同じ日の涙、同じ空の下で

同じ日の涙、同じ空の下で

last updateLast Updated : 2025-12-02
By:  ちばぢぃUpdated just now
Language: Japanese
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11歳の男子小学生・蓮は、同じクラスの颯音に淡い恋心を抱いていた。頭脳明晰で学年トップの蓮と、中性的な優しさを持つ颯音。二人は互いに惹かれ合いながらも、言葉にできない想いを胸に秘めていた。そんなある日、6年生進級の前日、二人の親がそれぞれ離婚を発表する。突然の出来事に傷つき、孤独を感じる中、同じ境遇の二人は家族の事情で一緒に暮らすことになる。365日の共同生活の中で、日常の小さな喜びや悲しみを共有し、互いの心の傷を癒やしていく。純粋な友情が次第に恋愛へと変わり、涙を流すほどの切ない瞬間を乗り越えながら、二人は本当の絆を築いていく。1日1話で紡がれる、心温まる純情恋愛物語。

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Chapter 1

第1話 3月31日 世界が壊れた日

春休み最後の夜。

窓の外では、桜の花びらが風に舞って、街灯の光に白く浮かんでいた。

明日から俺たちは六年になる。

そんな当たり前のことが、もう当たり前じゃなくなってしまった。

俺の名前は蓮(レン)。

瀬尾小学校五年生、明日からは六年生。

身長は135センチで、クラスで一番低い。

でも成績だけは学年トップ。

先生には「頭が良すぎて浮いてる」と言われるけど、別に構わない。

だって、颯音(ハヤト)がそばにいてくれるから。

颯音は、同じクラスの男の子。

身長は140センチで、俺よりちょっとだけ高い。

髪は少し長めで、肩にかかるくらい。

声も低くなくて、笑うとえくぼができる。

誰かが「女の子みたいだね」って言うと、颯音は恥ずかしそうに俯く。

その仕草が、俺はすごく好きだった。

好き。

そう思うだけで、胸がぎゅっと締めつけられる。

まだ11歳だから、恋なんて早すぎるってわかってる。

でも、どうしようもなく颯音のことばかり考えてしまう。

今日も、夜の8時過ぎにLINEした。

蓮「ねえ、颯音。明日の朝、いつもの公園で会おうよ。進級祝いに、コンビニの新作プリン奢ってあげる」

いつもなら、すぐに「いいよ!」って返事が来るのに。

今日は既読がついても、返事が来ない。

5分経って、ようやく。

颯音「……ごめん、蓮。今日はもう寝るね」

蓮「え、珍しいな。いつももっと遅くまで話してるのに」

颯音「うん……なんか、疲れちゃって」

そのとき、俺はまだ気づかなかった。

颯音の文字の端々に、涙の跡が滲んでいるような気がしたのは、気のせいじゃなかった。

9時15分。

リビングで突然、母さんの叫び声がした。

母「もう無理! 離婚するって決めたから!」

俺は自分の部屋で、スマホを握りしめたまま固まった。

父さんの低い声。

母さんの甲高い声。

「お前のせいだ」「いや、お前が悪い」って、延々と繰り返される。

ガシャン、と皿が割れる音。

ドン、と壁を叩く音。

そして、母さんの嗚咽。

俺は布団に潜り込んで、耳を塞いだ。

怖かった。

こんなの、初めてだった。

いつも優しかった父さんと母さんが、まるで別人のように罵り合っている。

俺の存在なんて、まるでなかったことみたいに。

涙が止まらなくて、枕を濡らした。

頭の中を、颯音のことだけがぐるぐる回る。

颯音の横顔。

颯音が体育の時間に転んで、膝を擦りむいたとき、俺が絆創膏を貼ってあげたこと。

颯音が「蓮ってほんと頭いいよね」って、ちょっと羨ましそうに言ったこと。

全部、全部、大切な思い出だった。

どれくらい時間が経っただろう。

ドアをノックする音がして、母さんが入ってきた。

目は真っ赤で、頬に涙の跡が残っている。

母「……蓮、ごめんね。びっくりさせたよね」

蓮「……俺、どうしたらいいの?」

声が震えた。

母さんはベッドに腰掛けて、俺の頭をそっと撫でた。

母「明日から、少しの間、おばあちゃんの家に預かってもらうことになったの。父さんとも母さんとも、しばらく離れて暮らすことになる」

おばあちゃんって、母方の祖母のことだ。

海の近くの小さな町に、一人で住んでいる。

蓮「……俺、一人で行くの?」

母はそこで、言葉を詰まらせた。

そして、信じられないことを言った。

母「実はね……颯音くんも、同じ日にご両親が離婚することになって。おばあちゃんが、二人まとめて面倒見てくれるって言ってくれて」

頭が真っ白になった。

蓮「……え?」

母「だから、明日から颯音くんと一緒に暮らすことになるのよ」

信じられなかった。

世界が壊れたその日に。

一番好きな人と、一緒に暮らすことになるなんて。

母は泣きながら、俺を抱きしめた。

俺も泣いた。

でも、どこかで小さな灯りがともったような気がした。

