永遠に、自由で風のように結婚三年記念日。私、前島知子(まえじま ともこ)は、夫・前島謙介(まえじま けんすけ)お気に入りのミシュランレストランで、五時間も待ちぼうけを食らっている。
なのに、肝心の謙介とはまた連絡が取れない。
結局、彼の幼馴染・玉木友枝(たまき ともえ)という女のSNS投稿で知った。
謙介が彼女に付き合って、氷原へ行ったことを。
【ちょっと落ち込んだだけで、彼は全世界との約束をすっぽかして、気晴らしに付き合ってくれた】
【幼馴染って、ペンギンより癒されるかも】
添付された写真には、凍えるような寒さの世界が広がる中、謙介が彼女をそっと抱き寄せる姿。
その瞳には、私に向けられたことのない熱が宿っている。
ふと疲れを覚える。もう苦しい詰問も、狂ったような泣きわめきもする気になれない。
ただ静かに「いいね」を押し、彼に一言だけ送る。
【離婚しましょ】
しばらくして、謙介からボイスメッセージが届く。
からかうような口調だ。
「いいぜ、帰ったらサインしてやる。
どっちが泣いて『行かないで』って引き留めるか、見ものだな」
愛されている側は、いつも強気だ。彼はまったく信じていない。
でもね、謙介。
誰かさんなしじゃ生きていけない人なんていない。ただ、まだ愛しているだけ。
だけど、これからはもう、あなたを愛したくない。