帰る朝、恋う夜ゼロから会社を立ち上げた彼氏・深沢悠樹(ふかざわ ゆうき)が、やがて一流の実業家になった。
だが彼は公私混同を嫌い、会社の成功に私が半分貢献していても、私・白石琴音(しらいし ことね)の入社を認めようとはしなかった。
私の母・白石幸子(しらいし さちこ)が病気になり、手術費が急に必要になった時も、悠樹は一切首を縦に振らなかった。
「採用の話といい金の話といい、俺の立場を考えたことがあるか?示しがつかないだろう」
仕方なく彼に頼るのをやめた私は、家に残っている物を全て売り払い、なんとか手術費をかき集めた。
だが支払いの窓口で、看護師に制された。
「その腎臓はもう他の方に。もう少し待っていただくことになります」
頭が真っ白になった次の瞬間、悠樹が木村日向(きむら ひなた)を連れて手術室へ入っていくのが見えた。
私が必死に順番を待っていた腎臓を、彼は何でもないように彼の後輩に譲ってしまったのだ。
食い下がろうとした私に、悠樹は警察を呼んだ。
留置所に二十四時間拘留された私は、母の最期に間に合わなかった。
手術が成功した後、悠樹は街中に花火を上げてその女の回復を祝った。
私はひとり、霊安室で泣き崩れた。
彼の「公私混同しない」という信念は、揺るぎないものなどではなかった。
ただ、私には適用されなかっただけだ。