潮汐の瞳清水美羽(しみずみう)には、優しく深い愛情を注ぐ彼氏がいた。
毎日花を贈り、髪を結ぶ手助けも、999回もしてくれた。
三年間一緒過ごし、美羽は一度も同じ髪飾りを付けたことがない。
加藤悠斗(かとうゆうと)のプロポーズを受け入れた夜、彼は嬉しさのあまり酒を飲みすぎ、酔っ払って美羽を抱きしめながら「愛してる」を繰り返した。
周りの祝福と羨望の眼差しの中、美羽は氷のように冷たい気持ちでいた。
彼女は悠斗の完全な告白を聞き逃さなかったからだ。
「愛してる、花音」
彼女の姉、清水花音(しみずかのん)の名前だった。
美羽は踵を返した。「加藤悠斗、もう君を必要としない。汚らわしい」