さよなら、愛しい星の瞬き黒沢蒼人(くろさわ あおと)が盛大な婚約披露宴を催していたその日、会場の外には街中の高級車がひしめき合っていた。
その頃、私の五歳の娘――梓(あずさ)は、カビの生えたベッドの縁にすがりつき、今にも消え入りそうな命の灯火を燃やしていた。
「ママ……梓、お腹すいたよ。パパに、何か食べるもの、お願いできないかな?」
彼女は私の古ぼけたガラケーを握りしめ、そこに登録されているたった一つの番号に発信した。
電話が繋がり、受話器の向こうから、客たちに祝杯を挙げる蒼人の笑い声が漏れ聞こえてくる。
「黒沢様、どちら様かわからないお子様からお電話が入っております」
蒼人が電話を替わると、その声は氷のように冷たかった。
「あいつに言われたんだろう?あの女に伝えろ。俺とよりを戻したいなら、死んでからにしろとな!」
――今回ばかりは、彼の望み通りになってしまった。
ただ不憫なのは私の梓だ。腐敗し始めた私の亡骸に寄り添い、空腹のあまり十本の指の爪をすべて噛み切ってしまっている。