その瞬間、はっと目が合った。 栗色の大きな瞳が瞬きをしていた。 足をがくんとつまづかせバランスを崩す体が、スローモーション のようにゆっくりと流れている。 思わず駆け出す。 宙を舞い始めた体を目で追いながら、 階段を登る。 支えようと腕を伸ばすが、間に合うわけがない。 ただ一緒に落ちていくしかなかった。 驚くほど細い体に巻き込まれ、 縺れ合うように階下へと。 ふわりと羽根のような感触の女の子を 抱きかかえるように受け止める。 自分が下にいる体勢だがさほど重くはない。 柔らかくて心地よい体をきつく抱きしめる。 階段を滑り落ちたが互いに、幸い怪我などは無かったようだ。 その証拠に彼女は痛みに顔を歪めていない。 さすがに気を失っているようだが。「……?」 気がついたのか、彼女が腕の中で身じろぎを始めた。 状況がつかめていないのだろうか。 抱きしめる腕に力を込めた。 彼女は抱きかかえられた様な体勢で床に倒れている格好だ。 その瞬間、体を強張(こわば)らせるのが分かった。「ごめんなさい……」 申し訳なさそうに謝っている。「支えてもらってありがとうございます。 お怪我ありませんか」「ううっ」 僅かに呻いてみせる。 特に痛みなど無かったのだが。「……胸が痛い」 ちょうど心臓の部分に手を当てて言ってみる。 階下で見つけた瞬間、囚われていた。 澄んだ栗色の瞳と黒い艶髪。「う……本当にごめんなさい」 また申し訳なさそうな様子で謝る彼女。 そんなに謝らなくてもいいんじゃないか。 そろりと目を開けると、こちらへと頭を動かそうとしているのが分かった。 横目に飛び込んできたのは困り果てた表情。 見知らぬ相手に助けてもらった上に怪我をさせたかも しれないという不安に、瞳を潤ませている。 少し悪戯(いたずら)が過ぎたかな。 かすかな罪悪感が胸を覆うが、口の端に浮かぶ笑みは消せなかった。「君こそ大丈夫か? 」 妖しく微笑み、腕の中にいる彼女をぎゅっと抱いた。 温もりが伝わってくる。「ええもう大丈夫です」 無理矢理、俺の体を剥がし立ち上がろうとする 彼女を強く抱きとめる。「……え……っ」「送っていこうか? 」「……バスで帰りますから」 倒れこんだままの姿勢で、彼女は答える。「気にしなくていい
最終更新日 : 2026-10-25 続きを読む