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私を狂人に仕立てた夫へ――今度はあなたが壊れる番です
私を狂人に仕立てた夫へ――今度はあなたが壊れる番です
Auteur: 6jay

1話. 幻覚剤入りのジュースと民間救急車

Auteur: 6jay
last update Date de publication: 2026-10-05 22:56:50

クリスタルのグラスの中で、氷がからんと鳴った。その向こうで、夫の相沢修司がわずかに口の端をつり上げた。

「美月、ずいぶんやつれたな。ご両親が遺した10億円規模の財産、もうすぐ名義の整理だろ。最近、気を張ってばかりだったもんな。好きなザクロのビタミンジュース、冷たくしておいたよ。これ、ちゃんと全部飲んで。今日こそゆっくり寝てくれ」

夫が差し出した、濃い紫色の飲み物。

見た目は、毎朝食卓に置かれていた甘いフルーツジュースと変わらない。それなのに、表面に細かく浮かぶ灰色がかった泡と、鼻先をかすめる苦い鉄のような臭いが、妙に引っかかった。

「……何、この味。いつもよりずっと苦いし、変な臭いもするんだけど」

「気のせいだよ。オーガニックの濃縮液を、いつもより濃くしただけ。残さないで、さっさと飲んじゃいな」

修司の目に、一瞬だけ焦りと粘りつくような欲がよぎった。

その薄気味悪い視線に気づいた瞬間、私はとっさにグラスを唇へ運ぶふりをして、テーブル脇にある大きな観葉植物の鉢へ、半分以上をそっと流した。

けれど、唇を濡らし、喉の奥へ落ちたたったひと口だけで、世界が激しく揺れ始めた。

どくん、どくん、どくん――。

心臓が肋骨を突き破りそうな勢いで暴れだす。頭の中の神経が、一本残らず白く焼け切れていくようだった。

リビングの壁紙も大理石の床も、不気味にねじれ、黒い沼となって私をのみ込んだ。手足から力が抜け、指先から冷たいしびれが広がっていく。息を吸うたび、肺の奥に焼けるような痛みが走った。

「しゅ、修司……これ……いったい、何の薬を入れたの……?」

床に倒れ込んだ私の耳に、寝室のドアが開く音が届いた。

むっとするほどのマグノリアの香水とともに、白いシルクのスリップドレスを着た女が、ヒールを鳴らして現れる。

篠原玲奈。

修司が大学時代から忘れられず、ずっと想い続けてきたという初恋の相手。そして、今は不倫相手だった。

「まあ、修司さん。すごい効き目ね。やっぱり製薬会社に勤めてると、こんなお薬を持ち出すのも簡単なんだ?」

玲奈は媚びるように笑い、修司の首に腕を絡めた。

修司は床で息をあえがせる私を、汚い虫でも見るように見下ろしながら、玲奈の腰を乱暴に引き寄せた。

「あと1週間の辛抱だ。あいつの親が遺した、港区のビルを含む10億円規模の資産。俺が成年後見人にさえなれば、まず金の流れを押さえられる。そのあと委任状も使えば終わりだ。手始めに、麻布台のペントハウスを見に行こう」

「修司……玲奈……あなたたち……どうして、私に……こんな……」

言葉も続かず、血を吐くようにあえぐ私の顎を、修司が冷たい靴のつま先で蹴った。鈍い衝撃が顎先に走り、唇の内側が切れた。

「相沢美月。お前は今日から、重度の統合失調症の患者だ。親を亡くしたショックで包丁を握って、夫を刺そうとした危険な狂人。私立の精神科病院の閉鎖病棟にぶち込まれて、一生、大量の鎮静剤を打たれながら腐ってろ」

ガチャッ。

ドアロックが外れる荒い音とともに玄関が開き、屈強な民間救急の搬送員が3人、なだれ込んできた。

男たちは容赦なく私の両腕を背中へねじり上げ、分厚い革の拘束ベルトを締めた。

冷たいストレッチャーに縛りつけられ、エレベーターへ運ばれていく間も、玄関の奥から修司と玲奈の笑い声が聞こえた。まだ私に聞こえていることさえ、気にもしていない笑い方だった。

けれど、あの2人は肝心なことを知らない。

私は薬を全部は飲まずに持ちこたえたこと。

そして、下着の裏地の奥に、特殊な暗号化チップを内蔵した超小型スマートウォッチを隠していることを。

闇の中に遠ざかっていく家を見つめ、薄れていく意識の中で、私は歯を食いしばった。

必ず、生きてここから出る。

今日したことを、あなたたちがその口で否定できないようにしてやる。

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