「帰ってこいと言うつもりで来たわけじゃありません」 少しきつい声になったのを気にしたのか、アデルは娘の髪を撫でた。私は言葉を急がず、診療所の中庭を使って娘が先に休めること、会いたくなくなったら途中で部屋を出られることだけ伝えた。「この子には、父親が生きていたと話しました。会いたいかとも聞きました。最初は黙っていたけれど、昨日、自分で行くと言ったんです」 娘は窓からこちらへ顔を向け、母親の外套を離した。「お父さん、私のこと覚えてる?」 答えを知っているふりはできなかった。「あなたのことを、最初に尋ねていました。会ったときの顔は、私よりお父さんに聞いてみて」 娘は小さくうなずいた。アデルは私に礼を言わず、かといって怒りもしなかった。ただ娘の手を取り、奥の扉へ向かった。 オーウェンは椅子に座って待っていた。膝には、青い紐のついた革の小銭入れが置かれている。戸が開くと立と
آخر تحديث : 2026-10-20 اقرأ المزيد