潮は海岸にキスせず、去っていった橘叶夢(たちばな かのん)は役所の入口に立ち、雨宮八雲(あまみや やくも)に99回目のプロポーズをした。
八雲はやはり来ず、ただ電話で淡々とこう言った。
「今結婚したら、命にかかわることになる。もう少し待とう」
叶夢が何か言う前に、八雲は電話を切った。
そばにいた友人は事情がわからず、二人が婚姻届を出す瞬間を記録しようとカメラを構えていたが、叶夢の表情を見て固まってしまった。
「八雲さんと十数年も幼なじみなんでしょう?あんなに仲が良かったのに、今日来ないの?」
叶夢は苦笑して、答えなかった。
かつて二人の関係はとても良く、ほとんど完璧と言っても過言ではない。
八雲はほぼ叶夢の人生そのものを占めていた。