振り返ることなく藤原和也と共に過ごした五年。
私は彼の信仰を尊重し、海外留学の機会を諦めた。
誰にも知られることのない白椿のように、ただ従順に彼の傍らに寄り添い続けた。
だが五年目、彼は別の女を愛した。
その女は太陽みたいに明るくて、まるで本物の白椿のようだったという。物分かりのいい女のふりをしている私とは、まるで違うと。
彼は彼女のために戒律を破って還俗し、仏堂を去った。
あまつさえ、女の妊娠が分かると、結婚まで約束した。
どうしようもない無念を胸に、私は噂の「白椿」を一目見に行った。
その夜、母の頭を銃弾が貫く写真が、私の元へ送りつけられた。
「これ以上恵の邪魔をするなら、次に写真に写るのはお前だ」
胃の腑がひっくり返るような衝撃に、私は気を失うまで吐き続けた。
次に目覚めた時、私は「恵」という存在を知った日に戻っていた。
すぐさま母を呼び戻し、海外のトップ校へ電話をかける。
「三日後、そちらへ向かいます」