君を消して、君に出逢うタトゥーの施術者が声をかけた。「小林さん、本当に消してしまうんですか?その『愛』のタトゥー」
小林愛は一拍置き、静かに頷いた。「はい……全部で、何回かかりますか?」
「詰めて通っていただいて、七回、といったところですね」
七回――その響きが、鈍く胸を打った。櫻井湊と過ごした、七年という月日。そのすべてと同じ回数。
この七年間、肌を重ねるたび、湊は必ず彼女の腰に顔を埋め、そのタトゥーをなぞるように何度も口づけを繰り返しながら、熱に浮かされたように囁いた。「愛……愛、大好きだ」
愛がスマホで決済を済ませると、施術者は淡々と準備を進め、レーザーを腰に当て始めた。 記憶の熱とは裏腹な、機械の冷たさが肌を刺す。
「七回……終わったら、これ、跡形もなく消えますか?」
「いえ。タトゥーは消えますが、火傷の跡は残りますよ。まあ、いずれ薄くはなりますけど」
施術者は、何の感情もこもらない声で、さらりと答えた。