七年経っても、心の灯はまだ灯らず産後の養生期間を終えたばかりの神原美蘭(かんばら みらん)は、子どもを連れて出生届を提出するため、役所へ向かった。
「すみません、この子の名前は賀茂律(かも りつ)です」
職員がキーボードを数回叩いたが、眉間の皺は次第に深くなっていった。
「賀茂桐真(かも とうま)さん名義の戸籍には、すでに賀茂律という名前の子どもが登録されていますよ」
美蘭は一瞬ぽかんとして、聞き間違いかと思った。
「そんなはずないです、うちの子はまだ生まれて1ヶ月なんですよ!」
その言葉が終わらないうちに、ポケットの中のスマホが震えた。
画面を開くと、桐真の秘書である浅草紗雪(あさくさ さゆき)から送られてきた写真だった。
写真には、桐真が左手で紗雪の腰を抱き、右手で6歳くらいの男の子を抱えている姿が写っていた。3人は幼稚園の入口の前に立ち、まぶしいほどに笑っていた。
その男の子の胸についた名札には、「賀茂律」という3文字がはっきりと書かれていた。