雨はいつまでも止まなかった。映画館は新しく開発された街の中心部からかなり離れたエリアにあり、さらには、公共交通機関もあまりないため、配車アプリを開いても、順番待ちはかなりの人数がいた。以前の私なら、きっとすぐに朔へ電話していただろう。そして、一度出なければもう一度かけ、それでもつながらなければ、きっと運転中なのだと自分に言い聞かせていたはずだ。でも、その日は何もしなかった。終電に乗って2回乗り換え、電車が通っていない駅から家までの最後の区間は、コンビニで買ったビニール傘をさして20分歩いた。祖母の家に着く頃には、ズボンの裾までびしょ濡れになっていた。祖母はまだ起きていて、私が鍵を開ける音を聞くと、老眼鏡をかけたまま寝室から顔を出す。「綾菜ちゃん?こんな時間にどうしたの?」靴を脱ぎかけた手が止まる。「おばあちゃんに会いたくなっちゃって」祖母は嬉しそうに笑った。「まあ、口がうまいんだから」祖母はそのまま台所へ向かった。私は玄関にしゃがみ込み、濡れた靴を見つめているうちに、なぜか泣きそうになった。朔と付き合って4年。この4年間、私は彼を待つことにすっかり慣れていた。仕事が終わるのを、会議が終わるのを、図面の修正が済むのを、出張から帰ってくるのを……そして、寧々と一緒に現場を見終わるのも、何度もかかってくる「大事な電話」が終わるのも、いつだって待っていた。私がもう少し我慢すれば、彼もきっと時間を作ってくれる。ずっとそう思っていたから。すると、朔からメッセージが届いた。【家に着いたか?】その30分後、もう一通。【寧々、急性胃炎だった。今、点滴を受けてる】私は返信しなかった。すると、ほどなくして3通目が届いた。【明日の朝、仕事に行く時にさ、お前の店の塩ベーグルを二つ作ってくれないか?寧々、しばらく脂っこいものは食べられないらしいから】画面をしばらく見つめてから、私はふっと笑ってしまった。彼はようやく、私の仕事を思い出したらしい。私はパティシエだ。正確に言うと、ショッピングモールにあるチェーンのベーカリーで働くケーキ職人で、普段はデコレーションやスイーツ作りを担当している。朔や寧々の周りにいる建築家やデザイナーの友人たちから見れば、私の仕事はたいしたスキルもいらないものなの
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