古い資料を読み進めるうちに見えてきたのは、香具師が地域社会と密接に結びついた存在だったということです。僕は資料の断片をつなぎ合わせる作業が好きで、行商人や渡り職人の記録を重ね合わせると、香具師像が立ち上がります。奈良・平安の律令制下でも市場は存在し、地方の物産や技術が移動するルートがあった。そうした基盤の上に、より専門的に小物や珍品を扱う人々が現れたのだと考えています。
中世から近世にかけては、戦乱や移住が流通の形を変え、香具師は変化に対応してきました。客の求めるものは時代で変わりますから、売り口上や見せ方を磨くことで競争を勝ち抜いた者も多かったはずです。僕の観察では、香具師は商品の移動だけでなく情報や流行も届ける担い手として機能しており、文字記録に残らない日常文化を伝えてくれます。
余談になりますが、呼び名の持つニュアンスも面白く感じます。善意で語られる場合と、少し
卑下する口語表現として使われる場合とが混在しており、その二面性もまた歴史の深さを示しているように思えます。自分はそういう曖昧さが文化の面白さだと楽しんでいます。