愛は川の流れ如き、東へ逝く社長である夫は、私のことを金目当ての女だと思い込んでいて、鬱病が発作した初恋のそばに行くたびに、必ずエルメスの限定バッグをひとつ買ってくれた。
結婚して半年、バッグはクローゼットいっぱいに積み上がった。
九十九個目のバッグを受け取ったとき、彼は私の変化に気づいた。
私はもう、彼が初恋のもとへ行くことで泣き叫ぶことはなかった。
彼の「会いたい」という一言で、大雨の街を駆け抜けることもなくなった。
ただ、これから生まれてくる子どものために、お守りをひとつ欲しいと彼に頼んだだけ。
子どもの話をしたとき、陸川光舟(りくかわ こうしゅう)の瞳は少し柔らかくなった。
「幸子の病気が少し良くなったら、一緒に検診に行こう」
私は素直に「うん」と答えた。
十日前に流産したことを、彼には告げなかった。
私と彼の間に残っているのは、離婚協議書だけだった。