富豪夫の裏切りと、破滅のウェディング私は抗がん剤分野の研究者だ。幸せな家庭と、やりがいのあるキャリアを持っていた。
全てが順調だったはずなのに、まさにその時、人命救助の切り札となる研究薬を積んだ専用車が、まるで神隠しのように消えたのだ。
監視カメラを確認すると、車を運転していたのは、なんと高校の同級生、東雲穂乃香(しののめ ほのか)だった。
「何があなたの車よ。ふざけないで。これはうちの旦那の車だわ!」
私は焦燥感に駆られ叫んだ。「車を返しなさい!今すぐ、即刻よ!」
言い終わるや否や、電話の向こうから周囲の嘲笑が聞こえてきた。
「ねぇ、誰に向かって話してるか分かってるの?」
「あんたの車?笑わせないで。これはA国の億万長者の車よ!」
穂乃香が勝ち誇ったように口を挟んだ。
「私、もうすぐA国のお金持ちと結婚するの。彼が私の安全を心配して、特別にこの車を使わせてくれたのよ。防弾ガラス付きで、安全性は格段に高いのよ!
あんたみたいな貧乏人が、よくもこの車を自分のものだと主張できたものね?」
薬を取り戻すため、私は仕方なく穂乃香の結婚式場に駆け込んだ。
そこで目にしたのは、式場のポスターの中で穂乃香と抱き合っている男が、他でもない、三年間連れ添った私の夫、古谷風磨(ふるたに ふうま)だった。