暁を失えど黄昏はまだ間に合う結婚式の一週間前、私は恋人が別の人と入籍したことを知らされた。
「詩帆、俺が莉奈と結婚するのは彼女の子の戸籍上の父親になってやるためだけなんだ。莉奈は身体が弱くて妊娠中絶したら命の危険があるから、こんな手しか取れなかった。
約束する。莉奈が無事に子供を産んだら、すぐに離婚して君と入籍するから」
私は微笑んで頷いた。「莉奈が妊娠中に恋人に捨てられたなら、あなたがそうするのは当然のことよ」
長谷川雅紀(はせがわ まさき)は呆気に取られていた。私がこれほど物分かりがいいとは思ってもみなかったようだ。
実のところ、雅紀がわざわざ私に許可を求める必要はなかった。三十分前にはもう桜井莉奈(さくらい りな)がSNSで雅紀との入籍を報告していたのだから。
そして私は二人の婚姻届の写真を見てから、実家に電話をかけた。
「お母さん、彼氏と別れたの。お見合い相手、探してくれる?」