法廷は、一瞬にして地獄絵図と化した。 吹き飛ばされた私の網膜へ焼きついたのは、現実とは思えないほど恐ろしく、そして残酷な光景だった。 原告席と被告席。 勝利を確信してふんぞり返っていた坂巻と、絶望の中でへたり込んでいた堂島。 二人が座っていた椅子の座面――その内部から、指向性を持った数千度のオレンジ色の業火が、臀部から頭上へ向かって一直線に噴き上がったのだ。 悲鳴を上げる時間すらなかった。 坂巻と堂島の身体は、太陽のような超高温の爆炎に一瞬で飲み込まれ、肉も、骨も、血液も、形を失うほど激しく焼き尽くされていった。 二人の座っていた場所には、真っ黒なすり鉢状のクレーターと化した椅子の残骸と、焦げたスーツの切れ端だけが残っていた。 坂巻も、堂島も。 つい数秒前まで、この法廷で互いを裁き、憎み合っていた二人の人間が、そこから消えていた。「あ……ああ……ッ」 私は床へ這いつくばったまま、目の前で起きた光景を理解できず、全身を震わせていた。 金属探知機も、X線検査も、何の意味もなかったのだ。(……すり替えられていたのか!) ようやく、恐るべき可能性が脳裏へ閃いた。 犯人が沈黙していた、この二ヶ月間。 それは逃亡でも、平和の訪れでもなかった。無能な警察が犯人の影すら踏めずに右往左往している間、犯人はただ悠然と準備を進めていたのだ。 この二ヶ月のどこかで、犯人は裁判所へ出入りする業者のシステムへハッキングを仕掛けるか、あるいは自ら清掃業者などに扮し、この法廷の『原告席』と『被告席』に置かれている椅子そのものを、爆発装置を内蔵した特注品へ物理的にすり替えていた。 椅子を丸ごとすり替えるのはリスクが高くとも、座面の布地を剥がしてクッションの中身のウレタンを抜き取り、薄型の爆薬を仕込むだけなら業者の手荷物で容易に偽装できる。 だからこそ、今日、爆弾を持ち込む必要などなかった。 犯人はただ、この第一回口頭弁論の開廷の瞬間、二人の人間が法廷という絶対安全圏を疑うことなく、自らの意思で『死の特等席』へ深く腰を下ろすのを、暗闇の中で静かに待ち続けていただけなのだ。 ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ! 突然、法廷内に設置されたスピーカーというスピーカーから、耳を劈くようなけたたましい警告音が一斉に鳴り響いた。 凄まじい熱波と黒煙が法廷内に充満
最終更新日 : 2026-10-28 続きを読む