彼の跡継ぎを連れ去って結婚して八年、私・藤崎詩織(ふじさき しおり)はマフィアの夫である神崎恭介(かんざき きょうすけ)と共に、祖父が遺してくれた数十億円の遺産を相続するはずだった。
しかし、弁護士が手続きを進める中で、衝撃の事実が発覚した。法的には、私たちの婚姻関係はすでに解消されていたのだ。その結果、数十億円の資産は、私一人が相続することになった。
【藤崎さん、システムの記録によりますと、あなたは一年前にすでに離婚されています。あなたの夫、神崎さんの現在の法律上の妻は……桜庭歩美(さくらば あゆみ)です。
あなたは現在、独身の状態です。
つまり、神崎さんには遺産相続の権利が一切ありません】
桜庭歩美。それは、恭介が長年想い続け、昔、海外へ渡った彼の初恋の人だ。
弁護士から送られてきたメッセージを見て、私はなかなか気持ちの整理がつかなかった。
恭介がこの数年間、私に注いでくれた愛情も優しさも、すべてが嘘だったなんて。
本来なら、結婚記念日に、彼に妊娠したことを告げる計画だった。それは、私たちが結婚して八年間、ずっと待ち望んできたことだったのに。
でも今となっては、彼がそこまで望んでいたとは思えない。
私はお腹を撫でながら、静かに思った。この双子の子たちには、たとえ父親がいなくても、問題ない、と。
この裏切りに満ちた場所から、私がすべきことはただ一つ。逃げることだ。