瓦礫に沈んだ命震災から四十八時間が経過していた。私は廃墟の下敷きとなり、すでに完全に息絶えていた。
三歳の息子、森永浩之(もりなが ひろゆき)は狭い隙間に閉じ込められ、私の傷口から滲み出る血を舐めることで、かろうじて命を繋いでいた。
トランシーバーから、夫である森永行人(もりなが ゆきと)の苛立ちに満ちた怒鳴り声が響いてくる。
「街中が震災救助に追われているっていうのに、よりによってこんな時に失踪か?非常時だって分かってるのか?」
パパの声を聞いた息子は、泣きじゃくる幼い声でトランシーバーに向かって叫んだ。
「パパ、ママね、寝ちゃったの。もうすぐおうちに連れてってくれるって言ってたよ。
ママの言うことを聞いて、イチゴジュース全部飲んだよ。でも、ママ、どうしてまだ寝てるの?」
通信の向こう側が、一瞬にして静まり返った。直後、行人が半狂乱になり、ショベルカーを速く動かせと怒鳴り散らす声が響き渡った。
救助を待つばかりの息子を見つめながら、私はほっとしたように微笑んだ。
行人、おめでとう。あなたを苛立たせてばかりいた妻は、ようやく望みどおり消えてあげられる。