颯音と一緒なら。

颯音と一緒なら、なんとかなるかもしれない。

深夜零時を回った頃。

俺は震える指で、颯音にメッセージを送った。

蓮『颯音、ごめん。急に変なこと聞いて。

……お前ん家も、今日、離婚したの?』

既読がつくまで、三十秒もかからなかった。

颯音『……うん』

颯音『俺、怖かった。

パパとママが大声で叫んでて、俺のせいだって言ってて……

俺、部屋に閉じこもって、ずっと泣いてた』

颯音『だから蓮に、声かけられなくてごめん』

颯音『蓮も……同じだったの?』

涙が止まらなくなった。

俺はスマホを抱えたまま、声を殺して泣いた。

蓮『俺もだよ。

母さんと父さんが、知らない人みたいに罵り合ってて。

皿割れた音とか、壁叩く音とか、怖すぎて……』

蓮『俺も、めちゃくちゃ怖かった』

颯音『……蓮』

颯音『俺、明日からどうしたらいいかわからないよ』

蓮『でもさ……明日から、一緒に暮らすんだって』

颯音『……知ってる。

おばあちゃんから聞いた』

颯音『蓮と一緒なら……少しだけ、安心するかも』

その一文で、胸の奥が熱くなった。

涙が止まらなかったけど、同時に、初めて笑いたくなった。

蓮『俺もだよ。

颯音がいてくれるなら、なんとかやっていけそう』

颯音『……ありがとう、蓮』

颯音『蓮の声が聞きたい』

通話ボタンを押す手が震えた。

繋がった瞬間、小さなすすり泣きが聞こえてきた。

颯音「……蓮、いる?」

蓮「いるよ……颯音」

颯音「よかった……声が聞けて、よかった」

蓮「颯音だって、泣いてるじゃん……」

颯音「だって……世界が壊れちゃったんだもん」

颯音の声は、いつもより高くて、震えていた。

俺も我慢できなくなって、嗚咽が漏れた。

颯音「俺、もう一人じゃ生きていけないって思った。

パパもママもいなくなっちゃうんだって思ったら、息ができなくて……」

蓮「俺もだよ。

でも、颯音がいる。

明日から、ずっと一緒にいられる」

颯音「……ほんと?」

蓮「約束だよ。

俺が颯音を守るから」

颯音「俺も……蓮のこと、守りたい」

電話の向こうで、颯音が小さく笑った気がした。

泣きながらの、でも確かに笑顔の声だった。

颯音「蓮と一緒なら、怖くないかも」

蓮「俺もだよ。

二人で、新しい家を作ろう」

颯音「……うん」

颯音「約束だよ、蓮」

時計はもう、4月1日を指していた。

六年生になる日。

家族がバラバラになった日。

そして、颯音と俺が“家族”になる日。

颯音「おやすみ、蓮」

蓮「颯音、おやすみ」

颯音「……明日、会えるよね?」

蓮「会えるよ。絶対」

電話が切れた後、俺は初めて、少しだけ笑えた。

涙でぐしゃぐしゃの顔で。

胸が張り裂けそうな痛みを抱えたまま。

それでも、明日が来るのが、少しだけ楽しみだった。

窓の外では、桜がまだ舞っていた。

壊れた世界に、新しい風が吹き始めたような気がした。

同じ日に泣いた、俺たちの365日が。

今、始まる。

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第1話 3月31日 世界が壊れた日
春休み最後の夜。 窓の外では、桜の花びらが風に舞って、街灯の光に白く浮かんでいた。 明日から俺たちは六年になる。 そんな当たり前のことが、もう当たり前じゃなくなってしまった。俺の名前は蓮(レン)。 瀬尾小学校五年生、明日からは六年生。 身長は135センチで、クラスで一番低い。 でも成績だけは学年トップ。 先生には「頭が良すぎて浮いてる」と言われるけど、別に構わない。 だって、颯音(ハヤト)がそばにいてくれるから。颯音は、同じクラスの男の子。 身長は140センチで、俺よりちょっとだけ高い。 髪は少し長めで、肩にかかるくらい。 声も低くなくて、笑うとえくぼができる。 誰かが「女の子みたいだね」って言うと、颯音は恥ずかしそうに俯く。 その仕草が、俺はすごく好きだった。好き。 そう思うだけで、胸がぎゅっと締めつけられる。 まだ11歳だから、恋なんて早すぎるってわかってる。 でも、どうしようもなく颯音のことばかり考えてしまう。今日も、夜の8時過ぎにLINEした。蓮「ねえ、颯音。明日の朝、いつもの公園で会おうよ。進級祝いに、コンビニの新作プリン奢ってあげる」いつもなら、すぐに「いいよ!」って返事が来るのに。 今日は既読がついても、返事が来ない。5分経って、ようやく。颯音「……ごめん、蓮。今日はもう寝るね」蓮「え、珍しいな。いつももっと遅くまで話してるのに」颯音「うん……なんか、疲れちゃって」そのとき、俺はまだ気づかなかった。 颯音の文字の端々に、涙の跡が滲んでいるような気がしたのは、気のせいじゃなかった。9時15分。 リビングで突然、母さんの叫び声がした。母「もう無理! 離婚するって決めたから!」俺は自分の部屋で、スマホを握りしめたまま固まった。 父さ
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