夫が娘の遺品を他人に渡した日、私は離婚を決めた早朝の市場で野菜を買って帰ると、私は休む間もなく洗って切って料理の準備をする。
ちょうど作り終えたところで、夫がドアを開けて入ってきた。
「晴海(はるみ)んちの水道管が破裂したんだ。手伝ってやってくれよ。あいつ、シングルマザーで大変なんだから」
私はエプロンを外して、須藤晴海(すどう はるみ)の家へ向かい、排水溝のつまりを直し、床の水を拭き、怯えている花奈(はな)を宥めた。
ぐったりした身体を引きずって家に戻ると、唐澤志真(からさわ しま)が、私の娘のあのセーターを手に取り、晴海に差し出していた。
「晴海、気にすんなよ。璃々(りり)ももう着られねぇし、花奈にちょうどいいだろ」
そのセーターを見た瞬間、私は思わず声を出した。
「志真、私たち、離婚しよう」
彼は目を見開いた。
「離婚?たかが古いセーター一枚で?」
「そう、たかが古いセーター一枚で」