「度し難い」という言葉の持つ複雑なニュアンスを英語で表現するのは確かに難しい。仏教用語が元になっているため、単純に「beyond redemption」や「incorrigible」と訳すと、どこか宗教的な響きが抜け落ちてしまう。
面白いことに、英語圏のファンタジー作品では『Berserk』の「The Black Swordsman」編で使われる「Apostle」という概念が近いかもしれない。人間でありながら、深い闇に堕ちてしまった存在を指す言葉だ。あるいは『Evangelion』の「人類補完計画」を説明する際の「Lilin」という表現も、救いようのない人間性を暗示している。
日常会話で使うなら「a lost cause」がしっくりくる場合もあるが、文学的な文脈ではDostoevskyの『Crime and Punishment』で使われる「unfit for grace」という表現が深みがある。日本語の「度し難い」には、単に矯正不能というより、救済の可能性すら閉ざされた絶望的なニュアンスが含まれているからだ。
翻訳の面白さは、単語を置き換えるだけでなく、文化背景までどう伝えるかにある。『Dark Souls』シリーズの「Hollow」という状態も、ある意味で「度し難い」存在の比喩として読める。こうしたゲームや文学の例を引き合いに出すと、英語圏の読者にもニュアンスが伝わりやすくなる。
翻訳に携わると、語感の微妙な差が思いのほか重要だと気づくことが多い。『粛々』は単に「静かに」だけを意味しないので、英語にするときは場面に応じて単語を選ぶ必要があると私は考えている。
まずフォーマルな儀式や公式発表なら "solemnly" や "with solemnity" が自然だ。例えば「式は粛々と進行した。」は "The ceremony proceeded solemnly." とすると落ち着いた厳粛さが伝わる。秩序や段取りの粛々さを強調したい時は "in an orderly manner" や "in a calm and orderly fashion" が合う。
一方で感情を抑えて淡々と行うニュアンスを表したければ "quietly and steadily" や "without fanfare" という選択肢もある。要は文脈──敬意、儀式性、事務的な淡々さのどれを重視するかで決める。私は常に原文のトーンを最優先にして、直訳的表現よりも読者が受け取る印象を優先して訳すようにしている。