初雪の気配が、辺境の鋭い風に混じり始めた朝。本邸の家政管理室で、アリシアはハインツと向かい合い、本格的な冬に向けた計画を練っていた。 冬の辺境は、王都のそれとは比べ物にならないほど厳しい寒さに包まれるという。薪のまとめ買いは先週のうちに無事契約を終え、今は屋敷の中庭に新設した保管所で乾燥を進めている最中だ。残る課題は、食料の備蓄と、屋敷全体の暖房効率の見直しだった。 「特に、子どもたちが暮らす使用人棟の二階ですが、窓の隙間からの風が強くなっています」 アリシアが懸念を口にすると、ハインツは手元の書類に目を落としながら頷いた。 「来週、大工を呼びましょう。隙間を埋める修繕を急がせます」 「それまでの間は、簡易の防寒策を取らせていただきます。分厚いカーテンの代わりに古い毛布を吊るし、窓枠の隙間には布をきつく詰めておきます。暖炉の位置も、少しベッドから離した方が安全です」 実務的で素早い対応。ハインツは「助かります」と短く答え、次の議題へと移った。 * * * その日の午前、ハインツが手配した最初の先生役が屋敷を訪れた。辺境の小さな村で元神官をしており、現在は隠居しているという老人、ヨアヒムだった。 痩せて小柄な体つきだが、白髪の下にある目はひどく優しく、穏やかだった。 「ハインツ殿に頼まれて、お引き受けいたしました。村の子どもたちには、昔よく文字を教えていたものでしてな」 家政管理室の隣にある小部屋で、エミルは緊張した面持ちでヨアヒムに向かい合っていた。 「よろしくお願いします、ヨアヒム先生」 エミルが深く頭を下げると、ヨアヒ
Huling Na-update : 2026-10-22 Magbasa pa