結婚式まで、あと三日。その朝、僕は急きょ軽井沢へ向かうことになった。同僚が熱を出し、ホテルの植栽検査を代わりに担当することになったのだ。僕の勤める景観設計会社は、水城グループが軽井沢に開業する新ホテルの外構・植栽設計を担当している。そのホテルでは、婚約者の水城玲奈がブランド企画を担当していた。玲奈は一週間前から現地にいる。プロモーション映像の撮影が長引いているらしく、昨夜届いたLINEも短かった。『今日も遅くなる。先に寝てて』玲奈と付き合って、七年。激しい喧嘩をするような恋人同士ではなかった。少なくとも、互いを尊重し合えていると思っていた。派手さはなくても、この穏やかな日々が結婚後も続くと信じていた。新幹線の中で、玲奈にメッセージを打った。『今からそっちへ行くことになった』けれど、送信する直前で消した。撮影中に気を遣わせる必要はない。検査を終えたら、そのまま東京へ戻ればいい。そう思っていた。西棟の確認を終え、チャペル脇の庭へ回ったとき、ガラス扉の向こうから拍手が聞こえた。白いドレスを着た玲奈の向かいに、黒いタキシード姿の男が立っている。神谷蒼真。玲奈の初恋の相手で、今回のプロモーション映像を手がけるディレクターだ。チャペルには、参列者が十数人いた。最初は、ホテルのプロモーション映像を撮っているのだと思った。ふたりが新郎新婦を演じているのも、撮影の演出にすぎない。そう自分に言い聞かせた。けれど、チャペルの隅に置かれたカメラは、一台も回っていなかった。最前列では、玲奈の母親がハンカチで目元を押さえている。その姿を見た瞬間、胸の奥がすっと冷えた。司式者が、ふたりに問いかける。「新郎・神谷蒼真さん、新婦・水城玲奈さん。おふたりは、これから先、互いを大切にし、ともに歩んでいくことを誓いますか」「誓います」蒼真は迷わなかった。続いて、玲奈の番になる。三日後、僕と結婚するはずの人。七年間、隣にいた人。玲奈は目を潤ませ、幸せそうに笑った。「はい。誓います」拍手が起こり、ふたりは指輪を交換した。蒼真が玲奈の頬に触れる。玲奈はゆっくり目を閉じた。気づけば、右手を強く握りしめていた。これは……撮影のための芝居なんかじゃない。爪が手のひらに食い込み、握りしめた拳には血管が浮いていた。それでも、声を上げるこ
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