灯の影、眠れぬ夜大昭国(たいしょうこく)で最も皇帝に慈しまれた姫君が死んだ。
亡骸が見つかったのは、北方を守護する鎮守、鎮北王(ちんほくおう)こと蕭聿城(しょう いつせい)の屋敷の奥庭。
七日も前に降り積もった雪がようやく溶け、霜で覆われた亡骸が姿を現すまで、姫君の死に気づく者は誰もいなかった。
その亡骸は、大きく膨らんだ腹を片手で庇い、もう一方の手を庭の外へと必死に伸ばすかのような姿のまま、凍りついていた。
だが、その声なき声に応える者はいない。
姫君は、その身に宿した新たな命と共に、吹雪の中で生きながら凍え死んだのである。
意識が遠のいていく最中、趙婉寧(ちょう えんねい)の全身を苛んだのは、燃えるような後悔の念だった。
人の心を持たぬ、氷のように冷たいあの男を愛してはならなかった。
自ら苦しみの道を選ぶべきではなかったのだと。
結果、我が子まで巻き添えにしてしまった、この世の光を一目も見せてやることなく。
もし、来世というものがあるのなら、もう二度と、あの男には関わらない……